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何故、日本ではセル画風アニメが強い人気があるのか?

何故、日本ではセル画風アニメが強い人気があるのか?』というテーマに対し、自分はここには、「印象派」絵画のテイストを映像に取り入れる際にどのような解釈が行われたのかの歴史的な経緯が関係していると考えています。
時々口頭でお話したものですが、それをまとめておきます。

ハリウッドのカラーは印象派絵画の色

ハリウッドの映画にとって、カラーキー配置は印象派絵画を基本としています。これはごく普通に説明されてますし、しばしばそれに携わった人達も同じ事を言います。(下の資料の45ページなどにもそう書かれています。)

そもそも何故ハリウッドが印象派絵画をカラーキーにするのかというと、印象派絵画こそが西欧で初めて大衆のために描かれた絵画だからです。それ以前の西欧絵画は教会や国王などの権力者向けに描かれたものです。ハリウッドは大衆娯楽が中心なので、それが印象派絵画を意識するのは当然です。

印象派絵画の背景×セル画のキャラ=アニメーション

同様にディズニーはアニメーションを制作するに当たり、印象派絵画の背景にセル画で描かれたキャラを組み合わせることを考えつきました。元々ウォルト・ディズニーはセル画の絵は嫌いだった(※これ、ディズニーアニメを支えた有名な女性カラーリストをウォルトがなかなか認めようとしなかったことで、知られています。)ので、全部印象派タッチでやりたかったと思われるのですが、当時の技術がそれを許しませんでした。代わりに、絵に描かれたキャラ達に感情移入を引き起こさせるための見せ方を研究するという方向に向かいました。これが『Illusion of Life』で書かれている内容です。

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ディズニーにとっては、セル画は本当に欲しい表現の代替手段だった?

やがて技術が進歩して、印象派にとって必要な光とカラーの相互作用が実際にCGで取り扱えるようになった段階で、ディズニーはそれまでの手描き作画ラインをリストラし、全て3DCGへと移しました。それまでの手描き作画の担当者は、3DCGアニメの監修にまわしました。この背景にあったのは、その置き換えがウォルト以来の悲願だったからではないでしょうか。彼らにとってはセル画とはあくまで、光と影、そしてカラーとの相互作用で描かれるキャラクター達が現れるまでの代用手段だったからです。多分、それが完成したのは、『ズートピア』だったと思います。

印象派絵画に影響を与えたのは、日本の浮世絵

ここで印象派絵画の元々の由来を考えてみると、印象派運動を主導したアーティストに影響を与えたのは、実は日本の浮世絵です(この辺りは、こちらを読むとよいでしょう。)。浮世絵は、元々一般大衆に向けて書かれたもので、風景以上に役者絵などキャラを描いたものに人気があり、しかもそのカラー版画と精緻な線表現に特徴があります。浮世絵にインスパイアされた印象派が、最終的に大衆を味方にしたのも当然なのかもしれません。

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また日本の浮世絵は、プロダクション体制で作られた大衆娯楽作品だったことも非常に興味深いことです。すでに江戸時代に、日本には浮世絵を中心とするコンテンツ文化があったということです。

日本のクリエイターは、ディズニーのセル画アニメに己らのルーツを見た

ここで、ある種の本家帰りが発生します。戦後ディズニーのアニメをそれまでの経緯をすっ飛ばして見た手塚治虫や東映の人達は、そこに自分達のルーツを見たのです。従って、多くの日本人にとって、セル画は代用手段ではありませんでした。むしろ、精緻な線でキャラが区切られていることのほうが、重要な要素だったという訳です。


上のような都合のひとつとして産まれたのが、ディズニーメソッドに基づく物理ベースレンダリングです。これらは印象派絵画の特徴である光とカラーの相互作用を上手にシミュレートするためにできています。一方で日本人の好みの中には、印象派絵画に影響を与えた、浮世絵由来の「精緻な線で区切られたキャラクター」が、高い評価として残っている訳です。これはおそらく浮世絵のさらなるルーツである、花鳥風月を描く文人画をもつ中国に関しても言える可能性があります。

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