一口エッセイ:僕のAirPodsを盗んだ人物の動向を見守ろう!
イヤホンを落とした。かなしい。
今日は12時からKADOKAWAの編集と打ち合わせがあり、12時に新宿であれば、僕は10時半くらいに起きて準備しなければならない。そんな朝早くに僕が対応できるわけもなく、めちゃくちゃにフラフラ。本当におぼつかない足取りで帰宅したため、気づけばイヤホンを紛失していたのでした。
が、現代には文明の利器がある。スマホからイヤホンを探すことができるのだ。早速自宅からサーチ開始……。
なんかイヤホンが中央線に沿って中野→府中へ移動している……。
おかしい。僕は中央線には乗っていない。なので電車に忘れてイヤホンだけ移動しているはずもない。仮にそうだとしたら、しばらくたって動き出すのは変だ。つまり、誰かが僕のイヤホンを拾ったあとに電車へ乗車したとしか考えきれない。
この時は、ただただ意味不明さに笑っていた。心にブレーキがあったのだ。「まさか他人のイヤホンを盗む人間は居ないだろう」と。まず、どこの誰が使ったかわからないイヤホンを耳にハマるのは不快だろう。さらに、Airpodsはご覧のとおり現在地が特定できるのだ。リスクが高すぎる。
しかし、イヤホンはアプリを開くたび西へ進んでいく。綺麗に中央線に沿いながら。東京の真ん中をゆく。この様子がシュールで一通り笑い、友達と共有してネタにしていたところ、一人の返信で凍りついた。「絶対に届けてくれない」と極めて冷静な意見がきたのです。そりゃそうだ。落とした場所は新宿。良心があるなら新宿の交番や駅に届けるであろう。間違っても拾ったまま府中方面に行くはずもない。途中で善の心に目覚めて、三鷹あたりの交番へ「これ落ちてました」と届ける可能性なんてありえない。つまり、僕のイヤホンはほぼ確実に返ってこないのだ。それまで笑うことで誤魔化していた。さすがにどうにかなるだろうと。が、あの一言でスッと背筋を正し、ことの重大さに気づいてしまった。これ無理だわ。これは人間の善性を信じるタイミングとかじゃ全然ない。この人普通に私物にするつもりだよ。
元はと言えば落とした僕が悪いし、相手がどこまで罪悪感があるかもわからない。案外、「イヤホン落ちてたラッキー」くらいで、盗んだという感覚がない可能性もある。そこまで恨んじゃいないが……一応「紛失モード」にする。設定すると、イヤホンを取り出した瞬間、相手のスマホに僕の電話番号が表示されるらしい。もし、彼か彼女が画面を見てハッと罪を自覚したら、「イヤホン落ちてましたよ。なぜか立川で」と電話をくれるかもしれない。その場合、なんで立川なんだよとはツッコまないでおこう。……が、そんなことはなかった。拾い主はなんとイヤホンケースを開き(そういう通知がでる)立川駅で降りて、堂々と立川市周辺を散策し始めた! 他人のイヤホン嵌めてIKEA行ってんじゃねーぞ。このタイミングで相手のスマホに僕の電話番号が「連絡してください!」と訴えているはずだが、そんなことはどこ吹く風、拾い主の気持ちはAppleが誇る魔法のように質が高いサウンドに夢中。
そこでもう一つの必殺技、「サウンドを鳴らす」を発動できる。これは文字通りにイヤホンから音が鳴るらしい。家の中で失くした際に便利だね。もちろん装着中に鳴らすと確実に相手を不快にさせられるだろう。けれども、ここで一つ疑問が生じる。嫌がらせしてどうなるんだ……?
相手がノリノリでミュージックを堪能している最中に音を鳴らしてビックリさせたとしよう。相手は不意に謎の音が鳴るイヤホンなんて気味が悪いと怖がるはずだ。しかし、怖がったところで交番に持って行きはしない。元は新宿にあったイヤホンを「これ落ちてましたよ。あと変な音や番号が表示されるけど気にしませんでした!」って立川の警察に説明することあるか?
が、好奇心には勝てない。どうせこのまま持って帰られるならと音を鳴らしまくってみる。するとどうだ、イヤホンはケースから取り出されたまま、立川駅周辺で固まった。つまり……急に音が鳴ったことで持ち主が怒っていることが伝わり、さすがにその場で捨てたのだ! すごい。遠隔なのに相手の考えが手に取るようにわかる! ランダムなタイミングで嫌がらせされるイヤホンなんて要らないよな。でも交番に届けて偽善者面するには遅い。なら捨てるしかない。やっぱりそうなるわ。なった。僕もゴミ箱まで(ちゃんとゴミに出したかは知らないが)漁りに行くつもりはない。結果として誰も得しないまま決着となった。
一応、落とし物センターへ連絡してみる。「持ち主が中央線に乗っていないのに、新宿で落としたイヤホンが立川駅周辺にある可能性が高い」ことを説明するのが難しく、伝わっても気休め。気づけばイヤホンは連絡不能となった。電源が切れたね。なんとも悲しい出来事であった。変に追跡できたせいで、一人の人間が悪に徹するまでを見守ることとなった。僕の不注意がきっかけ。次から気を引き締めていくしかない。できれば打ち合わせは15時以降だと嬉しいです!(業務連絡)
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