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一口エッセイ:言及で気持ち良く罠

 インターネット上で起きた事件に関する裁判の内容に興味があるので、まさしくそれを題材にした『しょせん他人事ですから』という、いま勢いのある漫画を読みました。数々の事件を「他人事」扱いする弁護士が、極めて冷静にネットにまつわる依頼を解決する、面白い作品です。

 感情を入れずにジャッジする「冷静な第三者」になれる人は素晴らしい。弁護士にしろ、精神科医にしろ、相手の状況を俯瞰して客観性を授けてくれる。冷静なジャッジは本当に頭が良い人にしかできないことで、その上で「事実を述べてあげる」残酷な優しさを放てる強さもある。カッコいいことだ。この作品の流行によって、活動者が誹謗中傷で訴えられる現実的なラインを学び、彼ら彼女らの心が楽になるのは、単純に良いことだなと感じますね。


 それはともかく、本作で一番的確でビックリしたことが「SNSにどっぷり浸かるとモノ申したくなるでしょ? そこから書き込むまであと一歩だよ?」なる台詞。これは非常に分かりやすく、SNS初心者の心理を表している。そう、人は炎上やニュースに対して、上から目線で語りたくなる病気に罹る場合があるのだ。何故なら、やらかした者に対しての言及は、ただ小馬鹿にするか、なんか知ったような口を利いて解説(ごっこ)すればいいだけなので、死ぬほど簡単に承認と自己肯定感が得られる。
 そして、面白いことに、この漫画では炎上なら言及して「文化人ごっこ」しているアカウントたちが、次々訴えられていく。この流れを漫画として分かりやすく、その上でフローを現実的に描いているので、たいへんバランスが取れている作品なのです。
 このシーンは、ネットで陥りやすい罠として、もっと広まるべきセリフに思える。下手にSNS見すぎると、余計な言及して気持ち良くなってしまう。が、それはだいたいの場合に幸福に繋がるルートではない。この世界は、インターネットによって、つねに気楽な刺激を得られる危険性と隣り合わせなのですね。気楽に快楽を得られる行為は、それはもう麻薬と同じで、一度覚えると抜け出すのは大変ですよ。
 それこそ、侮辱罪を厳罰化され、国も少しずつインターネットを清らかにしようと動き出したいま、羽目を外して訴えられる可能性は、確実に増してきているのですから。沈黙は金。答えは沈黙なのですね。

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