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2020.2.24 労働する少女 『魔女の宅急便』

Apple musicで『魔女の宅急便』のサントラを聴いていたら、『魔女の宅急便』が無性に見たくなり、深夜に原稿をほっぽりだして見てしまった。


自分が会社員になったのもあって、最近「働く女性」の物語系譜にとても興味がある。働く女の表象。OL漫画やOLドラマ、SATCから田辺聖子に至るまでその系譜には豊かな女性表象の世界が広がっているわけですが。そのなかでもひとつ、系譜として「本来働く年齢になっていないはずなのに、突然働くことになる少女」物語、というのがある。

少女漫画で見かけたことある方も多いんじゃないか。(『ワーキング娘』、kindle unlimitedで読めるから読んでほしいよみんな)。

『魔女の宅急便』ももちろんこの系譜だと思う。母親が「13歳になったら独り立ちって早すぎるわ」ってぼやくシーンがあるし。宮崎駿(※原作の角野栄子さんもそうしていたかどうかはちょっと原作が手元にないから謎)もはっきりと「少女の年齢なんだけど働かざるをえない」状況をつくっている。

それまで少女だったのに、いきなり働く時期がやってきて、別の街へ渡る。数少ない自分のできることを携えつつ、恋のようなものを見つけながら、仕事をする。キキ……働くってつらいよな……と同じ会社員としては泣けてきてしまう場面ばかりである。仕事が長引いたうえにずぶぬれになって、こんな格好じゃパーティーに行けないわ、と呟く場面なんて、もう、全OLに見てほしい。

ちなみに同じ物語構造で、大人バージョンは、最近の映画だと『BROOKLYN』でやってますね。別の街で仕事して恋をして……ってほんとうに同じ物語だな。(もちろんお姉ちゃんの話および故郷へのコンプレックスが差異になるんですけれど)。

まあこういう「少女だったのに働かざるをえない状況になる」って、あながち少女漫画や少女小説(『魔女の宅急便』の原作はいうまでもなく少女小説である)に特殊な心象風景だけでもないんだろう。大人になったって、13歳だろうと22歳だろうと、「は? 私ってもうそんな働く年齢?」という戸惑いが女性のなかにはある。んだと思う。(ごめん少なくとも私にはあった)。だからこそ、少女というアイコンを使ってその心象風景を描く。その通過儀礼の景色こそが「働く少女の系譜」なのではないか。


しかしそうだとしたら、「働く少年もの」ってどうなるんだろうか。何がそれにあたるのだろうか。

いや、『魔女の宅急便』を見つつ、「いやー宮崎駿って、ほんとに労働と人間の話が好きなんだなあ」としみじみ思ったんだけど。※このあたりについては町山さんが解説してくれていますが。

でもね、宮崎駿が描く「労働」の主人公って、キキといい千尋といい、少女なんだよね。いやパズーも働いているけれど、あれは労働の話じゃなくて冒険の話なんだよね……。『魔女の宅急便』は、昔は冒険の話として読んでいた気がするけれど、今ならはっきりわかる、これは労働の話なんだよな。

男の子は労働に葛藤がないのかなあ? 少なくとも宮崎駿にとってはそうなのかなあ。風立ちぬなんかも労働じゃなくて使命の話に見える。どうしてだろう。千尋が男の子でもよかった気がするけれど、どうして女の子なんだろう。女の子のほうが、思春期に市場へ出る感覚があるから?


そういや手元にないんだけどこれも面白かった。内田樹と上野千鶴子のキキ論。


ジブリのサントラ、Apple music解禁されてましたね。嬉しい。あとはもうApple musicにaikoが来てくれることをずっと待っている。

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