見出し画像

一口エッセイ:迷子奮闘記

 初めて訪ねるビルで打ち合わせがあったのですが、どうにも土地勘がなくてGoogleマップを開いても該当の場所が見つからない。地図上ではすぐ近くにあるものの、どうも見つけられません。こういうことはよくある。
 Googleマップがあるのだから迷うはず無いじゃんとお思いかもしれませんが、僕は地図アプリがあってもなお迷う。不思議なことですが、対策方法もわからないのでその場で困る以外に手段はない。
 で、案の定今回もぐるぐる回って悩んでいたものの、せっかくなのでプロデューサー(現地で先に待機している)へ通話で聞いてみようと思った。そうすることで目的地へ辿り着ける確率がぐんとあがる上に、「本来なら時間通りに着くつもりはあるんだから仕方ないですよね〜。やる気はあるんですけどね〜」といった空気を形成できる。実は迷ってなくても元から遅刻していたのですが有耶無耶にできる。あと、こういう時に突然通話かける行為が楽しそうに思えたのです。一石三鳥だぜ。
 で、プロデューサーは電話を取ってくれた。当然です。何故なら僕の到着を待っているのだから。ごめんなさい〜。「近くにいるはずなのにどれか分かんなくて〜」と話すと、「そうなんだよ! めちゃくちゃ分かりにくいビルでさぁ」と乗ってくれた。どうやら別に僕がどうとか関係なく難易度の高い建物らしい。
 口頭で現在位置を説明する。ファミマや居酒屋がある。が、プロデューサーもこの場所に来たのは初めてなので、お店を言われてもわからない。そんな時、「ビデオ通話で周りを見せてくれ」と良案を出してくれたのですね。すごすぎる! 大人だ……。生まれてこのかたビデオ通話の機能を使用したことがなかったので盲点だった。きっと、プロデューサーはこうして僕らのような方向音痴を何度も導いてきたに違いない。カッコいいぜ。
 が、それでもやはり見つからない。「なんか近そう」までは把握できた。アプリ上でも実際目の前だ。だけど、アプリではすぐそこなのに何故か見つからないことって結構ない?
 プロデューサーにビルの特徴を尋ねてみると、「なんか妙にオシャレなやつ」ときた。オシャレさ……感覚での判断だ。そう言われると何気ないビルでも、黒と白のモノトーンで落ち着いた印象を与える小洒落たデザインに思えてくる。もう僕の頭の中では、「建物のオシャレとはなんなのか」に支配されてしまったのだ。そんなこと迷子時の本質とは何の関係もない。プロデューサーが電話越しで「あった!?」と訊いてくるものの、僕はすでに脳内で「いちばんオシャレな建物とは?」でいっぱいです。やっぱりゴシック建築の教会になるだろうか。いや、「妙にオシャレ」という表現を汲むなら、見るからに厳かで煌びやかな建物でなく、わかる人にはわかるさりげない構造美をしているんじゃないか。そうなるとバウハウスの……。
 どんどん思考が逸れていくなか、プロデューサーが早くマジで来て欲しそうにしていたので我に返った。とはいえ、別に状況が改善されたわけでない。結局、それから5分くらい歩き回って見つけた。なんか外観に木材が使われていて、ナチュラルな感じが漂うビルでした。これがプロデューサーの言う「妙にオシャレ」か。言われてみると、このちょっとしたアクセントは「妙に」って感じがしてくる。なるほど、納得です。
 こうして僕は15分くらい遅刻して打ち合わせに臨んだのでした。毎日いろんな企画を水面下で進めるために頑張っているんだよ。


 毎日の日記をまとめた同人誌や商業エッセイ集をよろしくね♪ 同人は新刊でたばかりだよ。

サポートされるとうれしい。