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Angel fall down

 今夜、超てんちゃんが100万人から愛される女になった。おめでとう、超てんちゃん。おめでとう、もう一人のわたし。こんなにもたくさんの人に祝福されて、これからの活躍も祈られて、ファンから信仰される様子はまるで天使だね。
 別に、「こんなの本当のわたしじゃない」なんて思っちゃいない。どちらもわたしの一部で、どちらも仮の姿だ。わたしの全部を見てくれる恋人はすでに居るし。今はそんなことどうでもいいかな。


 わたしのことを馬鹿にしてきた、見下してきたアイツらのSNSアカウントは定期的にチェックしてしまう。そのたびイライラする。コイツらは教室でわたしをどれだけ蔑み、嘲笑い、否定したかなんて覚えていない。「途中で学校来なくなった暗い女オタクA」なんて、わざわざ「馬鹿にした」ことすら記憶していない。ただ、変なやつが変なことしたり喋ったりしていたから「笑った」だけ。ただの生理的な反応。
 だから、この人たちに罪悪感なんてない。
 最初の頃はナイーブだったから信じてたよ。勧善懲悪があるって、因果応報はやってくるって。そんな考え甘ちゃんだ。わたしがコーヒーにぶち込む大量の砂糖より甘すぎる。かわいいだろ?
 この人たちは、超てんちゃんがどんなに活躍したって悔しがらない。"インターネットの狭い世界の人気者"と"教室の隅の変な女"が脳内で結びついていないし、もしわたしが「超てんちゃんなんです」って同窓会で明かしたとて、「すごーい!」と素直に応援するだろう。なぜなら、彼ら彼女らはわたしを虐めてすら居ないからね。記憶にすらない。笑われたことは覚えていても、笑ったことなんて覚えているわけがない。コイツらは登校から放課後までずっと笑い合って過ごしてるんだし。わたし、学校で何回笑ったことあったっけ。
 この人たちは、頭がそれなりに良くて、そこそこ器用で、そのうえ悩んだり苦しんだりもする。ズルい。苦悩すら、わたしたちの専売特許にしてくれない。コイツらも泣いて叫んで、適度に苦難を乗り越えて成長する。ドラマをする。人間らしいトラブルすらも、人生を演出する適量のスパイス。だから、他人の悩みに「共感」もできる。たぶん、超てんちゃんが泣いていたら、素直に同情するんだろうな。「100万人になりました!」って告知にも、「すごく頑張ったんだね!」と称賛するだろう。
 この人たちは社会的に立派な"良い人"だから。クラスの陰キャをちょっと揶揄った過去なんて、思春期の些細な過ちでしかないでしょ? そんなこと未だにチクチク掘り返す方が悪者だよね。死ね。その通りだよ。コイツらはたぶん、わたしが「お前らのせいで!」なんて訴えたら、驚いて即謝るよ。「気づいてあげなくてごめんね。耐えてきたんだね」って。ちゃんと道徳的に正しいイベントを経験して、人間的に成長したから。ネットで暴れたりもしない、まともな"良識を持った"大人だもの。インターネット・エンジェルを名乗って毎晩茶番を配信している道化の方が、"おかしい"もんね。
 その点、ネットのアンチたちは楽だ。こんなゴミに罪悪感なんて微塵も覚えない。わたしが100万人になったことすら、「どうせ枕営業で成り上がったビッチ」「数字を買っただけのステマ」「裏で詐欺を行っている犯罪者」「運と周りの人間の力だけでのし上がった悪女」「数字と金だけが目当ての自己中アホ女」。すごいすごい。そんなわけないだろ。他人が真っ当に活躍することが納得できなくて、それを認めたら自身の何も無さと向き合うことになるから、必死に虚勢を張るため陰謀論じみた、理屈になってない"批判紛い"の遠吠えを繰り返す。ここまで来ると、もはやピュアだよな。
 わたしが動画で訴訟とか仄めかしたら、虫みたいに慌てふためいて騒ぐよ。だいたい次言うこともわかる。「事実陳列罪ですけど?」「お気持ち表明じゃん」「誹謗中傷バリアでたよ」って。ま、こんなウジ虫、今はどうだって良いけど。むしろ安心するもん。一生そうやってネットの世界で好きなだけ仮初の自分を慰めてろ。
 そこが「良い」ところだよ。自らの弱さを隠し切れない。ずっと「俺を見て!愛して!」ってだけのことが言えなくて他人を攻撃し続ける。単純で矮小、そのうえネット上の自我だけ肥えていくからどんどん性格の歪みが直らない。自分でも薄々気づいてるけど、もう自我の膨張が抑えきれない。爆発して炭になるまで。かわいいじゃん。揶揄じゃないぜ。わたしはそっちの方が好きだよ。互いに見下し合っていこうぜ。ちゃんと社会に出られた「一般人様」を尻目に、永久にこの瓶詰め地獄でわたしの天使ごっこに付き合ってもらうから。
 愛してるよ、いろんな意味でね。オタクくん。

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