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2020.4.7 文化はすぐに

けさ、朝ドラをみていて、「あーほんとに戦前の日本って、いちばん文化が豊かな時代で、いいよねえ」とぼんやり思った。

この時代が朝ドラに出てくると、ちょっと嬉しくなる。

今回の朝ドラは作曲家が主人公なのだが、戦前に子供時代を過ごし、戦中を経て、戦後の復興にたずさわる……というある種「朝ドラの王道コース」をたどる。大河ドラマを見ている人がなんども本能寺の変を見るように、朝ドラをよく見る人は、「贅沢な大正の子供時代を経て、戦中に苦労し、戦後活躍する」ストーリーをよく目にするのだ。最近だと『まんぷく』、ちょっと前だと『カーネーション』も『ごちそうさん』もそうだ。

朝ドラが描く大正ロマンから昭和初期の時代は、それはもう素敵な小道具にあふれている。NHKの技術さんや衣装さんが腕によりをかけてつくった(たぶん)、洋裁やら着物やら。ちょっと贅沢な家では蓄音機だのオルガンだの自転車だの。たとえ舞台は貧乏な家庭だとしても、町並みはうつくしく、豊かなのである。

実際、朝ドラが舞台セットをつくらずとも、戦前の日本つまりは大正デモクラシーと呼ばれる時代の都会は、それなりに豊かで、余裕があって、なにより文化が大切にされていた時代だったのだろう。私の好きな昭和初期の作家たちも、みんなこの時代の文化の恩恵を経て、戦中戦後文章を書いていたりする。

しかし戦中のシーンになると、だいたいどのドラマでも、みんながもんぺを履き、文化が蹴飛ばされ、しんどい時代が始まる。どの朝ドラでも、このあたりの時代は、暗い空気に包まれる(題材として明るく扱うべき話題ではないと私も思う)。

戦前の主人公は、そんなことも知らず、文化を当然のものとして享受する。「時は大正デモクラシー、文化の栄える余裕のあった時代でした」というナレーションとともに。


そう、たとえば谷崎潤一郎は、『細雪』という小説を、国が戦争に向かっていく渦中に綴った。きらびやかでうつくしい関西の町並みを小説のなかにおさめるように。もう戦時中には見られないであろう、豊かな戦前の文化をとじこめるように。

それは彼にとって、「まさか失われるとは知らなかった、だけどもう戻ってこない豊かな文化」を小説という媒体にのこす行為だった。

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……ということをふと考えてみて、もしかして「平成は災害も多くあったけれど、それなりにグローバル化が進み、IT化も進み、文化の栄えた時代でした」なんてナレーションが、私たちに、私たちの日常につけられる日が来るんだろうか、と、いう、末恐ろしい妄想が浮かんでしまう。

もしかして、私が享受していた、本と漫画と映画と演劇と音楽とテレビとインターネットとゲームがまばらに跋扈する、外食産業もアパレルも百貨店もスポーツの試合もアイドルのライブもなにもかもがしきりと屋外で楽しまれていた時代は。一過性のもので、文化は、国の非常事態になったら、まず真っ先に、排除されるものなんだろうか。と。

いやウイルスって言ってもそんな、一過性のもので、国の文化がどうにかなるレベルのものじゃないって……と、願うように思うんだけど。

でも、私には正直、半年後の、書店や演劇や映画館やテレビ番組やライブ会場や百貨店やレストランが、どうなってるのか、本当に本当にわからない。

いま流れてる朝ドラですら、「当分の間」、撮影をやめてしまうらしい。あのうつくしいセットすら。

わからないから、こわい、と思う。もちろん命が大切なんてそんなこと分かってるんだけど、ここで、ここまで積み上げてきた「文化」と呼ばれる不要不急のなにかが、一気に、積み上げられなくなってしまうことが、あるのかもしれないと思うと、素直に、こわいな、と思う。

世界が終わるよりも、文化が途切れるほうが、私にとっては実はよっぽどこわい。

だって文化は、積み上がっていくものだ。本来は。ずっと、絶え間のない積み重ねによって、続いて、次が見えてくるものなのに。



そうはいっても、自分はとにかく積み上げ続けてほしい文化たちにお金を落としていくしかない。せめて。と、こんな事態になってみてあらためて気づく。

SNSにいるオタクの皆様方がいつも「推しにお金を落とさなきゃ!」って言うけど、こんな気持ちかあ、と、自分の行く本屋を推しだなんて思ったことのなかった私は思う。

労働や仕事なんてとくに好きじゃないと思ってたけど、でもやっぱり資本主義のなかだったら、経済がぐるぐるまわっている状態が、経済をとにかく止めないことが、死活ラインなのだ。だったら、どうにか、まずはいちばん手軽なことから、経済を自分のできる範囲でまわすところから、やっていくしかない。健康に気をつけて、手洗いうがいして、家にいて、仕事する。自分にできることをやらなきゃ、と、思う。


たくさんの人を生かしている文化にたずさわっている人たちが、本当に、これからも文化を積み上げ続けられることを、切に切に願っている。そのために自分の仕事を頑張って、なにかを買って、経済をまわそう、と。それしかできないけれど。

なんとか、頑張ってきた人たちがみんな、どうか、健康でありますように。どうか、ちょっとでも早く、致命傷にならずに、あんな心配は杞憂だったといえますように。と、ほんとうに、思ったりするんだよ。


↑友達から教えてもらった、関西の映画館の支援Tシャツ。行ったことある方も多いと思うのでぜひ。


↑たのしみにしてるので、撮影再開できる日がきますように。ほんとに。

いつもありがとうございます。たくさん本を読んでたくさんいい文章をお届けできるよう精進します!