見出し画像

一口エッセイ:孤独の集団

 眠れなくて中野から新宿方面まで歩く。歌舞伎町が近づくにつれ賑やかになり、たくさんの男女が道端で楽しそうに騒いでいる。みんな夜が寂しくないようにしたいんだ。暗いのに一人は悲しくなってしまうので。
 けれども、望んだ相手の時間をもらうことはとても難しい。そこで男女なら金銭のやり取りが発生してしまう。そのお金の流れが新宿方面に進めば進むほど色濃く見えてくる。色恋でなくともアルコールやお揃いコーデなどでの一体感にもお金が必要となる。
 結局、夜が寂しいだけなのだから、昼夜逆転していなければ問題ないかもしれないが、僕らはとんでもなく朝が嫌いで仕方がない。気づけば夜に起きて朝に眠ってしまう。起きると世界から人が消えていてぽつりと取り残されている。人は時にそんな孤独に耐えきれなくなるのです。まあ、僕はこのように誰にも話さず、話しかけず、人が賑わっている様子を横目に散歩するだけでも十分だったりしますが。
 「みんな容姿や服装でとんでもなく武装と偽装をしているだけで、ただ今夜も誰かと楽しく過ごして朝を迎えたいだけなんだ」と人々を観察し、納得して帰る。
 なんの意味もない行為だ。敢えて言うなら夏が終わって夜風の涼しさが心地よいくらいか。僕と違って大勢で話しているが、本質的には孤独で独りの「個」が集まっているな、と直接確認するのが好きなのです。これはネットではなかなか体験できない感覚ですからね。全員が「寂しくないフリ」を、「他者と盛り上がっているつもり」で孤独を誤魔化している。そんな様子がなんだか楽しい。無意味なことに時間を消費することこそ贅沢であり、贅沢を行う余裕はたいへん人間らしい。薄暗い自室も陰湿なネットも抜けだして、人間が活き活きと現実から目を背け、強く「贅沢」な一夜を過ごしている様がいいのだな。
 今朝はニチアサがあるけどリアタイはしないで眠るよ。たくさん歩いて、その途中で向精神薬を何度か服用したから眠いんだ。僕も寂しさを誤魔化したかっただけだからね。群衆に一瞬紛れて、他者と同化しているような真似事をしたくて、でもそれじゃ心が落ち着かなくて、結局薬が効いてきたので何も解決していないまま家のベッドで眠るよ。おやすみなさい。起きたらニチアサを観る。

サポートされるとうれしい。