一口エッセイ:SL銀河 最後の運行
花巻で『SL銀河』に乗りました。今週で最終運行。宮沢賢治の故郷を走る、銀河鉄道をモチーフにした列車の最後の勇姿です。
汽車はすごい。走っている間に窓から煙が入ってくるし、風景も霞んで見える。そこに風情がある。それを知っていた隣に座る地元民らしき鉄オタの男子小学生が、的確に煙対策で窓を開閉するタイミングを教えてくれました。将来、立派な鉄道博士になるかもしれません。
窓の外は自然だらけの花巻の風景が広がっているのですが、この日は街中の人間たちが家から出て嬉しそうにこちらへ手を振ってくれる。花巻には至るところに賢治ゆかりの地の名所があるのですから、SL銀河の最後は総出で見届けたいのだ。どのタイミングでも窓の外には大勢の現地民とカメラを構えた鉄オタが手を振ってくれる。なんと貴重な体験か。
事前にニュースにもなっていたのですが、明らかに侵入禁止の山奥線路間際にて、三脚を構えて撮影している忍者のような鉄オタも僅かにいた。なんたる執念だ。「迷惑鉄オタ」を間近で見ることもまた二度とない体験かも。現地民・鉄オタ・宮沢賢治ファンたちの夢と感謝を乗せてSL銀河は岩手を駆け抜ける。
全速力で自転車で併走してくる方や自動車の窓から手を振ってくれる方も大勢いて、「街が生きている」感覚に包まれます。僕は生まれて初めて東北に来ただけなので特に感慨深いものはありませんけど。若干気まずい。
車内の演出や展示が素晴らしい。『銀河鉄道な夜』精密複製原稿、天上へさえ行ける切符、ステンドグラスの内装。極めつけは車内の隔離された空間で上映されるプラネタリウム。これが見れただけでも搭乗した意味があった。
銀河鉄道をモチーフにしたといっても、どうしても走るのは朝だし、乗客は満席。外には笑顔のおじいちゃんおばあちゃんで溢れているわけで、やはり銀河鉄道のイベントでなく、「街」のお祭りなのですね。そこへ宮沢賢治の読者(とその何倍の鉄オタ)がお邪魔している形になる。
が、プラネタリウムは完全に『銀河鉄道の夜』のために設計されたもので、数名しか触れない暗い部屋中に星や宇宙が浮かび上がり、ジョバンニとカムパネルラが見た光景が再現されていきます。これがただの上映ならまだしも、実際に列車が走っているおかげで「揺れ」や「音」が自然に演出として重なる。この没入感はSL銀河でしか再現できない。このプラネタリウムに参加した十数分は間違いなく『銀河鉄道の夜』であった。
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