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にゃるらが最近読んだ本 5選2023年 1月

↑前回の。

・機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会[復刻版]

 あの庵野秀明が編集した逆シャアに関する伝説の同人誌が復刻。そうそうたるメンバーが名を連ねる、80年代後半~90年代前半のアニメ文化を語るに欠かせない本でありながら、同人誌であったため現代では値段が高騰。どんどん伝説上の一冊となっていきました。

 僕が復刻前に中野ブロードウェイで見かけた時の値段は16万! そんなプレミア同人誌が満を持して再び流通したのです。買わない理由なぞ一つもない。まだエヴァンゲリオンが企画途中の「若いオタク青年」としての庵野秀明、セーラームーンを監督するセンスフルな青年としての幾原邦彦、うる星・劇パト以降に感性が爆発しすぎて干され気味だった押井守……そして宮崎駿にVガンダム製作途中でうつ病最盛期の富野由悠季。時代がすべて詰まっている。アニメ文化にすべてを捧げた、熱いアニメオタクたちの物語。

 あの名監督たちが、互いに互いの作品を忖度なしで愚痴っている様子が面白いですね。特にみんな宮崎駿の欲望が詰め込まれているのに関わらず照れ隠しで主人公を自己投影のおじさんでなくユーモラスな豚にした『紅の豚』はダサいと認識しているらしい。庵野秀明監督曰く「パンツを下ろしきっていない」。ついでに不調気味の押井守への文句もちらほらあるが、押井監督はこの少しあとに『攻殻機動隊』で世界中から再び評価される。そして、パンツを下ろした庵野秀明は『エヴァンゲリオン』に臨む。彼らがつねに磨き続けた美意識の片鱗がこれでもかと凝縮されている。本当に、本当に今後何十年も保存して後世に伝えていくべき一冊です。


・落花生

 乙女な男性代表『嶽本野ばら』氏によるエッセイ。しかも、二度目の薬物による逮捕から帰ってきたばかりであり、すっかり売れなくなったと自虐もたっぷり。実家に戻されて母と妹と三人でひっそりと暮らす様子から、人生に疲れ切って薬への依存という「かわいくない」「みっともない」自分を責め続けている。どのエッセイもどこか寂しさがあって、これはこれで読み応えがあります。

 『乙女のトリビア』の頃は、各ハイブランドに対するキレキレの解説やスタンスを書いてくれていたのですが、今ではお金が無くなったとのことで服に関する話もめっきり減っていきました。それでも作家として、嶽本野ばらとして酸いも甘いも正直に書き連ねていく姿は、間違いなくカッコいい。

 『自己啓発するエッセイ ──非ユークリッド幾何学と田井中律』なんて、迫力あるサブタイトルのエッセイもあったり。薬物とけいおん!の話たっぷりな、乙女の世界をぜひ。ちなみに、また薬物をやらないとは約束できないとはっきり述べているところも好きです。人生、先のことはわからないですから。


・仏像に会う

 世にも珍しい「仏像」の写真集。宗教に関する本なのに文体が柔らかく、がっつり仏教を学んでいない人間にもわかりやすく各仏像の歴史や魅力を伝えてくれることが良いですね。堅苦しい本だらけだと、とっつきにくいから……。

 カッコいい……。最近、レトロな街並みを眺めるためだけの一人旅に出ましたが、今度は仏像めぐりのために京都・奈良を回りたい。
 この本のポイントは、作者が仏像に対する「アングル」へのこだわりが強い部分。最も仏像が美しく・かっこよく見えるための撮影への工夫がこめられており、同じ仏像を画像検索しても、たしかにこの写真集と較べて微妙だなって感じてしまうほど。ただの解説写真集の域に留まらない、仏像愛を感じますね。



・断片的なものの社会学

 街にあふれる些細な断片的な光景から社会を考える面白い一冊。ちゃんとした社会学というより、街でであった印象的だが事件というほどでもないエピソードと、そこから見出したものを並べたエッセイ集に近い。お節介やきな近所のおばあちゃんの行動とか、沖縄の居酒屋の店員の人生など、それこそ断片的な出来事から、なにかを見出したり見出さなかったりする、なかなか無い趣の本でした。
 筆者が沖縄好きで、やたらと沖縄に関する話が多かったのも地元民としては嬉しい。やっぱり、本土から切り離された特殊な土地としての面白さは随一ですね。もう帰りたくはないけど。

・シャブ屋の懺悔 西成密売四十年

 西成でシャブを売り続けた、一片たりとも擁護のしようのない悪党による自伝。だからこその迫力にまみれており、なぜシャブが薬物のなかでも最も邪悪であるかありがちな薬物ダメポスターなどよりも遥かに伝わる。懺悔されても世間的には許されるものではないと思いますが、それでも自身の悪業を包み隠さず書くことには意義があるでしょう。
 さて、西成ではこういった方たちによる薬物対策コミュニティがあり、そこで元ヤク中たちが集まって、禁断症状への苦しみを分け合いながら必死で療養を続けている。元シャブ極道(すごい肩書き)であった作者も、そのような目的で『日本達磨塾』を開き、西成に流れ着いたヤク中たちを救うことに精を出している。これが彼の懺悔の手段。それをどう捉えるかは、読者次第です。


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