百目鬼について・なぜ百目鬼は自分を抑えられないのか
「囀る鳥は羽ばたかない」
考察その3
第48話までの百目鬼について
※2022年4月にTwitterに投稿したものを加筆・修正し、再掲しています。
※誰の考察も参考にしておりません。もし似通った解釈があった場合はご容赦下さい。
前回は矢代に焦点を当てたので、今回は百目鬼の執着愛について。 まだ謎な行動が多いので、分かっている部分だけで考えてみました
百目鬼は初め「どうにもアタマが足りなくて喋りも上手くねぇ」男として矢代の前に連れてこられる。
自分の名前を気に入ってるかと問われても 「興味がないです」 と答え、矢代の命令に従って無表情でシャクらせる。
眼光が鋭く、何事にも動じない男のようだけれど、表情には覇気が感じられない。
このモノローグから、家庭の中はあまり温かな場所ではなかったように思われる。
葵ちゃんを引き取った頃の幸せな思い出も、全て父親に壊されてしまった。
父親が原因で家庭が崩壊し、葵ちゃんへの罪悪感を抱えて、思考も感情も欲求も、すっぽり脱け落ちてしまった百目鬼。
にもかかわらず、矢代にだけは感情が動いている。
百目鬼にとって矢代の存在は、モノクロの世界に灯った唯一の光だったのだと思う。
ただ矢代を慕い、尊敬し、心酔していた百目鬼。
しかし、共に行動していく中で、純粋な気持ちが次第に生々しい身体性を伴うものに変わっていく。
少しずつ、身体の機能復活の徴候は現れていたけれど、矢代をかけがえのない存在だと自覚してからは、その思いがはっきりと身体に現れて(つまり勃起)、抑えられなくなっていく。
自覚のきっかけは矢代の狙撃事件。
撃たれて倒れ、血を流した姿を目の当たりにして、矢代を失う怖さに震える百目鬼。
指を詰め、頭を守るために自分の命をつかうと覚悟を決めたこの瞬間から、顔つき、表情が変わり、急に暴力的になっている。
この時を境に、枯渇していた感情や本能が、勢いよく溢れ出したのではないかと思う。
百目鬼にとっての本能とは性と暴力であり、言い換えれば生命力だと言える。
矢代と出会い、矢代を守ると覚悟を決めた瞬間から、生命力が復活し、勃起が可能になる。
ところが、突然勢いよく溢れ出した本能はとどまる所を知らず、自分の意志で抑制することが出来ない。
13話・影山医院で矢代の射精行為を手伝っているうちについにタガが外れ、思わず体を押さえつけて、矢代をビビらせる。
(この時に完全に勃起を果たす)
16話・「邪な感情しかねぇなら気色悪ぃから今すぐ消えろ」と杉本に注意されても「自分ではどうにもできません」と答え「ガキじゃねぇんだ」と怒られている。
杉本の指摘のとおり、百目鬼は初めて恋を知った思春期の子どものようだ。
この会話のあと、井波をボコボコに殴り倒し、またしても矢代を押さえつけている。
21話・レクサスの中でも、矢代が煽ったとはいえ、やっぱり押さえつけている。
切実にそう思いながら 「自分のものにしたい」 という欲求を自制出来ない。
「父親とそう変わんねぇなぁ」3巻15話
「親父と同じ…クズなんだよ」3巻16話
井波の言葉が心をえぐる。
第2話、自分の生い立ちを矢代に語る場面で、父親への思いをこう吐露している。
そこまで憎んでいる父親と、自分は同じことをしてしまうかもしれない。
頭を抱えて途方にくれる百目鬼。 だからこそ
この矢代の言葉に救われ、本当に嬉しかったのだと思う。
勃起を知られ、捨てられるかもしれない不安と、頭を繋ぎ止めたい一心で、
そうすがり、求める百目鬼に、体は反応しても言葉で答えることが出来なかった矢代。
(4年後の48話でやっと言葉に出来ました! お前でいいと。4年越しの精一杯の言葉です)
翌朝矢代に置いていかれ、恋の痛みと苦しみに影山のコンタクトケースを握りしめる姿は、若き日の矢代と重なる。
しかし、執着愛の百目鬼はここで諦めないのです。
いくら暴言を吐かれても、蹴られても、自分を肯定し、生かしてくれた矢代の側を離れない。
健気で一途で怖いほどの執着で、どうやっても離れない百目鬼。
そう言って銃口をむける矢代。
こんな風にして、矢代は、自分に執着する人間をことごとく壊してきたんだろうな。昔彼に入れ込んで破門された平田の部下のように(26話)
(百目鬼を)壊したい
堅気にもどしてやりたい
失いたくない
どれも全て矢代の本心。
4年前の百目鬼は、自分の気持ちばかりが先行し、求めるばかりで、矢代の事情や複雑な気持ちに、全く思いが至らなかった。
