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一口エッセイ:衝撃!ローゼンメイデン

 子供の頃、僕が住んでいた沖縄ではいっさい深夜アニメが放送されないアニメーション不毛の地であった。そのぶんニチアサに大ハマリすることとなり、オタクとしての基盤ががっしり形成されたのは幸運なことでもありますが。
 そのうえ、僕は登校するよりもサボって家に居る日数の方が多いタイプの小学生であったので、とにかく家で時間を浪費するためのアニメやゲームを欲した。が、そう簡単に一本数千円のゲームを買ってやることもできない。みかねた母親がとった解決策は、24時間アニメを放送してくれるチャンネル『キッズステーション』と契約することで、とりあえず僕にアニメを観させ続けて放置することだったのだ!
 この作戦は見事に功を奏しました。毎晩毎晩、知らない過去の名作たちが放送されていくので、小学生ながらに芽生え始めていたオタク心へ完全に火を点けた。『機動戦艦ナデシコ』『シティーハンター』『ルパンTVスペシャル』『各ガンダム作品』……などなど、放送してくれるのだからとにかく全てを録画し、視聴した。この頃、たまたまスパロボαシリーズにハマっていたこともあり、名作ロボアニメの放送が非常に楽しみでした。毎晩キッズステーションを点けては『勇者王ガオガイガー』に燃えていたものです。
 そんななか、ついに番宣が流れてしまった。そう、『ローゼンメイデン』が。
 もう電流でしたね。短いCMには、球体関節の美少女たちがゴシックな雰囲気を纏って意味深な表情を見せており、極めつけにはALI PROJECTのOP。
 「薔薇の手錠 はずして 白い手首かさねて 触れ合うことの奇跡 あなたが愛おしい」……なんて歌詞だ。これがアニメのOP!? OPって、主人公の名前とか機体名とか叫ばなくていいのか!? だって、さっきまで流れていた番組のOPは「ガガガ ガガガ ガオガイガー!」だぞ。それがおまえ……「跪いて捧げよ 痛い愛の言葉は 包帯(ガーゼ)に滲んだ 赤いアラベスク」だ。こんなカッコいい歌詞があっていいのか。
 怖かった。小学生でもわかる。これは、今まで僕が観ていた朝や夕方のアニメじゃない。大人が嗜むのであろう「深夜アニメ」の世界だ!!!
 もう急いで放送時間のチェックですよ。速攻で録画準備を始め、『ローゼンメイデン』なる未知の脅威へ万全の準備を期す。そして放送が開始され、流れ始めるALI PROJECT。こんなの小学生が耐えられるわけがない。一瞬、一瞬で脳内の価値観がすべてひっくり返る。それまでの僕が最もカッコいいと思っていた『ウィングガンダムゼロカスタム』が、『水銀灯のスカートに刻まれた逆十字』へと塗り替えられ、真紅や翠星石が喋るたびに「こんなかわいくも美しい乙女たちがいるのか……」と感嘆の声が漏れていく。
 気づけばもう、引き返せないところまで登っていた。その後もキッズステーションは、『地獄少女』や『ダ・カーポ』を放送。もちろん、それらも余すことなく浴びてしまった哀れな少年は、中学に上がるころには僅かにあった思考能力はすべて「萌え萌え美少女」へ向けられてしまったのだ!
 はじめて水銀燈に触れた衝撃。あれはもう二度と体験できないでしょうね。たとえ、今後どんなに魅力的なキャラクターに出会ったとして、あの日あの時の少年の心をすべて呑み込み脳内を薔薇で埋め尽くされていくような驚きはもう手にはいらない。大人になってしまったから。
 小学生の無謀な夢なんてすべて消えた。宇宙飛行士、総理大臣、昆虫博士、そんな将来への希望がnのフィールドから顔を出した水銀燈の相貌によって無へと帰り、次の瞬間には「僕なんかの生命を全て吸ってでもいいから水銀燈の黒い羽根の一枚にでもなれたら……」と願ってしまったのだ。
 今でも消灯してベッドの上に転がるたびに妄想する。逆十字を刻んだゴスロリの銀髪少女が窓をたたき、妖艶な笑みを浮かべながら僕に命を賭けた契約を結ばせようとする光景を。


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