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2024/2/26配信『永田敬介×小松海佑ツーマンライブ 虹保留』(アーカイブ配信3/11まで)

『芸人雑誌』(太田出版)主催『永田敬介×小松海佑ツーマンライブ 虹保留』を配信で見ました。


地方在住なので、月に何回も東京まで行くことはできませんから、配信があると本当にありがたいです。
また、私の場合、永田さんの出演される配信は、劇場で見たものも全て買って、じっくり見直すことにしています。コスト面の課題がクリアできるようでしたら、口外禁止の内容でない限りは、なるべく、アーカイブは配信していただけたらありがたいなと、いつも思っています。
今回も、配信ありがとうございました。

他のライブでは味わえない贅沢な時間

今回のライブは、小松さん、永田さんの順に、約30分の超長尺漫談を1本ずつ披露した後に、企画コーナーを30分ほどやるという非常に贅沢な内容でした。

ネタは元々2本ずつの予定だったそうですが、小松さんが、出来た新ネタが長いから1本にしたいということで、永田さんも、急遽、色々と思うことを、その場で足しながらやることにしたそうです。

「でも、逆に良かったよね、お互い、他のライブでこんな尺やれないもんね。」という永田さん。

急な変更にも、淡々とその場で合わせられる力量がすごいですし、恩着せがましさを一切感じさせない姿に、永田さんの優しさを感じました。

客としても、他のライブでは味わえないような特別な体験ができたのは嬉しいことでした。予定では、ネタ時間30分、企画コーナー30分だったのに、本来、終演が予定されていた時間まで、2人でネタをされていたそうです。この贅沢な時間は、主催の方や劇場の方の柔軟な姿勢のおかげでもあったのですね。ありがたいなと思いました。

喋りだけで描き出す世界に引き込まれた超長尺漫談

小松さん、永田さんともに、長い長い話を身ひとつで喋っているのですが、描き出される世界に引きずり込まれて、時間があっという間に過ぎていきました。

以下、小松さん、永田さんのネタの内容自体には、なるべく触れず、受けた印象を中心に書き記してみます。

小松海佑さんの漫談

小松さんの漫談は、「有名人」の思い出話。小松さんが丁寧に生き生きと描き出す「有名人」の人物像、その滑稽さに共感の笑いを何度も誘われました。とても面白かったです。

一つひとつの言動に対して、小松さんは、かなり深く掘り下げていきます。人間とか生きることについて、ちょっと考えさせられるようなくだりもありました。『芸人雑誌』volume10の中で「僕は全体として説教をやっているので(笑)」と小松さんが仰っていたのが、なんとなく分かるような気がしました。でも、この坊主頭の端正な顔立ちの青年が語ると、「説教」というよりは「主張」という感じがして、押しつけがましいことはなく、瑞々しさとか爽やかさを感じます。生意気なくらいが心地よいような感じ。

最後の展開には息を飲みました。サラリとした語り口調がまたそれを増幅させるようでした。そして、ラストに描写された色彩は鮮やかな余韻を心に残しました。全体的に、小説のようだとも思いましたが、小説の朗読とはまた違って、語る小松さんの「人」も強く感じられました。分かりませんが、こういうところが、漫談というものの面白さなのかもしれないと、漠然と考えたりもしました。

ネタ後に永田さんが明かされていましたが、この漫談の中に、小松さんはアドリブを入れておられたそうです。どこがアドリブだったのか、私には分かりませんでした。こういう情報を得て、初めて「技術」というものへの認識が生まれてくるなと思いました。サラッとすごいことをやってしまうと、素人は、そのすごさになかなか気付けない。気付く必要はないのかもしれませんが、私は、こういうことを知りたいと思う方なので、このアドリブの件も心に残りました。

永田敬介さんの漫談

永田さんは、お仕事関係の実体験をベースにした漫談。このライブの直前の出来事を喋っておられて、まさしく「その場で思ったことを入れていく」スタイルだったと思うのですが、淀みなく喋り続けて、どんどん爆笑をとっていきます。

