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選り抜き一口エッセイ: 不眠症と坂口安吾と薬物中毒

 睡眠薬を断薬しているため、眠れなくて仕方ない。その上、僕は鼻呼吸ができないので、呼吸の関係でほぼ確実に中途覚醒をする。それらを防ぐために睡眠薬が必要だったのですが、あればあるだけ飲んでしまうし、健忘などの症状も酷くてつらい。無理にでも常飲を止めた方が、結果的に不眠よりマシになるだろうと思ったのです。
 僕の話はどうでもいいとして、睡眠と薬物中毒といえば、坂口安吾が有名です。
 坂口安吾は、眠くて仕方ない時にヒロポン……つまりは覚醒剤を使用するようになります。そのせいで逆に三日四日経っても眠れなくなる。それはそれで困りものですので、次はウィスキーを飲んで無理やり眠るようになった。「覚醒」したおかげによる執筆で得た原稿料は酒代に消えたという。これでは本末転倒だ。
 さらには、ウイスキーと合わせてアドルムという睡眠薬も服用するようになった。覚醒剤→酒と睡眠薬のコンボにより、一気に薬物中毒一直線。とどめに作家仲間である太宰治の自殺を機に、鬱病まで患ってしまう。
 しかし、坂口安吾の文章はたいへん美しい。
 薬物と鬱病と友人の死に苛まれ、悩み苦しみながらも書き連ねた自意識の塊は、健康な作家からはけっして生まれない魅力と迫力に溢れている。
 文書というのは自意識や体験を切り売りするものであるので、苦しめば苦しんだ分だけ、堕落するなら堕落して地獄を見た分、綺麗な物が生まれるのかもしれない。いっそ僕もまた睡眠薬を酒で流す日々に戻ってやろうか。

 毎日のエッセイをまとめた同人誌などをboothにて販売中です。不眠の話も、お薬の話もあるよ。

 先月に発売した商業エッセイ集は、↑の内容より、さらに濃いです。是非よんでみてね。

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