NIRSの信号処理について考えてみる〜①NIRSのおさらい〜
NIRS: Near-Infrared Spectroscopy
NIRSって何かというと,近赤外光を使って脳皮質上の血流変動を計測することで,脳のどの領域がどのくらい活動しているのかを調べる装置。いわゆる脳機能イメージング装置の1つ。NIRSは脳皮質の特定の領域が賦活すれば,そこに酸素を多く含んだ血液が集中するということを利用している。
脳機能イメージング装置には他にも色々あって,有名なものとしてはPET (Positron Emission Tomography)とかfMRI (functional Magnetic Resonance Imaging)とかがある。他の装置と比べた時のNIRSのメリットは「非侵襲的」「(他の装置と比べたら)安い」「使い方を学べば誰でも扱うことができる」の3点かなと思う。
もちろんこれ以外のメリットやデメリットもあるんだけど,まとめるのが面倒だからこの記事を読むような方々には既知の情報だと思うので書かないことにしよう。
今回は実際に得られたNIRSデータをどう扱うかについて書こうと思っているから,もしNIRSの原理や他のイメージング技法との比較,それぞれの特徴などについて知りたいという場合は宮内先生の論文 [1]がおすすめかな。
(↑日本語だから読みやすいよー)
(小ネタ)
Q. fMRIとMRIって何が違うの?
A. 同じもの。研究目的で脳の反応(脳機能)を調べるために使うから"functional(機能的)"。同様にfNIRSとも。
oxy-Hbだけじゃなくdeoxy-Hbも忘れずに
というわけでここからが本題。実際にNIRSを使ってデータを得ましたという段階からの話。
基本的にはNIRSを使うと…
酸素化ヘモグロビン (oxy-Hb)
脱酸素化ヘモグロビン (deoxy-Hb)
総ヘモグロビン (total Hb)
…の濃度長変化量(ベースラインからの相対値)が得られる。あくまで相対変動値であることには注意が必要。
oxy-Hbが脳活動を最もよく反映していると考えられているから[2, 3],これが脳活動の指標として扱われることが多いんだけど,この点について注意しないといけないことがある。
NIRSの近赤外光って脳組織以外にも皮膚や頭蓋骨なども経由しているから,出力されたデータには純粋な脳の反応以外にも実験参加者の呼吸とか心拍などの生理活動に由来するノイズや計測機器自体のノイズなども含まれているんだよね(図1)。
ここでoxy-Hbだけ見ていると,脳活動によるoxy-Hbの変動なのか,ノイズによる変動なのかがわからなくなる。
例えばoxy-Hbとdeoxy-Hbが同じように変化している場合は脳活動以外による血流変動が反映されていると考えられる(図2)。
逆に,oxy-Hbとdeoxy-Hbが別々に変化している場合は脳活動による血流変動が反映されていると考えられる(図3)。
つまり,脳活動の指標をoxy-Hbとするのはいいんだけど,解析の際にはdeoxy-Hbの動きも見ておかないとマズイよねという話で。
ただし,例えば「実際には脳のわずかな反応があるものの,ノイズ由来の血流変動が大きい」といった場合でもoxy-Hbとdeoxy-Hbが類似の波形パターンを示す可能性があるから,oxy-Hbとdeoxy-Hbが同じように変化したからといって脳活動が反映されていないとは言い切れないことには注意が必要かな。
ということで,今回はここまで。
引用文献
[1] Miyauchi, S. (2013). Non-invasive study of human brain function and psychophisiology (2nd Edition). Japanese Psychological Review, 56(3), 414–454. https://doi.org/10.24602/sjpr.56.3_414
[2] Hoshi, Y. (2003). Functional near-infrared optical imaging: Utility and limitations in human brain mapping. Psychophysiology, 40(4), 511–520. https://doi.org/10.1111/1469-8986.00053
[3] Strangman, G., Culver, J. P., Thompson, J. H., & Boas, D. A. (2002). A quantitative comparison of simultaneous BOLD fMRI and NIRS recordings during functional brain activation. NeuroImage, 17(2), 719–731. https://doi.org/10.1006/nimg.2002.1227