共創型イノベーションの場づくり

こんにちは、タカハシジュリです。
梅雨入りして雨の日が増えましたが、以前として出かける用事もほとんどなく、大学院の授業もオンラインのため雨で困ることは洗濯とたまの買い物ぐらいなものです。
むしろ、ここ数ヶ月間、外出自粛のために季節というものをあまり感じることができていなかったからか、雨の音がしたり雲行きが怪しくなったりすると少し嬉しくなる自分がいます。自粛生活に慣れた自分に少し寂しさも感じるけれど、ふとした時に外の世界にちょっとした感動を覚えると嬉しい気持ちになりますね。
あと、今年に限っては、夏らしいイベントも軒並み中止なので何を楽しみに思えばいいのか自分でもよくわかりませんが、梅雨には、梅雨が明けるのを楽しみにするという楽しみがあるな、なんてふと思いました。


前置きが長くなりましたが、ここから本題のCL特論レポートシリーズです。

今回登壇してくださったのは産業技術総合研究所江渡浩一郎さんです

江渡さんは学生時代からメディアアーティストとして活動され、アルス・エレクトロニカ賞のネット部門ゴールデン・ニカ賞など、作品の数々を受賞されています。最近では、共創イノベーションの実践研究を手がけられており、ニコニコ学会βなどをプロデュースされています。


今回の講義では、自身の作品の紹介や、「共創型イノベーションとその成功のための戦略」を様々な研究や実例をもとにお話しいただきましたが、この記事ではその中でも私が一番印象に残ったお話を紹介させていただこうと思います。

それが、(講義の本題とは少しそれてしまうので恐縮ですが)ニコニコ学会βの「プロジェクトの期限」のお話です。



ニコニコ学会βにおける共創システム


共創プラットフォームを研究し自身でも多くのシステムをつくられてきた江渡さんが、その発展系として立ち上げたのが「ニコニコ学会β」です。

ニコニコ学会βは、「人に愛される学会、研究のプラットフォームを作りたい」という想いの元に創設され、「日本人全員が科学者」という理念のもと、プロ/アマの区別なく新しいアイディアを生み出す研究者を「野生の研究者」と呼び、学会の中でプロの研究者とつないだり社会へ発信することで、共創型イノベーションを生み出す仕組みです。

また、学会は基本的にボランティアで運営されました。ただ単にビジネスの観点だけでなく、「知の発展」に対するモチベーションや「おもしろそう!」という感覚的なワクワクを共有した方々、そしてユーザーと共に作り上げたそうです。まさに「共創型イノベーション」と言えますね。

学会が創設された背景には、江渡さん自身が、専門や専攻の枠に捉われず、全ての人間の「発見」に社会を推進させる可能性があると信じておられることがあるのだろうと思いましたし、また、2011年の原発事故を機に「科学は科学者だけのものではない」という価値観が浸透したこともあると仰っていました。


私が「イノベーション」に惹かれ大学院で学ぼうと思った理由は、イノベーションの先にある未来が「開かれたもの」であると思っているからです。
「社会はみんなのもの」であるはずなのに、急速に発展する社会にシステムや教育のアップデートが追いつかないことなどを背景に、社会は複雑化し続け、現代社会に生きる人の中には社会の様々なことに対してどこか「他人事」のように捉える人が増えているなと思っています。これから社会はますます発展し複雑化するはずですし、ここからここまでが自分の管轄でそれ以外は人任せ、といったような「枠」が様々な発展の可能性の足を引っ張ったり、発展しているはずなのになぜか不安で心地よくないといった社会になってしまわないよう、「開かれている」ことが本当に大切ではないでしょうか。

ニコニコ学会βは特に「専門/非専門」となってしまいそうな分野において、新しい知の発展のあり方を世に提示した素晴らしい例だと思いましたし、膨大な情報に埋もれ他人由来の情報を鵜呑みにしがちな現代社会において、「わからない」「知りたい」と純粋に思うことや「わかった!」と思う楽しみを気がつかせてくれる装置のようにも感じました。

今回紹介させていただいているニコニコ学会βをはじめ、江渡さんが作ってこられた共創の場には、「誰か専門家に任せておけばいい、それが一番だ」といったような固定観念を見直す力、そしてそれだけでなく、単純に「わくわくする!」という仕掛けがあり、またネット上に場の拠点を置くことでみんなが参加しやすく、広まりやすく、浸透しやすいイノベーションの場が生まれていると思いました。



5年という制限

ニコニコ学会βの特徴の一つで私が最も興味深かったのが、2011年から5年間限定で開催されたという点です。

何かを始める時、継続を前提として考えがちですし、組織をいかにしっかり構えるかということに捉われがちですが、それも実はある種の固定観念で、それに従わないからこそえられるメリットもあるのだとこのお話で気がつかされました。

その前に運営しRuby会議の経験から、きちんと運営組織を作らずに続けられる限度は5年だと感じ、期限を設けたようですが、このことで、「全力投球ができた」と江渡さんは仰っていました。
共通善を持つ協力者のおかげで組織の簡略化でき、そのおかげで運営費や継続のためのコストなどの問題に悩まされることもなく、結果的にフットワークの軽い運営ができたそうです。

講義を聞いて、こんなに素晴らしい学会が組織としてはちゃんと構築されずに運営されていたと知り、本当に驚きました。物はやりよう、なんですね。
もちろんそこには、社会にしっかりと目を向け、社会にあったものを提案する力や努力も欠かせないとこの講義で感じました。

社会の運営、発展には「お金」がかかるどうしても思いがちです。そして基本的にはそれは当然でそうだと思います。「お金がもらえるから動く」という考えにも、「確かにそれはそうだ」と思います。
しかし、今回の例は「発展にはお金がかかる」という固定観念を打ち破ってくれるもののように感じました。お金は何をするにもかかるものですが、それでも、たくさんの人の「思い」と「ワクワク」と「アイディア」が社会を推進させる源なのだ、と。




イノベーションに対するワクワクは大学院に入ってからますます膨らんでいます。ビジョンを妄想することも非常にたのしいですし、それに向けてのソリューションすら1から考えていくことがたのしいです。
今回の講義では、ソリューションに向けていかに社会に生きる人々に寄り添いながら自身が柔軟になれるかということを学びました。
貴重なお話ありがとうございました!





開講日:2020年6月15日
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース
クリエイティブリーダシップ特論 第5回江渡浩一郎 さん


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