シナリオを書き上げたことと、大人が「勝利」を確信する瞬間
シナリオを書いた。
あまりに筆へ魂を込めすぎ、話の内容に引っ張られていたこの半月、日記を読み返すと驚くほど精神が乱れていた。不眠や徹夜、自暴自棄などあらゆる不調で大変な二週間でしたが、無事に納得のいく出来の原稿ができあがりました。
大人が僕の書いたシナリオで「勝利」を確信する瞬間を、僕は二度経験している。
一度目はニディガの企画書をプロデューサーへ見せた時。ゲーム製作の経験なんてからっきしの僕を信頼してすぐに製作体制や費用をかき集めてきた。あまりの勢いに面を食らったものの、今となってはプロデューサーの判断は大成功となる。もちろん、スタッフたちの尽力あってこそですが、企画書を見た大人が「いける!」と即断した瞬間は印象に残っている。一千万以上のお金と数年間をコイツに賭ける価値があると、僕の生き様を肯定してもらえたのですから。
そして昨日。
今回はニディガの時とも違い、関係者も増えて、新たな大人たちが続々と登場した。大きなことが起きる。スタッフ数や製作費もニディガ時の倍どころか文字通りケタ違いであり、喜ばしいことにその額を持ってさえ「僕のやりたいこと」へ賭けてくれるのです。僕はその期待に応えねばならず、何よりゲーム製作前よりも多くのことを経験し、学び、苦悩し、研ぎすませた感性を形にしなければならない。原稿を書く時はつねに独りだ。後の作業はともかく、テキストだけはつねに己一人との戦いでしかない。
文字は呪いであり祝福である。登場人物の感情の振れ幅に連動して自身の精神も左右される。感覚的には死ぬかと思った。僕は映画や本を除いて自分のことで泣いたことが成人以来2度しかない。ニディガのあるルートの超てんちゃんを書いている時、そして今回の原稿でした。確実な手応えはあったものの、徹夜なので正常な判断がつかず、独りよがりではないかと不安も募る。
……が、その予感は杞憂であった。
なんとも嬉しいことに、大人たちは僕が提出したシナリオにとても喜び、社内のいろんな人間に共有して感想を聞いたり、ニディガの時からのプロデューサーは声が震えて泣きそうになっていた。「これは命を削って書いただけはある」とすぐに理解してもらった。それだけの迫力を感じてもらえたのです。彼らは「これは勝ちましたね!」と確信する。
そう、大人たちは僕とちがって「好きなように作品をつくる」立場ではない。たくさんの関係者全員が、携わった企業が、何よりプロデュースした本人が幸せになるため、「商業的成功」も視野に入れなければならない。要するに利益だね。しかし、そういった商業的な面までひっくるめて「勝つ」と感じてくれたのです。もちろん、そのこと自体も嬉しいですが、何より「いっしょに作品をつくりたい」と申し出て集まってくれた大人たちが、今後の数年間を僕へベットした事実を誇りにしてもらえたのが嬉しいのだ。そして、寝床でウーウー唸された半月の間たくさん迷惑をかけてしまったニディガのプロデューサーも、そんなことはどうでもいいと絶賛してくれたのもやはり嬉しい。彼が「勝利」を確信した瞬間を見たのは二度目である。
ただ、「こんなものを書き続けたらキミはいつか本当に死ぬよ」とも言われた。それは本当にそう。こんなことを続けていたら、命までは無いとしても発狂して数ヶ月潰れるとかは全然あるでしょう。ともかく、今回は耐えられたのだ。今後のことはまた次に考えればいい。
というわけで、数年後の匂わせです。ようやく匂わせていいほどに形が見えてきた。僕に嗅覚はありませんがね(障害者ギャグ)。まだまだ先は長く、他のテキストも、それを最大限効果的に演出する作業も山のようにあるが、関係者が「これは間違いなく作る価値がある!」と感じてもらえる分水嶺は超えました。発表自体も一年以上先かもしれませんが、それまで今日の日記を覚えていれば是非「これのことだったのか!」とビックリしてくださいね。
それはともかく来年も、この企画とは別にいろいろ作ってきたものがぼちぼちある。数年単位のものより規模は小さいですが、そのぶん工夫や自由性の手応えを感じているので、それはそれで手にとってもらえたら幸いです。まずは年明けの小説ですかね。
よかった。今日は久しぶりに心地よくぐっすりと眠った。プロデューサーがウォッカを用意してくれたので、ぐびぐび飲んでいると数年ぶりくらいにめちゃくちゃ酔ってしまった。空きっ腹と徹夜の眠気で一気に持っていかれ、気づいたらソファで眠っていました。断片的な記憶の中では、ずっと押井守と庵野秀明の話をしていた。どうやら感情が解放されると僕は押井守と庵野秀明の話を延々とするらしい。付き合わせてしまって申し訳ないですが、ようやく楽しい時間を過ごせました。こんなワガママな子供相手に見守ってくれるみなさんの存在は大変ありがたい。なおさら成果物で恩返しせねばなりませんね。
まあ、さらなる地獄はこれから。きっと来年は来年で製作時のあらゆる困難とトラブルが待ち構えていることでしょう。やれるだけやる。どうせそれしかやることはないのだ。考えようによっては「これをやるしかない」と方向が定まっているのだから、後はそこへ突き進み続けるだけでいい。これは幸福なことだ。まだまだ寝足りないのでもうちょっと眠ります。おやすみなさい。
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