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一口エッセイ:地方のオモチャ屋でレア物ソフビを手に入れた日とボードレール 岡山


 島根で見るべきものは全部見たので(Neuro-sama)岡山へ来た。ここには美観地区と呼ばれる景観があり、さらには巨大な美術館まである。「美観地区」なんて大きくでた響きがすごい。是非ともこの目で確かめてみるかと降りた結果……。


 実際に美観であった(照れ)。時代感が狂っていく街並みの統一感が心地よい。美観地区の中心にある『大原美術館』もまた良かった。なんとここにはムンクの『マドンナ』がある。このマドンナは、女性の美しさと男性を破滅させるファムファタールな恐ろしさを同時に描いたような名画で、そしてボードレールの詩集『悪の華』の表紙にも使われていますね。
 暗闇を背負った幽玄な色気のある女性の絵とボードレールの死に対する想いを綴った詩の組み合わせが堪らないのだ。


 せっかくなのでポスターを購入し、独り川の前で見惚れていたのです。きっと通行人たちは「あの人ってば一丁前にボードレールなんか読んじゃって、自分の憂鬱を彼の言葉と重ねて気持ちよくなっちゃってるのね」と嗤っていることでしょう。それでも、やはりこの絵は良い。

 川を眺め続けていると、一羽の白鳥がやってきた。「お前も僕と同じで孤独なのだな」と勝手に悲しみを分け合っていたら……


ぜんぜん二羽目がやってきた。一人でボードレールに浸る間抜けは自分だけだった。悲しくなったのでもう一つの目的、商店街にひっそりと佇むオモチャ屋さんへと向かう。
 このお店がもう、今回の一人旅で最も良い体験でした。素晴らしい!



 このお店、一応当時の怪獣ソフビなどがずらっとショーケースに飾られているのですが、実は着物屋も兼ねており、むしろそちらがメインなようでして、店内を占拠するソフビたちは「嫁さんから趣味をやめろと怒られたので仕方なく避難させている」結果なのです。なので値札もない。
 ネットでの情報もごく僅か。その中に「店主は極度な人見知りで冷やかしはすぐに追い返す」とある。こんな田舎で怪獣ソフビを飾ることが生きがいのおじいちゃんですから、絵に描いた頑固親父なのでしょう。けれども僕がショーケースに感動してゴジラの話を振ったら、とても嬉しそうに何十分も話を聞かせてくれたうえに、ガイガンも都内ではありえない値段で譲ってくれました。僕は気難しいオモチャ屋の店主に認められたのです。特別に店内の写真も撮影させてもらえた。


 店主に僕の部屋にあるソフビコレクションの写真を見せたらとても喜んでいました。「東京にはヘドラのソフビもたくさんあるんだろうねぇ」と言われて「僕の住んでいる中野のブロードウェイにはたくさんのソフビがあるのでいつか見に来てくださいね」と返し、店を後にした。
 わざわざ東京から岡山まだ来た甲斐がある、とても実りを得た旅になりました。早く家で色褪せ方が当時品らしすぎて満点なガイガンを飾りたい。地方のネットでも情報のないオモチャ屋でレアモノを店主から託される。こち亀みたいな話ですね。ありがとう、一生の思い出です♪


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