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一口エッセイ:彼岸花

 「時事ネタやネットの話題に触れるとアカウントの寿命が縮まるぞ」とは、死んだ父親が僕に遺した言葉でした。ありがとう、父さん。周囲のアカウントを見ていたら、このことが事実だとよく分かるよ。顔も知らない人だけど。
 でも、僕は久々にその禁を破ってネットの話題に言及。残念、業(カルマ)ポイントが溜まって地獄へ真っ逆さま。もっと徳(アレテー)を積んで天国に到達しないと、死んだ父親とは再会できません。いや、息子の顔も見てない親こそ地獄にいるのか? どっちでもいいか。
 僕が何の話題に触れたか。それは、アニメ『リコリス・リコイル』のアイキャッチで、女の子たちが彼岸花をタバコのように咥えているイラストが表示されたのですね。




 もう、降参ですよ。降参。
 これから二人に来るべき「死」の暗示なのか、煙に包まれ紅く煌めく彼岸花。こんなハイセンスな絵が電波に乗って深夜アニメを視聴するオタクたちのモニターを占拠。そりゃ大興奮です。一目で「あ、いいな」と思いますもん。


 以前は、邪神ちゃんで突然の北野武映画のパロディカットが挿入されたのですが、元の北野武の美的センスが抜きん出てることを差し引いても、「花」と「美少女」でいっぱいの画面に、「いい……」と心奪われました。それだけ花と人物の組み合わせに人間は弱い。
 アニメだろうが映画だろうが、不意にこんなカットが表示されると、ああ観ていて良かったなとなるでしょう。『リコリス・リコイル』のアイキャッチもとても「良い……」としみじみしていたんですよ。
 そしたらですよ。夜が明けたら、「彼岸花には毒があるのでコスプレイヤーさんは加えないでください!」と注意喚起したツイートを皮切りに、「彼岸花くらいの毒なら処理でどうにかなる」「花の毒すら学んでない馬鹿がいるのか」「なんでも注意注意うるさいな」とか、とにかく彼岸花を咥えることへの危険性でもちきり。
 もう、絶望でしょう。どうでもいいんだよ、そんなこと。このアイキャッチがどれだけ素晴らしいかが飛んで、急にいつものインターネット・学級会。互いが互いの無知や杞憂を揶揄しあい、どんどん本質からズレていく。

 気づいた時には、「彼岸花咥えて死ねるならそれが一番いいだろ」なんてツイートを投稿し終えていました。無意識から飛び出た本心で、余計な議論は全て蹴散らし、『リコリス・リコリス』という作品が、彼岸花をモチーフにこの強いアイキャッチを生み出したことの話をするべきだし、この一瞬の美にコスプレイヤーが囚われてしまったなら、その瞬間に近づくためなら毒をも厭わない筈で、なんなら事故や病気で醜く死ぬより、彼岸花の毒に囲まれながら若い美貌のまま花葬されるなら、それはゴールの一つですから。
 3.4年前かな。友人たちと埼玉まで足を運んで彼岸花畑を見に行きました。あたり一面に咲く赤の色を見て、「幽玄」とは、このような光景を指すのだなと理解しました。ゴシックロリータに身を包んだ女性二人が、彼岸花を背景に互いの写真を撮影していて、この人たちのエンディングだなって感じたんです。
 そもそも、食べた者は「彼岸(死)」しかないと言われている花ですからね。美しい花の毒に犯されることで、その花につけられた意味通りの結末になるなら、咥えて彼岸へ渡るのも本望でしょう。そうあるべきなのだ。
 ああもう、こんなにインターネットの話題へ言及してしまった。文字を打ち込むたびにスマホがダークチップ使ったロックマンみたいに黒くなっていくのが分かりますよ。これはもう地獄行き確定です。どうせ死ぬならカッコつけて死にたいよな。人間は死をもって完成するものな。じゃあ彼岸花を咥えて死にますよ。ネットの注意喚起を無視して死んだバカとして名を残します。でも、笑顔で死んでやるから。その後に地獄の父親に「父さんの言う通りだったな」って伝えにいく。そしたら、釈迦が曼珠沙華の茎を伸ばして、今度はその残酷な花で僕を救ってくれるんだ。


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