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一口エッセイ:駅前の老人

 文学フリマ……なんか本を書いて配るイベントにて同人誌を頒布し、会場と電車で何時間も人混みに流されてきたので、疲労困憊になりつつどうにか中野駅に辿り着いたものの、そこで力尽きてベンチにて座り込みます。
 すると、隣から三味線の音が聴こえだしたので振り向いてみると、バカボンのパパのような格好をした70.80代くらいのお爺ちゃんが、三味線を弾きながら歌っている。それも、歯が殆どないため、唄として成立していない状態で。さらに、よくよく見てみると弦が切れていて、三味線の音もでたらめ。
 駅をゆく誰も老人の音楽を気にしないし、老人も無観客ライブであることを気にも留めない。そんな状態が10分くらい続くと、べろんべろんに酔っ払ったスキンヘッドの大柄な男性が、ガツンガツンと付近の看板を殴り始めて暴れます。そっと離れていく人間たち。そんな中、お爺ちゃんだけがケタケタ笑いながらスキンヘッドの暴れっぷりを眺め続けている。気づいたスキンヘッドがお爺ちゃんに向かって歩いたので、「これは大変な展開になるのか!?」と緊張が走ったものの、「じいちゃん! 人生って大変だよな」と呑気に肩を組み始めました。お爺ちゃんも新たな友情の誕生に喜んで、勢いよく弦の切れた三味線を掻き鳴らす。中野駅北口ベンチで突如行われた、暴れん坊二人によるセッション。本物の音楽がここにある。
 そうか、こういうことなのか。寂しくなったら、人の多いところで歌えばいいのだ。それも、曲になんかなってなくても良い。楽器がジャンクだって関係ない。自分の歯がなくったって大丈夫。精一杯歌っていたら、同じく人混みからはみ出たならず者が寄ってきて、まるで旧知の仲のように一緒に騒いでくれる。老後なんて、人生なんてコレでいいのだ。
 唐突に自分語りですが、ゲームの発売後、会った人から「少し売れたからって調子に乗ったら破滅するから気をつけろよ」と忠告されることが多々あります。たいてい大して交流のなかった人からでして、好事魔多しというのも理解しておりますが、とはいえ身内でもない方にそんなこと言われても、「うるせ〜〜好きにさせろ!!!」以外に感じるほうが無理なんです。他人に言われなくても分かっているので黙っててくれ!
 まぁそんな訳なものの、今夜の光景で完全に決心がついた。よく知らない人間からの雑なアドバイスなんて聞く耳持たなくていい。破滅したらその時はその時でいいのです。僕が浮き足立ったゆえに全てを失ったら、その時は壊れた三味線持って駅前で歌うので、あなたはワンカップ片手に僕の隣に座って一緒に叫んでください。そんな楽しい時間が作れるなら、あとはぜんぶ細かいことです。


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 商業エッセイ集もよろしくね。こっちは、また妙な味付けの濃さがあります。

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