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堕落と蘇生。

それから私は
私を雇ってはみないか、とあらゆる本社という本社を練り歩いたり格安バーで隣に座った年下の生意気な男とダラダラしたり友人と1日に浴びてよい楽しさを裕にカンストした楽しさを浴びたりなど
それらで人生が激変する事はないが、永きに渡って一生じわじわ影響されそうな経験を踏み締めていた。



年下の生意気な男と欲望という言葉を映像化した様な日々の終わり頃、なんとなくの会話で
「サヤちゃんは、あの日俺とメロン食うまで何してたの」と聞かれた。

彼は単にどういう飲み会からその日一緒にバーに居た人と抜け出し、更に自分と店を抜けるために4000円置いてそいつを置き去りにしたのか。その経緯を尋ねたに違いないが私は

「いや、漫才しててさ、解散して一旦暇だったから久しぶりに会う劇団やってる友達が集めた人達とさ、面白い人いたらいいなと思って」

等とそこまでの欲望ライフですっかり溶けた脳味噌で取り留めの無い話を始めた。


不思議なもので人は口に出してみると堕落により抜けていた記憶や感情が蘇る。


「いや解散したから面白い人探しに行った飲み会で誰も居なくて帰ろうとしたら追いかけてきた奴と高円寺のバー入って、つまらんそいつを巻くのにお前と出てきたんじゃん!いやそういえばお前誰だよ」

と、私は突如として全てを思い出した。いや思い出す必要が無かっただけで本当に忘れてたわけでは無いのだろう。この場合の「お前誰だよ」は感情であり事実では無い。

彼は入ったばかりの大学を休学してバンドのギターを担当し、それすら活動を休止して親が持つマンションでバーで出会った年上の女とダラダラ過ごす兵庫のボンクラであった。
解散した相方と同じ銘柄の煙草を吸っていた事をきっかけにここに至ったのだ。


何にせよ記憶と感情を取り戻した私は、その日のうちに竜巻の如く荷物をまとめた。

近くのコインランドリーに使っていた全てを持ち込み洗濯をし、夕方頃に荷物をまとめ始めたというのに21時頃にはマンションを出た。

兵庫のボンクラことイツキは、完全に呆気に取られてやっと最後に寝室から這い出て来て「え、出てくの?」と裏声みたいな音を発していた。
イツキは何も悪く無いが特に言う事が思いつかず「じゃ、おつかれ」と爽やかな帰り際でしか有り得ない挨拶でエレベーターを閉めた。


ほとんど毎日インターホン越しに顔を合わせていた自己紹介に子供が生まれたばかりと書いているウーバーの配達員の方とイツキの前の女が預けて行って引き取りに来ない猫のスシの事は少し考えた。

猫の名前からしてイツキの前の女というのは海外の方だったんだろうか。だとしたら次に私と暮らしたのは急ハンドルを切り過ぎている。

イツキは動物に優しいし、唯一スシを動物病院に連れて行く日だけアラームで起床していた。何より経済が余りにも豊かなのでスシの身を案じる事は何も無かった。
スシは私に懐いていると言うよりかは私とスシの仲が良いというような関係だった。
イツキがスシと同じように私の面倒を見ていたから私を猫の仲間だと思っていたのかもしれない。

帰り道もイツキは心配して沢山連絡をくれたので彼のギターと顔を褒めておいた。

スシの話は今後に響きそうで辞めておいた。



最寄りの駅から久しぶりの自宅に帰る途中で、3ヶ月前に相方募集掲示板で知り合い、1度電話で話してそれっきりだった人に電話をかけた。


蘇生。

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