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想像力の欠如が人を怒らせる……「ケーキの切れない非行少年たち」感想

 「ケーキの切れない非行少年たち」が話題になっていまして、この新書は児童精神科医の著者が、何度も非行少年たちへのカウンセリングを繰り返し、彼らがどのように思考し非行へ至ったかを解説した一冊です。

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 そして、こちらが表題である非行少年がケーキを三等分と五等分した図。ケーキ五等分と言えば……「五等分の花嫁」のおまけマンガですね。

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 三等分はともかく、五等分の方法を一瞬で思い浮かばない方も少なくないでしょう。しかし、非行少年が描いた図は明らかに平等性が欠けており、恐らく等分を理解できていません。

 Twitterでの紹介ツイートの多くは、この部分までの引用であり、バズっているツイートのリプライツリーでは、非行少年たちの常識や教養の無さを叩く罵詈雑言が散見されました。

 当然「ケーキの切れない非行少年たち」は、等分ができない非行少年たちの無知を嘲笑うような本ではありません。なぜ彼らが常識外の行動や思考をしてしまうのか、その認知の歪みに迫る本です。

 興味を惹かせるためのキャッチーなタイトルの代償でもありますが、本書に対して非行少年への怨みつらみやをぶつけたり、彼らの素行の悪さを嘆くのは間違っています。なぜなら、非行に至るまでには必ず理由があり、善悪の前に因果や動機を紐解く必要があるからです。上記のツイート、タイトルを誤記してしまっていますね。申し訳ない。

 沖縄出身かつ不登校寄りだった自分は、このような人たちの思考はある程度理解できるつもりです。不登校仲間だった友人にも、ケーキを三等分できないような方は思い当たります。彼らは日常的に万引や喧嘩、学校ではサボりやカンニングを行いますが、中にはそれが「なぜ悪いか」を理解していない生徒も居ました。

 例えば、僕が中学の頃によく通っていたゲームセンターで、軽く蹴飛ばすだけでコインがクレジットされ、実質ただで遊べる筐体がありました。彼らは店員の目を盗んで筐体を蹴飛ばし、メタルスラッグを無料で遊び続けました。しかし、彼らはその行為に罪悪感はありません。むしろ、そういった裏ワザを発見した少年らしい高揚感に溢れている。

 もちろん、法的には彼らは真っ黒ですが、小学生の頃に流行したポケモン金銀の増殖バグの延長線上のように、ただでゲームを楽しんでいる彼らにとっては、メンテナンス不足で穴を作ったゲームセンター側に非があると認識しているし、なによりゲーセン側もエミュレーターを利用し大量のソフトを搭載した違法基盤を使用しており、登場人物、全員悪人。

 閑話休題。では、そんな彼らに正しい説教をするとどうなるかと言うと、もちろん右から左に流すだけ。なぜなら何が悪なのかわからないから。相手の努力が理解できず、それを無下にした際にどう思われるか考えたこともないから。想像力不足からくる、共感性の欠如、いわゆるASDの症状とも繋がってきます。全員がASDという訳ではありませんが。

 僕も人から常に怒られ続けてきたので、よく分かります。今でこそ「このような発言をすると、このような傾向の人間は怒る」と何度も繰り返しパターンを覚えることで、少しずつ解消されてきましたが、今でも失言して叩かれることは多々あります。

 このパターンや常識に気づく前に、失敗に起因したイジメや指導のトラウマで不登校や孤独になる非行少年も多い。最も常識やパターンを覚える機会のある学校という場所が抜け落ちると、簡単に社会の輪から外れていくのです。

 このツイートでは、自分がぼけっと口を開けているから怒られたと書いてありますが、当時はなぜ怒られたのかそもそも分かっていませんでした。「普通の人は鼻呼吸ができるので、真剣な場面では口を閉じて硬い表情をする」という常識が分からず、どうすれば話を聞いていると態度で示せるのか検討がつかなかったため、辿り着いた答えが不登校。

 成人してからも無自覚に他人を怒らせてしまうケースは何度もあります。早く人間になりたい。

 当時の僕にケーキを三等分しろと言われても、冒頭の非行少年たちのようにデタラメな図を描くでしょう。話を戻すと、こうした教育や反省以前に認知が歪んでしまった少年に対し、どう接していくと良いのかを指導者の立場にある大人たちに向けて書いてあるわけで、決して非行少年を小馬鹿にする意図はありません。

 とても読み応えのある本ですので、タイトルや図への条件反射で非行少年を揶揄してしまった人たちにこそ読んで欲しいと思います。反射で叩いた人たちもまた想像力の欠如ゆえですから。

 特に興味深かったのは、殺人を行った少年が自分を「優しい人間だ」と言い張った例です。理由や動機は本書を手にとってお確かめください。

 さて、唐突ですが途中で言及した「五等分の花嫁」は紛うことなき名作です。彼女たちは単純に頭が悪いのでケーキを等分できませんが、そんな彼女たちが恋愛や夢に向かって勉学に勤しむ姿は感動があります。

 喜びも悲しみも五等分にしてきた彼女たちが、初めて抱いた恋愛感情に悩まされ、裏切り、共感し、愛を知り、学び……人生において大切なことが全て詰まった、掛け値なしに素晴らしい作品。

 ちなみに僕は二乃が一番好きです。五つ子の中でも最も女性らしい一面や、典型的なツンデレキャラとも違う、絶妙な感情の振れ幅の塩梅がとても可愛らしいですね。いい子ゆえに最近は逆に他姉妹を励ましたり後押しする場面が増え、それゆえに恋愛的なメイン回が減った印象で少し寂しいです。それを差し引いても好きですけどね。とにかく姉妹想いで、それでも恋愛に関しては妹たちをドン引きさせるほど暴走したり……。

 五等分の花嫁、最高!

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