見出し画像

貯金20万円のアラサー女子が一念発起!ゼロから始める投資思考 ⑥「日清」よりも「マルちゃん」に投資するべき理由

こんにちは。
東京では緊急事態宣言も解除され、街も賑やかになってきているように思います。
これまで我慢してきた分、発散したい方も多いと思いますが、くれぐれもコロナにはお気を付けください。
また、一気に寒くなりましたので、風邪など引かぬように気を付けてください。

さぁ、今回は9月のカンファレンスのレポートを川代紗生さんにレポートを書いていただきました。
日本にいると、東洋水産よりも日清の方が強いと思われる方も多いかもしれませんが、NVICでは米国の即席麺市場の動向も確認し、東洋水産が強靭なビジネスを行っているという仮説を持っています。
今回のレポートを通じて、実際に生産している現場や販売チャネルを確認していくNVICの投資手法も垣間見ていただければ幸いでございます。


❏「マルちゃん」がメキシコの国民食に!グローバル市場で力を発揮する東洋水産

 カンファレンス動画を観ていたPC画面の前で声をあげた。はからずも、9年前の答え合わせをすることになってしまったからだ。

「日本では即席麺といえば日清食品のイメージがあると思いますが、じつは北米では東洋水産が圧倒的なシェアを誇っているんです」

画像1

(出所:東洋水産HP)

 今回の「おおぶねカンファレンス」の一部では、即席麺市場についての解説があった。即席麺──つまり、お湯を入れて食べるインスタント麺である。即席麺といえば圧倒的一位は日清だろう、というイメージが私にはあった。だからこそ、そのあとに出てきた数字には仰天した。

北米の即席麺市場の数字を見てみると、東洋水産が約7割。日本で圧倒的一位のイメージがある日清は、たしかに国内シェアは約5割と断トツでトップですが、北米では約2割。東洋水産に少々遅れをとっている状態なんです」

「赤いきつねと緑のたぬき」や「マルちゃん製麺」でおなじみの食品メーカー・東洋水産がまさか海外でそれほど強いとは。驚いた私はカンファレンスが終わったあと、東洋水産についてもう少し調べてみることにした。
 すると、さらに驚くべきことにメキシコの即席麺市場ではなんと約9割のシェアを誇るという。1972年に米国現地法人マルチャンインクを設立した東洋水産はアメリカに拠点を設け、1989年からはメキシコへ輸出を開始。安価で気軽に食べられる即席麺はメキシコでみるみるうちに市民権を得て、いまでは「Maruchan」という言葉が「簡単にできる」「すぐできる」という意味で使われているほど人気があるらしい。



❏カップヌードルが地味な場所に並んでいるアメリカのスーパー

 そうやって東洋水産について調べていたとき、ふっと浮かんできた映像があった。9年前、私がアメリカに住んでいたころの記憶だ。
 2012年ごろの話である。私は大学のプログラムで、1年間アメリカの片田舎にある小さな学校に留学していた。学校の周りには遊べるような場所は何もなく、住宅街と森、だだっ広い道路がひたすら続いているような田舎町だった。

 都会の学校であれば街に遊びに出かけたりショッピングに行ったり、クラブで踊り明かしたりとたくさんの刺激を得ながら留学生活をエンジョイすることもできたのだろうが、そもそも遊ぶ場所が一切ないのでそういうわけにもいかない。寮と学校の往復で1日を終える私にとって、唯一の楽しみといえば歩いて10分ほどの場所にあるスーパーに行くことだった。

 当時、寮生活でアメリカの食事に飽き飽きしていた私は、とにかく日本食を食べたくてしかたがなかった。留学生活も数ヶ月経てば、日本から持ってきていたインスタント食品も底を尽きる。こうなると、アメリカのスーパーにあるものでなんとか日本食風のものをこしらえるしか方法はなかった。

 そんなわけで、定期的にスーパーパトロールをしていたのだが、いつもどうしても気になっていたことがあった。それがインスタント麺のコーナーだった。もともと日清のカップヌードルが大好きだった私は、アメリカにも当然あるはずだと思い、いつも探していた。しかし、なかなか見つからないのである。だいたい即席麺コーナーの端か、あまり目立たない場所に陳列されており、パッケージが日本と多少違うこともあってか、すぐには見つけられなかったのだ。

