一口エッセイ:会ったことのない義姉
長いエッセイ投稿人生でも1.2回くらいしか書いたことのない情報ですが、僕には義姉が存在する。漢字の通り、義理の姉です。なぜ何でもかんでも書き殴っている日記にすら登場しないかと言うと、一度も会ったことがないからだ。パスポート取得のために戸籍謄本を確認したら名前が載っていたので、数年ぶりに存在を思い出した。
というか、義姉の名前を知るのは初めてだ。義父の連れ子であるわけだから、現在の僕の苗字と同じ……わけでもなく、既に結婚しているので苗字も違った。元から血が繋がっていないうえに苗字も違うので、なぜか戸籍謄本に名前が連なっているだけのマジの無関係な人物である。義父の娘のことなんて一ミリも興味がないので、名前以外の情報は一切ない。ちなみに名前の響きはわりと優しそうで好きだ。ここには書かないけれども。
しかし、数年単位で存在を失念している関係ですら、戸籍上は「家族」なのだから不思議だ。家族どころか姉弟である。面倒なのでずっと「一人っ子」と話してはいるが、厳密に答えるなら「姉」がいることとなる。僕はともかく、向こうは既婚者で家庭がある。ますます「父親の再婚相手の会ったことない連れ子(義弟)」のことなんか頭にないでしょう。どうせ喋る話題もないのだから、このまま永久に会わないでいたい。向こうは向こうで、僕なんかのことを一片足りとも意識しないまま旦那と幸せ(なのかは知る由もないが)に暮らしてほしい。
別に義父と義姉の仲が悪いという情報は聞いたことがないし、なんなら僕の実母は義姉と何度か会ったことがあるらしい。つまり、向こうも一応は義弟がいることを知ってはいるのだ。詳しく知らなくて良かった。急に引きこもりの高校生オタク……自分で言うのもなんだが部屋中、特撮のオモチャか美少女アニメ・ゲームのポスター、あとは本とプラモだらけの空間で筋金入りのキモオタが突如「弟」として発生したのだ。めちゃくちゃにイヤな気分だろう。しかも、僕は「義父に母親を奪われた代わりに部屋を与えられて閉じ込められた」と本気で思い込んでいたし、高校を卒業した瞬間、勘当同然に沖縄から逃げた。というか今も逃亡中とも言える。平穏な沖縄の家族たちからすれば生きる爆弾でしかない。今後も一生会うこともないだろう。
そんな変な義弟がいたこと自体は耳に入っているはず。なぜなら義姉は義父や僕の母とは「家族」として当たり前に交流しているのだから。想像に過ぎないのでなんともだが、恐らく自分の子供の面倒を僕の母親に診てもらったりするような、アットホームな一幕があったりしたんじゃないか。時には義父(相手にとっては実父)と対立したりもしただろう。それを旦那や義母(つまり僕の実母)に宥められる夜もあるのかもしれない。フルハウスよろしく最後は暖かいBGMとともに和解して感動のエンディングだ。そして、また慌しい朝が始まる。
その全てと僕はまっっったく関係ないのである。戸籍上の登場人物と全員家族として繋がっているのに! そう考えると大変なことだ。仮に僕が誰かと結婚したとして、それすら向こうは戸籍謄本上でしか確認できない。逆に言えば、戸籍謄本さえあれば互いに生死と家庭状況くらいは一方的に知ることができるのである。住所は届け出をしなければ誤魔化せるが。
別に恨んじゃいない。冒頭に書いた通り、そもそも数年間マジで忘れてたくらいに他人すぎる。もはや変に関わると面倒そうなので、暗黙の了解として互いに一人っ子であると認識したまま墓まで入った方がいいだろう。そういう意味では「会ったことのない共犯者」とも言える。なんとも奇妙な関係だ。現実とは、こういったドラマにならない極めて微妙なことがたくさんあるのですね。
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