この前も、十数分前のライブ中の出来事を漫談にするという、ほぼ即興みたいな喋りで、爆笑をとる姿をライブで見ました。「天才」と呼ばれるのはお嫌いだそうですが、やっぱり天才なんだろうなと思わされてしまいます。そういえば『芸人雑誌』volume10のインタビューの中で「ネタづくりは最低限の内容を携帯にメモるだけなんです。それも前日にできれば充分。」とお話されていました。この即興的な喋りの面白さ、エピソードトークを披露するタイプのバラエティで、ご活躍されそうなのになぁ…と、あくまで素人考えではありますが、もどかしいような気持ちにもなります。

漫談の内容ですが、今回は、かなり生々しい要素も含まれていたので、下世話な心も刺激されて、話にどんどん引き込まれました。そんな生々しさも手伝ってか、私は、初見の時は、永田さんの怒りの矛先に、自分を重ね合わせて受けとめてしまい、ネタの最後の方は怖くて震えあがってしまいました。でも、2回目に見た時には、面白いばかりだったので、初見の時は、ちょっと前のめりで見過ぎていたのかもしれないです。いけません、こんなんでは。

永田さんの漫談は、いつも丁寧に共感の土台を作ってくれるので、すごく分かりやすいと思っています。今回は、冒頭の自宅での出来事が、後の怒りを「当然のこと」として、受けとめやすくしてくれていると感じました。漫談中の言葉の一部を切り取ってしまうと、ずいぶんと乱暴なことを言っていると感じる人もいるかもしれませんが、通して聴いていると、「それは怒っても仕方ないですよね」という気持ちにさせられるし、永田さんが、怒りの対象をバッサバッサと斬っていく様子は、痛快にも感じられます。

それから、永田さんの語る怒りに共感させられるうちに、「ちゃんと怒ることこそが、他人に対しても自分に対しても、誠実な生き方である。」と思わされて、自分の生き方を省みたりもしました。今回に限らず、いつも、永田さん自身は面白い話をしているだけで、決して誰かに説教しているわけではないのですが、私は永田さんの言葉を受けとめて、勝手に反省していることが多いです。永田さんのこういうところが「カリスマ性がある」と言われがちなところかもしれません。生身の人間を神格化するのは良くないと思っていますが、私も、そういうところに連なる受けとめをしがちだなと、また反省しました。(反省したがるのもある種の性癖かもしれません。)

最後に、Twitterのライブレポで既出の内容程度にとどめますが、見た人にしか分からないことを書いてみたいと思います。今回、初見の時は「苺」側で震えていた私も、2回目の視聴の際には、「そんな苺はボコボコにされて当然」と感じていました。そして、永田さんの語る「一年後」に爆笑しました。「一年後」には、きっと「苺」の罪は笑いに変わって赦されているはずと希望を抱きました。永田さんの絶望はまだまだ続くけれども、そこには笑いと救いもありました。一年後が楽しみです。この不快感を煮凝りにしたように、とんでもないことになっているはずと想像すると、不謹慎ですが笑えてきます。(気になった方はぜひ配信で見てください。)

あと、以前からちょっと思っていたのですが、漫談中、負の感情を爆発させているのに、俯き加減で喋っている口元は、ちょっと微笑んでいるように見えるのも、永田さんの不思議なところで、時々、仏像みたいだなと思ったりします。本当に、生身の人間を神格化するつもりはないのですが、この口元の表情に、何か心を癒されるものを感じているのも、舞台上の永田さんが、輝いて見える一因かもしれないです。

企画コーナー「共感」

永田さんと小松さん、どちらがより客の共感を集めることができるかを競う企画コーナー。一つ目は「Meme(ミーム)」で、ネットミームになっているYouTube動画のコメント欄の一番上にあるコメントを予想する企画、二つ目は「Number」で、画面に表示される人物や物を見て1から99までの数字を自由に与えるという企画でした。

