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華倫変作品がKindleで購入できるようになったので、絶対に買ってもらうため紹介する

 先月、ついに華倫変先生の単行本がKindle化したので、プレ値で買う必要がなくなりました。僕は全冊紙で持っていますけど(自慢)。

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 華倫変先生は主に00年代前半に漫画を連載し、03年に28歳の若さにして夭逝した作家です。メンタルを病んだ女性が、どこか狂った男性と出会い、特に救われる訳でもなく、ただただ終わっていく人生の様子を描いた作品が多いのが特徴的。

 大好きな作家ですので、今回のKindleでの販売開始により、多くの人が気軽に手にとってもらえるようになったのは大変喜ばしいです。

 今回は、主に華倫変先生の短編についてのお話をしていきましょう。

・高速回線は光うさぎの夢を見るか?

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 華倫変作品の中でも最もキワモノが揃った短編集。全9編のどれもが性と陰鬱な感情をテーマにしていまして、それでいて倫理的や道徳的に正しい話が繰り広げられるわけでもなく、ドロッとした感情だけが淡々と吐き出されており、これがなんとも癖になる。

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 僕が特に好きな話が、ライブチャット的な空間で自身の生活を垂れ流すことで生計を立てる少女をメインにした「ねむる部屋」。

 他人が怖くて生粋の引きこもりの女の子が、仕事のためまともな男性と性行為をするだけの話なのですが、この短い話の中で詰まった彼女の生き辛さや世間との乖離が痛いほど伝わり、彼女の気に当てられ竿役の男性ともども正気が薄れていく過程を楽しめます。

 続いて紹介するのは、華倫変作品でも最もダークで救いがなく、表題作にも選ばれた「光うさぎは高速回線の夢を見るか?」。

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 内容としては、当時の2ちゃんねるにて、自殺予告スレを立てたメンヘラ女がひたすら自暴自棄になっていくというお話ですが、実は元ネタとなった実話が存在し、その迫力とリアリティはひとしお。

 「自殺」という二度と無い体験を餌に、匿名掲示板のオタクたちに構ってもらい続けるヒロイン。彼女の発言はどんどん過激さを帯び始め、反応してもらうためなら自らの全裸すら平然と晒していきます。スレ住民の冷めたレスたちとのギャップが哀しい。

 本来ならば、自殺に際してのドラマ性や過去を描いて意味を与えていくものですが、華倫変先生の作品にそんな常識が存在するわけでなく、ただただ彼女が予告した自殺予定日に近づき続けていく。

 動画配信も容易でSNSなどを通し簡単に注意を引ける時代だからこそ、00年代前半のインターネットに想いを馳せることができる貴重な作品。華倫変先生自身が、生前はメンタルヘルス板に常駐していたからこそ真に迫る短編です。

・カリクラ―華倫変倶楽部

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 上記の短編集を読み、華倫変先生の世界観を理解したならば、上下巻の短編集「カリクラ―華倫変倶楽部」を読みましょう。先生、蝶好きすぎますね。

 カリクラの面白い点として、巻中に先生自身による作品解説があり、自分の作品を指して「失敗作だ」「駄作だ」「このオチに意味はない」と反省点や瞑想した部分が赤裸々に語られていまして、その自身の評価を飾らない正直な点が愛おしく、ときおり自信作の出来に素直に喜んでいる様子などを通し、作品以上に華倫変先生自体が好きになっていく構成に。

 中には「この作品で何を伝えたかったのだろう」と先生自体が疑問を抱いている短編もあり、この迷走している様子まで合わせて作品です。作者自体もわからない問題を解釈し、描きたかったのであろう何かを掴んでいく。そして、答えは誰にもわからない。

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 個人的に気に入っているのが、援交少女が淡々と鬱寄りな自分語りを始め、その中でなぜか画面中が常に無視で覆われている「LAST TALK 援助交際」。華倫変先生は、影響を受けた作家に「逆柱いみり」先生を挙げていまして、その影響が最も色濃くでた作品。

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 頭の悪い女の子が医学生の遊びに付き合いながらも、静かに人生がおわっていく「ピンクの液体」は、ちばてつや賞の大賞に選ばれました。華倫変作品なので読後感が良いということはありえないのですが、病んでいきながらも能天気に幸せを見つけようとする明るさは素晴らしい。

 先生は「山本直樹」からも影響を受けたと書いてあるのですが、「ピンクの液体」からは山本直樹っぽさが脈々と受け継がれているのを感じます。この短編集が今では千円ちょいで購入できる。いい時代です。

・山本直樹

 せっかくですので、好きな山本直樹作品の話もしましょう。

 友人から強くオススメされたこともあり、一番思い入れがある作品が、この「まもってあげたい」。

 華倫変先生と同じく、性についてのリアリティや歪な様を描ききった名短編集。

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 中でも、楽して儲けるだけしか考えていない男に振り回され続けるも、そのダメな男を見捨てられず、また彼のようなダメ人間と行動することに人生を見出していく「アダルトビデオの作り方」は大好きです。ダメだからこそやれる無茶があり、ダメ人間相手だからこそ惹かれてしまう……。読みながらメサイア・コンプレックスに近い感情を覚えるような作品。

 華倫変作品にハマって、他の文脈も掘ってみたくなった方は是非。

・華倫変の完成

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 閑話休題。

 カリクラの下巻では度々サディスティックな異常者として何度も登場する三好一郎なる人物についての解説が挿入されます。

 先生の解説によると、この三好一郎という男がサド気質であること、そして先生を何度も虐めては悦に浸っていた人物であることが分かる。

 本編で登場する三好一郎も、どの短編でも女性に対し異様に暴力を振るいつつも、どこかか弱く異性からモテる一面もあるキャラクターとして描かれており、解説を読み進めていくと、先生自身も実在する三好一郎の暴力を受けつつも嫌いになれない矛盾した想いが綴られ、最終的には三好が離れてしまって寂しい、彼の激しい感情をぶつけられるのが好きだったという真の感情が吐露される。

 数作の短編と解説を照らし合わせることで、華倫変という人物像が完成するのです。こんな美しい短編集が他にあるでしょうか? そして、華倫変先生は前述した通りの若さで亡くなり、まだご自身でも処理しきれて居なかったであろう先生の心情世界は永遠となったのです。



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