 アメリカではそんなに人気ないのかなあと思いつつ、カップヌードルを持ってレジに向かう傍ら、ちらりと横目で他のインスタント麺を見ていた。いつも目立つ場所にどーんとたくさん置いてあるのは、「Ramen」と丸っこいフォントで書かれた、袋入りの即席麺だった。

 あのラーメンって、マルちゃんだったのか!
 今回のカンファレンスを聞いて、私はその事実にはじめて気がついた。まさか9年越しにあの違和感の答えが明かされることになるとは、思ってもみなかった。

 え、マルちゃんが並んでたらわかるでしょ、と思うかもしれない。いや、違うのだ。「マルちゃん アメリカ」でぜひ検索してみてほしい。日本の「マルちゃん」とはパッケージがまるで違うのだ。私があまりに鈍すぎたというのも当然あるかもしれないが、アメリカ版「マルちゃん」のパッケージに書かれている「Maruchan」というロゴは日本のものとは全然印象が違うし、アメリカのブランドのインスタント食品だと思い込んでいたのである。

画像2


(出所:ウォルマートにてNVIC撮影)

「日本ではいくら人気があっても、やっぱり海外では海外のブランドが人気あるのかあ」と思っていた9年前の私に言ってやりたい。違うんだ、そこに並んでいるものはほとんど日本の商品なんだ。「日本で1位の日清がこれだけ目立たないんだから、アメリカでは日本のインスタント麺はそれほど人気がないんだろう」という短絡的な推測によって、気がつけていないだけなんだ、と。
 そう、「国内で一番強い=海外でも一番強い」ではない。このイコールは成り立たない。環境やタイミングが変われば、いくらでも状況は変わりうるのだ。


❏超巨大スーパー「ウォルマート」に商品が並ぶという強み

 9年前の答え合わせができたことによってますますこの即席麺市場について知りたくなった私は、なぜ東洋水産がアメリカでそれほどのシェアを持つことができたのか、調べてみることにした。もちろんいくつか要因はあるだろう。ただ、私が調べる限りでわかったのは、世界最大のスーパーマーケット「ウォルマート」の取引先になったことが大きいのではないか、ということだった。

 「ウォルマート」といえば、いかにも「アメリカ」といった印象の超巨大なスーパーマーケットである。日本ではなかなか想像できないくらいの広さで、ショッピングモールのようにだだっ広い空間に多種多様な食品が並んでいる。私が行ったことのあるウォルマートには洋服や雑貨類、インテリアも置いてあるほか、家電のちょっとした販売店なども併設されており、全部を見切るのにかなり時間がかかった印象がある。

 それだけの広さを持つウォルマートはだいたい郊外の道路沿いにあるため、ほとんどの人は車でやってくる。さらに、車のトランクに乗せることを想定しているため、買い物カゴを乗せたカートにぱんぱんになるまで商品を詰め込むのだ。私も留学中、何度か仲間と車を出し合ってウォルマートに買い物に行ったことがあったが、例に漏れず「せっかく来たんだから」とペットボトルの水をダースで買い込んだ記憶がある。

 そう、「大量買い」するのが当たり前のウォルマートに商品が並ぶというのは、そういうことなのだ。アメリカの低所得者層が「安くたくさん買って節約しよう」と訪れるウォルマートに、1食30セント程度の安価なインスタント麺が並んでいれば、家族の分も合わせてストックしておこうと一気に買って帰る人も少なくないだろう。

 「私たちが北米でのシェアに注目しているのは、それが海外での主戦場だから、というのもありますが、アメリカでは『少量多品種』ではなく『大量少品種』だからなんです。要するに、少ない種類でいかに売ることができるかで、売上や利益率は変わってくる。日本では期間限定の味や種類を出して、そのたびに広告費をかけて宣伝しなければならない。即席麺が年間1,000種類も発売されていると言われています。一方、少ない品種を大量に売ることができるアメリカで商品を売るのは非常に効率が良く、利益率も高い。だからこそ、アメリカでのシェアを持っていることは、その企業の大きな強みになるんです」

 カンファレンスでそんな説明を聞いたとき、すべてが繋がったような気がした。過去に疑問を持っていた体験もあってか、「この企業に投資したい」と実感として強く思えるようになったのだ。


❏他人任せの投資家になっていないか?

