見出し画像

女若ハゲ




さて、我々奇文学はライブに向けて結構な頻度でせっせと集まっては稽古をしたりしていた。


最近の携帯の着信履歴には相方の名前しかなくなっていた。

こうなるとコンビを組む前何をしていたのか自分でも疑問に思う。あまり外に出られず人に会えないご時世もあっただろうけれどそれを抜きにしても空っぽな日常だったように今は思える。



衣装を着てみて襟に髪がかかるのが気に食わなかったので髪を切った。

女は髪が命なんて言葉もあるけれど執着は無い。なんなら今回美容室に行ったことをきっかけに薄毛が判明したけれど、なんか面白いしいいか、とすら思っている。


いつの間にか、学校に行ったりバイトをしたり日常生活を送る自分より奇文学西村の優先度が随分高くなっている。



日頃、noteを書こうと思うことは沢山あるのにいざ書くと大してこれといった出来事があるわけでは無いので難しい。


よってここからは剛毛として生きてきたのに突如ハゲと診断された出来事を書こうと思う。


私の髪はずっと祖母譲りの太い、硬い、多い、ラーメンのカスタムのような毛質だった。
物心ついた時にはすでに他の人よりも結わえた髪が太いことに気付いていたと思う。

本格的な悩みとなったのは中学生になってからだった。とにかく髪の総量が多いためどんな髪型にも属することができない。しかし元気に生きていたので「頭がとても大きい人」として淡々と日々を過ごしていた。

中学の中盤で美容室で縮毛矯正を勧められたことをきっかけに一度頭がとても大きいことから卒業したのだが、永久的に続くものではないため、時によってとても頭が大きかった。

周りのお洒落で可愛い友人達に感化され、ありとあらゆるヘアケアを試してこともあったが、
美意識に熱意を持ち続けることができず、結局高校を卒業するまで、なんとか誤魔化しながら騙し騙し生きることに落ち着いていた。

高校を卒業した後何となく髪を明るい茶髪にした。その時点でも美容師の評価は剛毛だったはずである。
その後上京し、幾つもの美容室にお世話になったが、これといって行きつけを決めるには至らなかった。
伸びたところを染めたり、微妙に長さを変えたりしながらも、この頃には「自分の髪は太くて硬くて多い剛毛多量である。」という認識は固定されていたので、美容師に確認することも無くなっていた。


そんなことを繰り返していた中、バッサリ切ってショートにしようと訪れた今回の美容室で突如事件が起きた。

中高生時代のどこかで一度ショートにしたことがある。私の剛毛は当然重さの軽いショートヘアがきれいに纏まるはずもなく、当時の私はさながらマンホールのような大きさの頭を抱えていた。

そのため今回のショートヘアもそうなるであろう想定があり、そのことを美容師に相談したのだ。すると美容師からは、まずそんなに髪が多く無いことを告げられた。
そして髪が薄いことを非常に気を遣いながら伝えられたのである。「んー、言っていいですか、チョット。」と私に告げ、育毛剤のパンフレットを一生懸命探して渡してくれた。それはもう完全なハゲである。

パンフレットは明らかに年配の方に向けられたもので青汁のパッケージを連想させるフォントの字が並んでいた。ターゲットの年齢からは外れているはずの21歳には何も頭に入ってこない。

原因を考えるが23キロ痩せたり、住んでいる場所が変わったり、環境も年齢も食べるものも何もかもが変わりすぎてしまっていてどれが原因であるかなどさっぱりわからない。とにかく美容師は今すぐ何かしらの対策を始めることを強く勧めてくれた。やはり余程ハゲているらしい。

というわけで私は今、市販の育毛剤を朝晩つむじ辺りにつける生活をしている。あんなに髪の量が多いことで悩んでいたのに。今度は少ないことで悩もうとは。信じられない思いでいっぱいだが、確かに言われてみると頭頂部の髪が薄い。思い込みは本当に恐ろしいし、人間の身体は一瞬で変わっていくのだ。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?