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一口エッセイ:連載最終回とテーマの決着

 ゆめつきさん作画で僕が原作を担当していた漫画『アタマのナカの鈴せんぱい』の最終回が掲載されました。今なら1.2巻を購入すればラストまで読むことができます。もちろん最終巻も買ってもらえたら嬉しいけれど。思い入れの強い連載となりましたので、ネタバレなしでいろいろと所感を書いていきましょう。


 僕は、この作品をかなり気に入っている。最終回までの3冊分で、余すことなく書きたかったことを書き、さらには連載の途中で自身の頭も整理され、「妄想の世界」に対しての回答を自身なりに得られたからです。今回の連載は僕にとってものすごく価値のあることでした。


 本作の題材は「タルパ」。タルパとは、自身の脳内でひたすら理想の相手を想像し、まるでその人物が存在するかのように思い込み続け、この時はこうする、こういう場合はこう言うなど、こと細かな設定をひたすら練り続けた結果、最終的に目の前に実際に目の前に現れる存在が「タルパ」と呼ばれています。簡潔に説明するなら、「霊的・精神的な力によって作成された存在」。
 まるでアニメのような美少女/美少年が目の前で動き回っている生活。多感な中高生の頃は誰もが憧れたのではないでしょうか。僕も妄想の妹を精神の支えとしていた時期がありましたが、「タルパ」と呼ばれるほど強力なものではなく、現実に呑まれるにつれ気づいたら消滅してました。だから本作の主人公・クダンくんは、ちゃんとタルパが成功して、アニメ美少女との夢の生活を送ってもらったわけです。
 うじうじと悩みつつ人間関係に揉まれる少年と、少女漫画然としたフリフリなタルパの美少女の組み合わせは、ゆめつきさんの繊細な絵柄と非常にマッチし、理想の世界観を演出して頂きました。ゆめつきさんは連載が初であること、僕も途中ゲーム製作に追われたことで、連載は不定期になり、数ヶ月に一度の掲載となりましたが、どうにか無事完結し、そして社交辞令や強がりでなく心から内容に満足できたことを嬉しく思います。


 自分が過去に完結させた創作物、漫画原作ではシェアハウスモノの前作『ベイビー・ブルー・クラスター』、ゲームのシナリオでは『NEEDY GIRL OVERDOSE』、そして今回の鈴せんぱいの三作となりますが、ごくごく僅かにいてくれる僕の全てを追う熱心な読者から、エッセイやノンフィクション本まで通して「この人は伝えたいテーマが全くブレていない」と感想を頂いたことがある。半分意識的で、半分無意識だった。人間そんなに伝えたいことなんて多くないだろう。この三作の立ち上げ時、20代前半〜中盤の頃の僕が言いたいこと・悩みなんて数種類しかなく、それらを別々の物語で表現しただけだ。ただ、過程や環境が違うために差異が存在し、振り返ってみるとその違いに「自分」の変化や無意識の機微が見つかって面白い。
 僕はなぜか本作も担当してくれた編集長から妙に気に入られており、二十歳そこそこのただのブロガー(死語)でしかなかった僕を拾ったKADOKAWAの担当編集は、まったく創作に無経験な僕へ漫画原作をさせたり、エッセイ本などを出させてくれた。本作も自由なタイミングで掲載して好きな時に完結させてくれるくらいに緩く、未だこんな僕になんらかの才能を感じて接してくれる。今思うと急になんでもないアニメアイコンAに漫画原作をさせるなんて狂気の沙汰で、当然僕の力量不足で一作目は挫折した。が、この力業がなければ僕に創作の機会なんて来なかった可能性もあるのだから、これがベテラン編集長の慧眼なのか。
 間違いなく僕を一番身近で見てきた業界人なのですが、きっと僕の鬱屈や偏屈ぶりが少しずつ変わっていく様子が興味深いのだろう。完結後に自作を読み返す(この作業はめちゃくちゃに恥ずかしい)と、それがよくわかる。今後ともよろしくお願いできたら幸いです。結果的に、本作は納得のいくものになったのだから、少しずつ、非常に少しずつですが僕も進歩しているのでしょう。そうだと嬉しいね。見捨てないで。


 すでに新しい企画も出来上がりつつあり、今のところ発表されているものでは、まず小説が出ます(講談社からだけど)。他の創作物も準備発表されていくでしょうが、驚くことにどれも明らかに今まで書いてきた自身の命題とまったく違う。ついに、僕は思考のループを抜け出し、新たに表現したいことを見つけられたのでしょう。もう三十路になるわけだしね。ようやく若さの衝動を捨て去り、別の興味関心が湧いたらしい。
 さらに喜ばしいことに、漫画原作としての僕はど素人もいいところで毎回作画の方に申し訳ないくらい経験と力が足りないのですが、それでもニディガでなく漫画の方がを気に入って声をかけてくれた変わり者の編集さんも居て、そこでの挑戦もあるかもしれません。まだまだ、いや三作で一度表現したかったことを出し切ったからこそ、次もまた新たな何かを書いていきます。ネームの練習積まなきゃ……。
 もし、こんな気色の悪い作家もどきが今後生み出すものが気になってくれるなら、どうかこれからもお付き合いください。最後に本作を無事に完結まで支えてくれたゆめつき先生と、ここまで追ってくれた読者へ感謝申し上げます。あとちょっとくらいはこの世界でもがいていたい。

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