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マイルドヤンキー

 髪を切りに行きました。
 自分が最近お世話になっている美容室はメンズカット専門店。男性に特化したお店の方がいろいろ髪型の相談し易いかなと思って選択したところ、とても丁寧に長さの調節やセット(僕は面倒くさくて整髪剤いっさい付けないが)の仕方を教えてくださり、美容師ならではの技や知識を授けてくれるので気に入っております。
 メンズカット専門店なので、当然店員さんも(店によっては女性の美容師も居るけれど)客も男性。そのうえで若者向けとなると、どうしてもマイルドヤンキーっぽい雰囲気になるようで、通常の美容室と空気が全く違っておもしろい。
 まず、客と美容師の距離感が近く、みんなタメ口で喋る。「昨日、彼女の付き合いで◯◯のライブ行ったんだよ!」「マジ!?どうだった?」「曲より喋り長くて最悪!」「ガハハ!終わってんな!」と豪快なトークが繰り広げられ、軽いノリで言い合う際に「おまえ死ねよ笑」とまで出てくる。もちろん険悪な使用法でなく男子中学生の休み時間くらいの軽さである。
 沖縄にいた頃は、みんながみんなこのような感じだった。ただただ懐かしい。とはいえ、僕は敬語かつ雑談するタイプでもないため、察した美容師さんも真剣に髪型の相談のみに終始する。恐らくこの店では珍しい客層であるため、「ファッションに一家言あるやつ」と認識されてそうではある。どうすれば綺麗なサイドのラインができるか、気分を変えたい時の簡単な分け方など、実践的な話の方が助かるので嬉しいですけど。向こうも僕が髪型の話を真剣に聞いてくれていることでノっているようなのでWin-Win。
 よくよく他の席の会話に耳を傾けてみると(というか大声なので聞こえまくり)、驚くくらいみんなワンピースの話をしている。店内もワンピースのフィギュアだらけで、どの棚にも七武海や四皇たちが戦闘体制で構えており緊張感が走る。
 「最近のワンピ読んでる!?」「いや、途中で読むの止まっちゃって」「マジ!?今のワンピ死ぬほど面白いから絶対読んで!てかネタバレしていい!?」……誇張抜きでこのようなテンションの会話が何度か行われている。恐らく、初めてのお客さんに対してまずワンピの話を振るのでしょう。「若いイケイケの男にはとりあえずワンピの話で打ち解ける!」、シンプルイズベストなトークデッキにより最適化されている。しかも、ここ数年のワンピースが死ぬほどおもしろいのは紛れもない事実だ。僕もホールケーキあたりから毎週めちゃくちゃワクワクしている。ジャンプで一番続きが気になるレベルで、最終章へと突入したワンピースの盛り上がりは右肩上がり。黄猿が噛めば噛むほど味のあるキャラクターになっていく過程に涙が出る。
 久しく忘れていたイケイケな男たちの世界。沖縄人(うちなーんちゅ)は老人ですらこんな感じだ。というか老人の方がうるさいくらい。都内に10年以上住んだ今、県全体が異様であると確信している。馴染めるなら最高の土地で、馴染めないなら息が詰まる。たまに、あのテンションが懐かしくなるもののずっとアレでは疲れるので僕は無理だ。こうして数ヶ月に一度の美容師で横目に見る程度がちょうど良い。
 ちなみにワンピの話が終わると進撃の話になる。漫画・アニメ大国日本。いかに名作漫画たちがコミュニケーションを円滑にするかが窺える。漫画の話に飽きたらナンパや元カノの話になる。この店内に間違ってもSNSで美少女キャラクターをアイコンにしている者は居ないでしょう。
 聞いてる分には楽しいうえに、カットの技術はピカイチなので満足して帰る。レジにまでジンベエが飾られていて、財布を取り出すこちらへ魚人空手を繰り出す勢いを見せる。今どき魚人差別など流行らんぞ……。
 この店内のノリと全く同じなので、ワンピースを読み、陽気に会話ができるなら、アナタは沖縄で問題なく暮らしていける可能性が高い。迷ったら「ワンピ誰好き!?」だけで誰とでもお友達の世界だ。あとは泡盛でも差し入れたら完璧。それだけで今日から親友である

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