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一口エッセイ:iwaraとえっちなダンス

 三時間iwaraを観ていました。
 iwaraというのは、二次元キャラクターの3Dモデルを裸にひん剥いてダンスさせる動画をアップロードする謎の男たちが何故か一堂に会する動画プラットフォームです。iwaraを三時間眺めていたということは、つまりえっちなダンスを三時間観続けたわけですね。
 僕は、自慰に関しては完全に二次元オンリーだったのですが、それももう30歳が近づくにつれてさすがに飽きが見えてきた。年々落ちる性欲とキャラクター以外は代わり映えしないえっちイラストの刺激に慣れすぎたことで、新たな道を開拓する焦りが生じている。人は性欲が落ちると生きる気力も失う。
 そこで実写は踏み込もうとAVを探してみるわけですが、FANZAを開いて全裸の女優たちの顔を眺めても違いが全くわからない。だいたいの現実の女性は、髪が毒々しい紫だったり、ぴょんぴょん揺れるツインテールだったり、ハラハラのメイド服や厳かなゴスロリでは無いからだ。これが、「エロいアニメキャラってナミとかロビンのこと?」レベルの真の陽キャなら逆なんでしょう。そう考えると人間って不思議だね。
 「二次元の表現では物足りないから実写へ行く」と書くと、まるでアニメ監督の巨匠みたいで面白いですね。
 そんな事情があるので、平面のイラストとは趣が違った美少女キャラクターの新たな可能性としてのエロMMDが集まる異質な空間、iwaraへの興味は尽きない。イラストで物足りない時にはiwaraの世界へと向かうルーティンを繰り返しているうちに、このサイトとも数年の付き合いになった。はじめは鉛のように重かったiwaraも、幾度とないアップデートの末に初期のニコニコ動画くらいには軽くなった。それでもちょっと重いのは仕方ない。きっと、動画の中の彼女たちが僕らへダンスを披露するために一生懸命準備している時間なのさ。
 今では少し我慢すればサクサク見れるせいで、むしろ数年前以上に時間を取られてしまう。ここまでiwaraが便利すぎたら、エロコンテンツのパワーバランスが崩れて社会が崩壊しないか不安になるほど。実際、今夜の僕は三時間も二次元キャラクターのエロダンスに消費した。他人のダンスを三時間じっと眺める。教え子たちに夢を託した熱意溢れる名コーチのような所業です。
 ちなみに、iwaraのコメント欄は、混沌としたインターネットの中でもすこぶる治安がいい。何故なら、このサイトにはえっちダンス目当てのエロガキしか居ないわけで、みんなの目的は「クオリティの高いえっちなダンスをいっぱい観ること」しかないため、好みの動画を見つけたら次回作を製作してもらえるよう投稿主を褒め称える以外の選択肢がない。なので、コメント欄は世界各国の言語で「wow!この動画はダイヤモンドのように輝いているね!」のような大袈裟な絶賛で埋まる。褒めて伸ばすのだ。上質な自慰のために血眼になっているエロガキには、低質な動画に対しわざわざ誹謗中傷する時間すら勿体無い。結果、人口比から考えて全動画サイトの中でもトップクラスにヌクモリティが生まれているのです。
 三時間、たくさんの踊りを鑑賞した。
 露骨に性的興奮を促す腰振りもあれば、なぜかサビで一枚ずつ脱げていく以外は可愛らしいだけのダンスもあるし、途中で全裸の竿役が乱入して性行為に突入するパターンもある、ごく稀にラスサビで竿役も一緒に踊り出すことも。「ダンス」というのは、人間たちによる原初のコミュニケーションだ。言葉が通じなくとも響き渡る音楽に合わせて身体を動かしていれば、自然と同調して仲間意識や一体感が生まれる。ある意味、iwaraは最も生物として本質的なコミニュティなのかもしれない。
 三時間あれば超大作のシン・エヴァンゲリオンすら上映が終わる。あんなに塞ぎ込んだド鬱のシンジくんも父親との和解を経て彼女もできて大人になってなお30分余る。そんな長い長い時をエロダンスへと費やした。
 自慰を終えて冷静になると、やっぱり映画でも観ておけば良かったかな……と後悔が過ぎる。が、よくよく考えてみよう。映画を観る理由とはなにか。多くの動機はあれども、簡潔にまとめると「非日常」への没入でしょう。何億円の予算と数年に渡る製作期間を経て完成された映像作品なのだから、日常では味わえない興奮や感動が目白押し。こんなに贅沢なコンテンツはない。
 けれども、「非日常」で言えばiwaraの方がすごい。映画での感動は映画館に行けば必ず味わえる。というか今日もグリッドマンを観てきた。しかし、映画作品では二次元美少女が流行りのボカロ曲に合わせて腰を振り出すシーンは存在しない。ましてやラスサビで竿役と踊り出すことなんてインド映画でも滅多にない。しかも、こちらはその間ずっと陰茎を握りしめながら血眼でオカズを厳選しているのだ。一人で、黙々と、三時間。そう考えると、iwaraの方が刺激的な非日常で、何よりもかけがえのない大切な時間だったのです。ありがとう、iwara。ありがとう、エロMMDたち。ありがとう、何故かデフォルトのアイコンに設定されているアリス。これからもその可憐な踊りで、平面の二次元では満足できなくなった世界中のエロガキたちを救ってあげてほしい。


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