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一口エッセイ:エアガンとクソガキ

 エアガンへの目覚めはだいたい小3くらいから始まる。駄菓子屋や祭りの出店に置いてある、300円くらいのエアガンを入手できるようになってくるからでしょう。始めは拳銃の感触にテンション上がるものの、所詮は300円。安物のバネでビョ〜ンと球が飛ぶ程度しかなく、至近距離でチラシを貫通するのがやっとである。ふざけて友人と撃ち合って一瞬騒ぐものの10分くらいで飽きる。残念ながら、子供騙しのおもちゃよりスマブラDXや激闘忍者対戦の方が5億倍面白いのだ。
 が、エアガンの本領は300円のやつではない。ジャスコのおもちゃコーナーには、1500円〜3000円くらいで、一応本物の拳銃を再現した質感のエアガンが展示されている。遠目で見れば大人でも本物か偽物か判別できないほどにカッコいい。僕らは、どうにか小遣いを溜めてみんな一丁ずつ1500円台のエアガンを入手した。
 基本的には、誰もが分かりやすく拳銃として思い浮かべるデザートイーグル型が当たりであった。構造がわかりやすく、威力も申し分ない。なによりシンプルにカッコいい。が、ここで調子に乗って3000円くらいのリボルバーやマシンガンを買うやつもいる。僕も当然リボルバーを買った側である。ルパン三世のスペシャルを観ての影響だった気がする。
 リボルバーもマシンガンも、エアガンとしては微妙であった。リボルバーはたかがBB弾なのに装填が面倒くさく、そのうえデザートイーグルより飛ばない。木にくくりつけた的(エアガンの箱の中に入ってる用紙)を狙撃するゲームではだいぶ不利となる。マシンガンに至っては、安物だとジョボボボと弾が力なく噴き出るレベルで、その情けなさはションベンに例えられた。子供ながらにシンプル・イズ・ベストを学ぶのでした。
 で、1500円のエアガンはそこそこ痛い。300円のおもちゃと比べると100倍は痛い。やっぱりクソガキなので調子に乗って友達に撃っちゃう場面もしばしばあったが、だいたい相手が飛び跳ねて怒り出すので、これはマジでヤバいな……とタブーと化す。たまにエアガンに耐えて突き進んでくる益荒男も居て、僕らの間でターミネーターと呼ばれた。実際、エアガンで撃たれながらも果敢に向かってきたターミネーター(小3)の迫力は、めちゃくちゃに恐ろしかった。なんで彼を撃つ流れになったのかは覚えていない。勇次郎のように痩せ我慢していたのか、本当に効かなかったのかはもう確かめるすべがない。そいつは後に水泳大会にて学校代表に選ばれていたので、沖縄らしい本物の海の男だったのでしょう。
 不思議なもので、僕ら沖縄の貧乏クソガキの中にも、何故か一人くらいそこそこ裕福なスネ夫ポジションのヤツは混じる。ある日、そいつはエアガンどころかガスガンを持ってきたのだ。数万クラスの。どこから手に入れたんだ。
 ガスガンは本来18禁のモノであり、子供には販売してもらえないし値段的にも手が届かない。たぶん親かお兄ちゃんのモノを持ってきたのだろう。僕らは未知の威力の到来に震えた。ガスガンはその名の通りガス圧によって弾を発射する。痛いと言えどもバネで飛ばすだけのエアガンとは飛距離も威力も比べ物にならないのだ。
 試しに、空き缶などを撃つ場面を皆で見守ったのですが、空き缶が凹むどころか見事に風穴が開く。水を入れた缶を綺麗に撃ち抜くと風穴から水がジュワッと流れ、それがまるで血が溢れるような光景を連想させ、これは18歳未満が所持していいモノじゃないと直感する。が、不思議と僕らの気持ちは一致していた。「人間に撃ったらどれくらい痛いのだろう」。危険性は重々承知の上で、皆が好奇心を抑えられなかった。
 自然と僕らはじゃんけんを始めた。当然、負けた人間はガスガンの威力を浴びることとなる。そんなの絶対イヤだが、誰かが試す必要はあるだろうと確信していたのだ。晴れ渡る沖縄の青空の下、銃を前にじゃんけんを行うクソガキの様子は『ソナチネ』そのものである。僕らの誰かが敗者となったので、彼は自然と壁に背中を向けた。せめて皮の厚いお尻であれば死にはしないと判断したのだ。スネ夫がエアガンを構え、場に緊張が走る。バンっという銃声ののち、クソガキの叫び声が響く。エアガンでは撃たれるとギャーと飛び跳ねていたが、ガスガンに当たった彼は鈍い声とともにうずくまった。もはや飛び跳ねる余裕すらない。目には涙が浮かんでいる。
 これはシャレにならんと思いつつ、さらに僕らは同じことを考えた。「これ一人だけに試しちゃったらコイツが可哀想すぎて男が廃るなぁ」と。何故かみんな意見は一致していたのだ。しかも、狙撃手であるスネ夫はガスガンを持ってきてくれた側なので撃たれる必要はないね、という理屈まで皆が同じだった。大人になった今では、なんでそう直感したかまったくわからない。痛みを分かち合おう精神はギリギリ理解できるけど。
 僕らは横並びでガスガンへ背を向けた。戦時中の処刑の様子ってこんな感じなのだろうか。スネ夫が一人一人僕らの尻を狙い撃つ。死ぬほど痛かったのを覚えている。みんな声まで出さないものの泣いている。クソガキたちがうずくまって静かに涙を流して痛みに耐える自学絵図である。スネ夫は僕らの痛がる姿に笑っていたのも印象深い。その時、「でも金持ちってそうだよな」と納得して不思議と怒りがなかったことも妙に記憶に残った。彼が居なければ、そもそもガスガンに触れる機会すらなかったのだから、むしろ感謝すべきだろうとすらみんなが思っていたのだ。子供ならではの狂った思考である。
 そんな地獄を越え、自然とみんなエアガンそのものに飽きた。お小遣いは遊戯王やデュエマに消え、身体を動かすときは素直にドッヂボールが始まる。これだけ痛い思いをしたのに、もう誰も見向きもしない。子供の好奇心の移り変わりはガスガンの弾よりも速いのであった。

 BOOTH今月で締めます。もう合同誌が少し残ってるだけですが。

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