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夜中の3時が朝になったら


はじめて行ったクリープハイプのライブは2015年、全国ホールツアー。地元の中くらいのホールだった。部活の定期演奏会で自分が立ったことのある場所に、クリープハイプが存在していることが不思議だった。田舎の学生だった私にとってライブとは、憧れで、夢で、いっとうきらきらしたものだった。

本当は、あの人と一緒に行こうと思っていた。

約束をしたわけでもないのに、きっと行ってくれるだろうととった2枚のチケットの片方は、同じ塾に通っていた友人の手に渡った。

「ごめん、受験が終わるまではライブも我慢しようと思って」

そういう、真面目なところが本当に好きだった。

HE IS MINEでライブははじまり、お決まりの言葉を叫んだ。少し、恥ずかしかった。あの人が隣にいなくて良かったのかもしれない。はじめて見るクリープハイプは、本当にかっこよかった。


大学生になり、ライブハウスやフェスにたくさん足を運んだけれど、進学先の違うあの人と一緒に行ったものは少なかった。


2017年、春フェス。新宿行きの夜行バスに揺られながら、あの人が隣で眠っているという体験を噛み締めていた。ふいに、額にキスをされた。きっと夢ではなかったし、勘違いでもなかった。これ以上の幸せはないと思った。

クリープハイプの出番は真ん中らへんで、はじめて一緒にみることができて嬉しかった。タイムテーブルがyonigeと被っていて、メンヘラバンドで客を取り合って最悪だと尾崎さんが言っていて、本当に可笑しかった。トリのバンドを見る頃には疲れ果てていて、スタンド席で2人とも少しだけ眠ってしまった。


その年の夏フェス。自分と、あの人と、共通の友人で参戦。友人は裏被りのバンドを見に行ったので、2人でクリープハイプのステージへ行った。野外フェスの大移動さえ楽しかった。いちばん好きな曲が聴けたら、ちゃんと言おうと思っていた。

もう要らない もう要らないよ
君の他には何にも要らないよ

いちばん好きな曲は歌われなかった。ついぞ私とあの人の、手と手が繋がれることもなかった。

「彼女ができたから、もう会えない」

気まずそうな顔で、しかし決意のこもった顔でそう言った。その後はあっさりしたもので、今日まで一度も会っていない。


それからのクリープハイプのチケットは、ずっと1枚でとっている。2018年のホールツアー、京都ロームシアター。ステージからすごく近い席だった。いちばん好きな曲のイントロが流れ、ぽろぽろの涙がぼろぼろになって、ふと目のあった小川さんに笑われ恥ずかしくなったが、それでも涙は止まらなかった。あの人の隣では叶わなかった曲をひとりで聴き、大切な物を無くしたのだと、この時はっきり分かった。


クリープハイプが好きなひとはメンヘラだ、痛い、親の車で聴けない(それはそうかも)、何度も言われてきた言葉。それでも私とあの人の、一度きりの夜中の3時は朝になったのだった。いつまでも昔の思い出にしがみついているのも格好が悪いが、それでもこのいちばん好きな曲は、今でもいちばん好きな曲だ。


あの頃の毎日は、あの人がいればそれで良くて、あの人がいなければ生きていける気持ちになれなかった。これからもきっと、いちばん好きな曲を聴くと、あの頃の気持ちを懐かしく思う。ぼんやり浮かぶあの人の顔はどんどん薄くなる。どうかどこかで、お幸せに。今はそう思えるのは、クリープハイプがいてくれたからだ。

今の毎日には、今の毎日にも、クリープハイプはいてくれる。武道館、野音、仙台、松山、泉大津、新木場、中野サンプラザ、幕張、大阪城ホール。いろいろな思い出がたくさんの場所にある。それはこれからも増え続ける。

一緒にいてくれてありがとう。
どうかこれからも、よろしくお願いします。


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