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一口エッセイ:何気ないネットの文章の自然体な魅力

 何度か書いていますが、僕はやはりテキストサイトが好きで育った人間なのだ。時代としてはズレていたものの、だからこそすでに廃れ始めてきたテキスト群の繁栄と衰退を遡るのが好きだった。なので、Twitterにはこうして毎日黒背景に白文字びっしりのテキストを投稿することで、その文化の火を僅かでも残そうとしているのです。
 その時期の影響が強いからか、僕は素人がネットにそっと投稿する文章に拘りがある。商業のことなぞ意識せず、しかし一部の物好きな読者に楽しんでもらえるようには整えていて、作家めいた熟れた印象もない。あくまで暇つぶしに開いた時に、なんか良い文章だなこれとじんわりしみじみする塩梅が堪らないのですね。
 Twitterとは違う。ツイートは140文字内にまとめなければならないこと、いいねやRTなど分かりやすい数値化、ネット民ウケする感情や露悪の具合でどうにでもなるので、ブログなどからぽっと出てくる無数の長文の中で静かに煌めく一文などが生まれにくい。もちろん短文ならではの輝きがツイートにはありますが。
 なので、僕は空いた時間で知らない人のブログを見つけて読み漁る。他人の飾らない文章の中でわずかに光りを放つなにかを観測するために。

 具体例を出してみましょう。
 僕は専門性のあるニッチなサイトが好きだ。けれど、その需要が本当にごく一部すぎてなかなか商業にはいかないくらいのものが特に良い。
 この前は、全国のローカルハンバーガー屋を回るブログを全部読んでいた。ローカルバーガーは良い。僕も沖縄に居たので、JefやA&Wなどアメリカかぶれな謎のローカルチェーン店で幼少期を過ごしてきました。有名チェーン店に比べてなんとも言えないマスコットキャラや、田舎ならではの広くて凝った内装、のんびりした空気が魅力かもしれない。
 全国のローカルバーガーを回る彼の様子を楽しく追っていたものの、悲しくも記事は20件くらいで更新が途絶えた。仕方ないですが、だいたいのブログはこれくらいの数で止まる。継続というのはシンプルゆえに最も難しい。
 が、その数件の記事の中でめちゃくちゃ好きな一文があるので共有します。

 "安価なのにボリュームが凄い。特にチキンサンドの存在感は最早大阪一、いや日本一かもしれない。これを、特別なものというわけでなく平気な顔をして出すのがこの店の魅力である。"

 最後の一文が素晴らしい。「特別なものというわけでなく平気な顔をして出すのがこの店の魅力」、何度読んでも味のある名文です。

 なんと言いますか、こう……的確に「プロではでてこない表現」に思える。商業作家であれば、もう少し短くするし、もうちょい見栄えの良い表現にするような気がする。お金を取る書籍であれば正解であるかもですが、これはローカルバーガーが好きというごく一部のマニア向けの個人ブログです。なら、間違いなくこの文が完成系だ。情景が想像し易いことが何より良い。きっと、このバーガーマニアのおじさんが注文した際に、お値段以上のボリュームをしたチキンサンドを見て驚き、そのうえでスッと日常として手渡しする店員の態度に「これこれ!」と歓喜したことでしょう。だって、ローカル店の店員さんにとって、こよチキンサンドは当たり前のものだから。その有名チェーン店では味わえない一瞬の喜びを、彼は切り取って投稿したのです。
 彼がローカルバーガー屋のチキンサンドに「これだ!」と喜ぶなか、そのやり取りを言語化した文章を見て、僕もまた「これだよこれ!こういう自然体の文が読みたいんだよな」と興奮しているわけです。もしかすると、僕の今回の日記を読んで「これがにゃるらの良いとこなんだよな〜」と腕組みして頷いている読者もいるかもしれない。入れ子構造だ。この肩肘張らない脱力感こそネットに転がる文章の素晴らしい点なのではと、分かる人にだけ分かればいいと今夜も拙い文章の投稿を継続できた満足感に包まれ眠りにつくのでした。

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