非常に感覚的な出題で、大喜利力を発揮するというよりは、インクの染みを見てどんな絵が見えるかを答えることで、その人の意識していない部分までが浮かび上がってくる心理テストに近い感じがしました。ファンとしては、お二人の感性や思考に直に触れることができるような面白い企画だったと思います。でも、永田さんが「お題選んだ人の尖り感じたよね、全体的に。」と仰っていましたが、舞台上のお二人は、どうやって回答をユーモアに結び付けようかと、苦心されているようにも感じました。それでも、出題に対して、剥き出しの文句を言わないところが、上品だなと思いました。

一つ目の「Meme(ミーム)」は、1問解くたびに、出題者の意図を推測しながら、正解の方向性を探っていく思考の過程が見えて、特に永田さんは3問目では、正解の方向に迫っていたので、すごいなと思いました。
そして、正解と照らし合わせて、自分の回答と正解がどう違うか、何が正解の方が優れているかというのを語られていたところが、とても面白かったです。
YouTubeのコメントが、単なる感想ではなく、ちゃんとユーモアをとりにいっていると気づいたお二人。そもそも、YouTubeのコメントを、少し下に見ていたかもしれないという反省のもと、「俺ら二人とも自分のYouTubeのコメントオフにしてるもんな」と言った永田さんに、爆笑させられました。

二つ目の「Number」は、お二人が、なぜその数字を選んだかという理由を語るのが面白かったです。特に、小松さんの着眼点は、自分は思いもしなかった方向からのものが多く、すごいなと思いました。そして、そんな小松さんのすごさを、永田さんが、しっかりと言語化して褒めておられたのに共感しました。他の方のすごいところを、わかりやすく褒めることができるのもすごいです。

このお二人、かつて『AUN新呼吸』でコンビを組んで出場されたこともあるとのことです。この頃、私はまだ永田さんのことも小松さんのことも知らなかったので見ていないのですが、「今大会最注目、“阿吽”が想像できないふたり」「自分が書き終わったら、相方が書き終わってなくても手を挙げちゃう」「新しいパターンの『コンビ大喜利』を生み出したふたり」という写真キャプションを見ただけで、ワクワクさせられます。

確実に面白いから後は広く知られるだけ

このお二人と街裏ぴんくさんによるスリーマンライブ「夢の島志念公演」について、『芸人雑誌』volume10 にインタビュー記事が掲載されていました。エンディングでも少し触れられていましたが、今回の「虹保留」ビジュアルは、この雑誌に掲載されていた写真を使用されています。

雑誌に掲載された写真には、日陰にたたずむお二人の目線の先に、太陽の光に照らされた場所で、カメラに向かってポーズをとっているぴんくさんが居るのですが、今回の宣伝ビジュアルは、お二人の部分だけを切り取って使われています。
「3人でやっていたユニットライブからぴんくさんだけ抜いた感じ。置いて行かれた、というか…」という小松さんに、「そもそも自分はぴんくさんとは同じルート上にいないと信じている。」と答える永田さんが頼もしかったですし、どんな風に売れていったらいいのか、淡々と語り合うお二人が、決して下を向いていないのがとても良かったです。

「虹保留」というのはパチンコ用語で、当たりが確定していて順番待ちの状態を言うそうです。
確実に面白いから、後は広く知られるだけ。
お二人の面白さや魅力が、色んな形で、さらに多くの人に、知られていきますように。

まずは、こちらの配信、全国でたくさんの人に見られたらいいなと願っています。視聴券は、3月11日(月)22時まで買えます。まだの方はぜひ、です。ここでしか見られない永田敬介さんと小松海佑さんの超長尺漫談を、ぜひご一緒に目撃しましょう!


永田敬介×小松海祐ツーマンライブ「虹保留」
2024/2/26(月)19:00開場 19:30開演
会場:シアターマーキュリー新宿
配信:PIA LIVE STREAM
アーカイブ配信:2024/3/11(月)23:59まで
料金:1,500円
チケット:PIA LIVE STREAMで、2024/3/11(月)22:00まで販売