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見下し、見下されている

 人間はとても怖がり屋だ。
 自分が見下されて嘲笑されることを非常に恐れている。
 自分も含め、ネットからの人間が作品を出すと、確実に「コイツは一般人を見下している」と言われる。ここで指している「一般人」はネット民とイコールでいいでしょう。こういった野次が書き込まれる場はSNS(ネット)ですから。今や一般人とネット民の境界を明確に線引きするのは難しいでしょうし、ここでは「一般人」の定義は二の次だ。ひっくるめて「大衆」でもいい。単純に人々が「コイツは一般人(自分たち)を見下している!」とわざわざ投稿することに興味があるのです。
 むしろ大衆が他者を見下して居なかったことがあるだろうか。僕がTwitterアカウントを開設し、初めてネット上で自我を発信し始めたころは、よく「沖縄のバカ底辺」といった扱いを受けた。が、それは紛れもなく事実であるし、自身もそれを自虐ネタ……つまりはアイデンティティとしているので特にコンプレックスを感じてはいません。あなた達は僕の出身地や、そこから派生した粗暴で頭が悪く女癖が酷いイメージを笑って安心し、僕はそうした道化の振る舞いで他者から見てもらえることに安堵する。互いにWin-Winの関係です。まともな能力を持たざる者は、弄られなかったら存在が消滅する。
 そのうえで、僕も沖縄人(うちなーんちゃ)へのネット民が持つイメージに該当する部分も大いにあるし、また何を隠そう僕自身も沖縄の空気感を嫌悪したため上京したのであるし。ただ、若者がいろんな意味でがむしゃらだった結果でしかないと認識しており、僕はこれまでの自分に「生きてきただけ」とも思っている。そのうえで生き様が滑稽で不快なので見下される。特に、作家としての仕事が増える以前は、周囲の年齢が近いアニメアイコンたちも卒業や就職で血気盛ん。いわゆるイキりもコンプレックスも頂点に達し、僕のようなネットでこそこそ文書を書いている沖縄人を毎日のように小馬鹿にされてきました。
 とはいえ、お互い様である。僕は「ネットに骨を埋めるぞ/何者かになるぞ」と息巻く人間たちが、(本人の主観で紆余曲折あったとはいえ)普通に就職していく様へ怒りと嘲笑を感じており、そこにはコンプレックスもあった。そもそも「現実に馴染めなかった人々の集まり」という前提がまだ強かった時代のジメジメしたネットにおいて、「みんな等しくバカだから煽り合いながらもたまにポロッとでた弱音や本音に暖かさを見せたりもする」くらいの環境だったのは事実。
 そこで急に、「こいつは大衆を見下している!」と突きつけられることが不思議で仕方がない。では、あなたは社会やネットに蠢く有象無象をリスペクトして生きていているのか? 「すべての人間……彼ら彼女らにもそれぞれ事情や問題があって、その差異が様々な方法で発露したかことが面白い」くらいでしかない筈だ。なんで、そこで博愛主義やキリストじみた隣人愛が基準に参照される? なぜ、ここにきて相互作用を無視して「見下されている」と表現するのか。こんなまだ若さを残した段階で聖書のような道徳観や倫理が出てくるよりも、「人間は等しく愚かで、だからたまに愛しくもある」前提で話している方が理解できると思っている。この段階において嘘の皮を被って人々を安心させろと、僕らを好感度の奴隷にする必要性がわからない。
 僕が作品や意見を世に出すたびに感想や批判でなく人格攻撃に撤しゴシップを元に嫌悪感をぶつけ続けるネット民に対し、そのうえで本人たちの持つ「いつかは何者になれるからと自分を棚に上げている全能感」までひっくるめて、僕らは無条件で愛し、同じ目線で見なければならないのか。僕なその行き場のないSNSの人々の攻撃性、コンプレックスの裏返しは「嫌いじゃない」。これは紛れもない事実で、証拠として僕もまた同様の感情を抱いた時期は長かった。それこそ「散々ネットでイキり散らした後で普通に就職する」人間に対しても。
 だから、平等でしょう。本当に見下していたら無視をする。視界から外す。けれども、僕が先月出版した小説でアニメアイコンをテーマにしたのも、やっぱりあの日の自分含めて、SNSによって増長していく自意識や、むやみやたらに増幅されていく感情の置き場の無さからくる暴走を、憎みきれないからです。
 それこそ好感度調整のために綺麗事でコーティングされた世界よりは、よほど住み良いでしょう。僕は結果的に這い寄る混沌の名を背負って活動してしまったからには、秩序以上に混沌を愛さねばならないし、事実愛憎入り混じったカオスを堪能している。
 「僕たちを見下すな!」と、隣人愛を盾に相手の個性を平坦にしようとする大衆らしさを僕は嫌悪するのでしょう。それを見下されたと言われたならその通り。けれども僕は好感度を気にしてネットが「炎上しないゲーム」と監視された秩序化することが最も息苦しいのだから、こうして思ったままをバカの底辺なりに弄してしまうのです。

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