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一口エッセイ:北へ行こうランララン

 昔の友達といっしょに公園で花を見ました。
 もう何も悲しいことも怖いこともありません。これからは毎日楽しく、清く、健やかな日々が続いていくことでしょう。
 様々な事柄が脳裏をよぎり、混乱し、たくさんの不安や自暴自棄に苛まれましたが、もう問題はありません。自分の中で全ての整理はつき、答えが繋がりましたので、あとは隙を見つけてゆっくりとその方向へ進んでいきます。
 雪国を見に行こうと思います。
 一面の白に包まれます。今日は花でしたが、次は雪に囲まれます。埋もれます。僕は南国の出身ですから、身体が埋まるほどの雪を体験したことがありません。まずは雪の中で考えましょう。雪山なら人が居なくてなお良い。
 パスポートがあるので海外にも行けます。が、どうでしょう。実現可能性で言えば北海道かもしれません。どれくらい寒いのでしょうか。思い返すに、僕は寒いと言っても東京の寒さしか体感しておりません。沖縄は寒くて15℃でしたし。北に行くとそれはもう凍えて身動きできなくなるほどでしょうか。寒気で全身が勝手に麻痺していくのは心地よくもありそうに思えます。
 強いお酒を持って行きます。
 実は、ここ数日でアルコールの摂取量が目に見えて増えました。睡眠の導入にちょうどよく、感覚が鈍くなることの恩恵をようやく理解してきました。今までお酒なんてなくても楽しくなるし、沖縄人(うちなーんちゅ)の血ですから、酔うのに量を要することもあって、飲酒に気が進まない方であったものの、今なら「全ての感覚が鈍くなる」メリットがわかります。
 僕は何かを考えることが好きな方ですから、考えが鈍くなるアルコールの状態はむしろ不快でもあったものの、こうも苦しく、悲しく、漠然とした不安による生命の危機に見舞われていると、その恐怖すら鈍重に置いてけぼりにできることの気楽さを覚えたのです。
 問題の先送りであり、本質的に傷が癒えるわけでもなく、ただただこの瞬間の時を遅くする。そのために体内へ毒を注入する。そんな時期があってもいいだろうと分かってきましたが、僕は過去に睡眠薬を大量に個人輸入して歯止めが効かなくなった前科持ちですから、案の定次は飲酒の量で問題が出そうなので、ギリギリで控えています。必ず一本ずつ買うことで、抑えが効かなくなって一気に何本も開ける事態を避けています。僕はそのような「刹那的な快楽」へのブレーキが著しく弱いのです。
 雪国で、人のいない純白の世界の中、ウィスキーでも飲んで、倒れます。寒さも度数の暖かさと毒で鈍くなるでしょう。次第に身体が明確に痺れ、感覚が薄れていくはずです。それが一番いいと思いました。あらゆる思考も感覚も消え失せ、最後は雪の白さだけを感じる。
 なので、これから時間の余裕を作り、北を目指す計画を立てます。もちろん人数は独りがいいでしょう。もともと、どこで不貞腐れたりパニックになったりするか分からないほどの捻くれ者ですから、少しのトラブルで他者の気分を台無しにする可能性は潰さねばなりません。それはここ数日で確信したことです。僕は遠出の想い出に他者を介入させられるほど大人ではありません。せいぜい都内近辺。それか目的がハッキリしているか。
 目的ができたのだから、ゆっくりと向かっていくのみです。あらゆる複雑な悩みがぶつかり続けた結果、自分が心地良くなるであろう瞬間の輪郭が見えてたのは僥倖。あとは、少しずつ少しずつ数日の休みを開けるために原稿や打ち合わせへ向かいます。これからは笑顔で他人と接し、滞りなく、我儘も控え、努めて大人の言うことを聞いていきます。
 それからしんしんと降り積もる雪に包まれて、静寂の中で脳を曖昧にし、そこから残った芯の感覚と思考を楽しみにします。生きるための目標があるのは大変素晴らしいことです。
 北へ行こうランララン
 なんとなく北へ 行っちゃおうかな

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