 これまで何度か奥野さんにお会いしたとき、たびたび奥野さんはこう言っていた。

 「『売らなくていい会社しか買わない』が、長期厳選投資の基本です。そのためには、その企業に投資したいと本気で思えるかどうか、自分がオーナーになりたいと思えるかどうか、きちんと知る努力をしなければならない。投資を検討しているのが構造的に強靭な企業なのか、見極めなければなりません。そうでないと、株価が上がったり下がったりするたびに一喜一憂することになってしまう。そうならないためには、『この企業のオーナーになるんだ』という納得感が必要なのです」

画像3

 その「納得感」というのはこういうことだったのか、こういう感覚のことだったのかとようやっと腑に落ちた。投資の勉強をはじめて約4ヶ月が経つが、いくらがんばって調べても「この企業のオーナーになるんだ」という実感がどうしても湧かなかった。それは、その企業の実態をきちんと自分の目で見て考え、仮説を立て、検証するという努力を怠っていたからだったのだ。

 いろいろな企業や銘柄について学ぼうと、インターネットで情報を集めた。でもそうして集めた情報はあくまでも画面に映るただの記号や数字に過ぎず、リアリティがなかった。

 でも今回は違う。カンファレンスで話を聞いたことがきっかけではあったが、自分が消費者として感じたことと結びつけ、いつどこで何があったのか調査し、どんな影響によって成長しているのか、ある程度仮説が立てられた。あるいはこれはまるで頓珍漢な推測かもしれない。プロアナリストのみなさんと比べれば、ものすごく浅い考察になってしまっているだろう。けれど重要なのは、それよりも「自分の頭で調べて考えた」という事実だった。「現場を見た」という事実だった。

 NVICのみなさんはいつも、投資するかどうか判断するために現場に足を運んだり、面談を繰り返したりしているという話を前から聞いていた。コロナ禍以前は、海外の投資先にも定期的に訪問し、工場を訪れたり、現場の人たちと話をしたりして判断しているという。正直なところ、なぜそこまでするんだろうと私は疑問だった。そこまでしなくても資料や数字を見れば判断できるものじゃないのと思っていた。

 けれど、今回のことを通して、「現場を見る」ということがいかに重要か、つくづく思い知った。ただの感情論に思えるかもしれないが、そうではない。画面の上だけで見るのと、現場を見るのとでは、情報量が圧倒的に違うのだ。

 商品が並ぶ現場、商品が作られる現場には、ありとあらゆる情報が溢れている。顧客のリアルな動きや商品が売れていく流れなど、本質的な情報がたくさん詰まっている。一見遠回りで非効率な作業に見えるが、長期厳選投資を前提として投資先を選ぶ場合、現場に足を運んで情報を得た方がずっと効率がいいのだろう。

 投資の勉強をすると決めたあと、毎回本を読んだりインターネットで情報を調べたりと少し頭でっかちになってしまっていたように思う。インプットを増やせば投資思考も勝手に身についていくとぼんやり考えていたのだ。
 しかし実際のところ本当にするべきなのは、今回のように自分で考え、疑問を抱き、答え合わせをするというこの流れだったのだろう。人の話を聞くだけではなく、自分で体を動かして答えを出す練習をしないと、他人任せの投資になってしまう。それでは「オーナーになる」どころか、他人に働かされる「労働者1.0」のままだ。

 まずは、気になる企業をいろいろと調べてみよう。「おおぶね」でピックアップされた企業が、なぜ競争優位性が高いと判断されたのか考えてみるのもいいかもしれない。テレビに映ったCM、通勤途中に見かけたポスター、休日に立ち寄ったレストランなど、身の回りにある企業はどんなビジネスモデルなんだろうと、日常生活のなかで疑問を持つ練習をするのもいいだろう。

 そうして仮説検証をするループを繰り返せば、「オーナーになりたい」と思える企業が見つかり、そして、その強い企業たちに共通する強みが何かを考えれば、また次の投資へのヒントが見つかるかもしれない。

 まだまだひよっこだが、投資家の芽のようなものがちょっとだけ顔を出してくれたのかもしれない。
 私の投資人生において、大きな一歩になるカンファレンスだった。