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帰国と決意と

 一週間ぶりの日本。
 街中の人たちが聴き慣れた言語を話し、数分歩くと必ずコンビニが存在する。スーツ姿の大人たちが忙しく右往左往し、時間通りに電車が到着する。世界でもトップクラスの治安の良さ。

 アムステルダムでは右も左も薬物だらけで、マクドナルドの店内ではマリファナのやり過ぎでふらふらになった女性が大笑いしながら倒れて、手慣れた店員のおばちゃんも笑いながら店外へ連れ出した。日本であれば朝刊に載っている出来事が日常である。場所が違うだけで常識はこんなにもちがう。
 ルールなんて国の環境によって設定された人為的なモノでしかなく、善悪とはなんの関係もない。治安は刺激と相反する。同調圧力と忖度で成り立った島国では、余程のことが無いかぎり日常生活において安全。自販機だってそこかしこに設置されており、悪者がこじ開けてお金を奪うなんて考えもしない。
 それでいいのだ。

 窮屈さに辟易した日本人は自然とサブカルチャーを発展させた。オランダもドイツも、ショッピングセンターには必ずポケモンやジブリ、ジャンプ漫画のコーナーがある。現実で暴れられない代わりに創作だけが独自に急速な成長を遂げた。なんと面白い国なのでしょう。今回の旅で出会った人たちにジャパニーズと名乗ると、たいていアニメ・マンガの話で盛り上がる。
 が、世界はすでにサブカルチャーでも日本に追いつき、いや瞬間瞬間において日本を上回ることすらある。特に美少女ゲーム文化は完全に海外に敗けつつあり、もはや日本のものだけではない。去年は中国にも行きましたが、彼らも日本のコンテンツへのリスペクトとは別に、勢いを伸ばしつつある自国の作品を愛していた。
 彼らには「飢え」がある。

 飢えは無敵だ。生み出さなければそのまま乾いて死ぬのだから必死になる。サブカルが飽和し、もはや可処分時間の奪い合いとなった日本に「渇き」は無い。今回僕が回ったヨーロッパ圏でのオタクの肩身は非常に狭く、その孤独は歪みと同時に力をもたらす。海外からは次々と独創的なインディーゲームが生まれ、僕らはそんなハングリーな強者たちと戦うことになる。インターネット・エンジェルは今も世界中で迷えるナード羊の信仰を集めている。彼女はよく頑張っているよ。
 今回、お目当てだったアーティスティックな建物と美術館、宗教建築を回った。自分の人生で最も視覚的な感動のあったシュレーダー邸での体験も、落ち着いた近日中に記そうと思う。僕はついに美の原点へとたどり着いた。
 楽しかったよ。アムステルダムのヤク中たちはヒッピー精神を持つ僕を友人のように迎えてくれたし、気難しいドイツ人たちへはクラフトワークへの愛を語ると心許して街を案内してくれた。言語や人種の壁を越えてアングラとサブカルを通した交流が行われるたび、この広い場所で戦い、彼ら彼女らを驚かせたい気持ちが湧き上がる。孤独な旅行者である僕の寂しさへ寄り添ってくれたぶん、日本人として創作でお返しせねばならない。
 今回撮った写真、肌で知った文化はすべてアニメ製作へ活かす。そう遠くない未来、必ず世界中の寂しいオタクたちに僕が一瞬でも孤独を忘れ去せる作品を届けてやる。彼らが僕を差別しなかったように、僕も彼らを等しく、同じ視点を持ってしまった世界中の数奇者たちと、煌めく感性に振り回されるゴス少女たちのために、長く険しい製作期間、僕の2年間をあげるよ。

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