15話・井波(初登場!)の待つホテルの部屋に向かう矢代に百目鬼は…
この言葉を聞いた後の、矢代の微妙な表情は、悲しんでいるようにも傷ついているようにも見える。
この時の百目鬼は、矢代の行為を「あなたのしたいこと」と認識し、部下であったにしても「仕方ない」と止めるのを諦めている。
しかし抗争終結後、病院屋上での七原との会話で、はじめて気付く。
矢代の行為は「したいこと」ではなく「止めたくても止めらんねぇ」行為であること。
涙を流した理由。数々の言葉の意味。
自分の気持ちを押しつけるだけでは、矢代の側にいることは出来ないと悟った百目鬼は、何かを決心した顔で暗闇の中へ降りていく。(6巻ラスト)
そして…
矢代と同じ世界で生きていくために、自分を曲げ、犯罪に手を染めてまで、裏社会の方へ一気に舵を切ってしまった百目鬼。
「まとも」な人間ならばあり得ない選択だ。
純粋であるが故の狂気じみた執着愛。
この狂気を秘めた一途さが、矢代の殻を壊し、平田から命を守った。
矢代は影山のためにヤクザになり、百目鬼は矢代と生きるためにヤクザになる。
相手のために自分を犠牲にする一途な2人。 優しくて強くて綺麗で壊れている2人。
4年がたち、思春期の子どもから、大人の男へと大きく変貌を遂げた百目鬼。
「頭の手足になり頭の望むことをするだけ/13話」で、命さえ頭のものだと断言していた可愛い雛鳥が、
「俺がどう生きようと何になろうと 俺のものです。俺の時間もこの体も/41話」
こう言い放ち、矢代と対等な立場であるかのように振る舞っている。
矢代への思いが漏れないように(漏れてるけどね) 素っ気ない演技をして対応しているのは、求めるだけでは得られないと学んだからだろう。
45話・対等な立場として「矢代さん」を問い詰める百目鬼。
愛憎と苛立ちを込めて。
求めてほしくて。
「何なんですか」
「どうして欲しいんですか?」
「どうにかして欲しいように見えます」
ここでまたしても井波の登場です。
以前とは違い、部下ではなくなり大人になった百目鬼は、矢代を力ずくで引き離し、井波の元には行かせない。 嫉妬丸出しですね。
そして48話。
少し目を離した隙にまた井波の所へ行ってしまう矢代に、百目鬼は苛立ちを隠せない。
そりゃ怒るよね。
手首をつかみ
「何度か置いていかれてるので」
そう言わずにはいられない。
自分の言動を都合よく忘れている矢代と、矢代のことなら何一つ忘れない百目鬼。
48話で明らかになったのは、矢代が三角の懐刀(?)として動いていたことと、井波から情報を得ていたこと。
井波はハイエナ並みに嗅覚が鋭そうなので、情報源として使えるヤツなのでしょう。
相手の急所核心を的確にえぐってくる井波。
さて。
4年の間、矢代に追いつきたい、対等になりたいと必死で動いてきたはずの百目鬼。
しかし、切れ者の矢代にはどうしても敵わない。そのことを思い知らされた百目鬼が、思わずボソッと漏らした本音。
「"あなた"にはいつも敵わない」
鉄仮面だった百目鬼が、ふと漏らした素の言葉に、ついに矢代の本心が引きずり出される。
神谷を乱暴に掴み後ろに投げ捨てて、百目鬼をぐっと引き寄せる。
(神谷の扱い雑っ!神谷グッジョブ!)
咄嗟に出る行動こそ、本当の願いが表れるものですね。
矢代がはじめて、欲しいものを自らの手でつかんだ瞬間でした。
そして、今までどうしても口にすることが出来なかった本心、精一杯の言葉。
「やっぱお前でいい」
レクサスの時と違うのは、体が反応して引っ張ったのではなくて、心から百目鬼を求めて引っ張ったところ。
ようやくここまでこれた矢代。感無量です。
(引っ張られて驚く顔と前髪ふわっの百目鬼が好き)
百「俺で我慢するよう言いましたが」
矢「了承してない」(47話)
矢「お前で我慢すんじゃなかったのか?」
百「井波がいるんじゃないですか?」(48話)
っって、全くもー何やってるんでしょうね!
矢代、了承してないんじゃなかったの?!
百目鬼、なんか拗ねてるよね?!
さて百目鬼君。
やっと君の望み通りに、矢代から求めてくれたよ。
"俺を手酷く捨てて、いまだに井波と繋がっている憎くて愛しいあなた"
さあ、一体どうしますか?
そして今後は、よりハードなヤクザパートに突入していくんでしょうね。
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