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貯金20万円のアラサー女子が一念発起!ゼロから始める投資思考 ⑧一流投資家が見逃さない「営業利益が出続ける企業」の意外な特徴

 「投資は知の総合格闘技です。投資で成功するには、ビジネスで必要な知識を総合的に高めていくしかありません」
 これは、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』(ダイヤモンド社)という本の、冒頭の一節です。NVICのファンドマネージャー・CIOの奥野一成さんが書かれた言葉でした。
 投資の勉強をはじめたばかりの頃、私はこの言葉の意図をうまく理解できていなかったように思います。いや、なんとなく言わんとすることはわかるのですが、実感としていまいちピンと来ない、という感じでしょうか。
 ところが、勉強をはじめて約7ヶ月が経過した現在、この言葉の意味をしみじみと噛み締めるようになりました。「応援したい」と心から思える投資先を見つけるには、想像していたよりもはるかに多くの知識を必要とするのだとわかってきたのです。
 


これからの時代に必要不可欠な「コネクタ」とは

 さて、今回のカンファレンスのケーススタディとして取り上げられたのは、アメリカの「アンフェノール」という企業でした。日本では一般的にそこまで知られているわけではありませんが、おそらくほとんどの人が、暮らしのどこかではアンフェノールの作った製品のお世話になった経験があるのではないかと思います。
 アンフェノールは「コネクタ」という製品を作る、世界第2位のメーカーです。コネクタとは何かというと、電力や電子信号の流れを繋ぐための電子部品のこと。現在、私たちの生活はスマートフォンやゲーム機、PC、電気自動車、スマートスピーカーなどさまざまな電子機器のおかげで成り立っていますが、これらが問題なく動くにはこの「コネクタ」が必要不可欠。
 電子機器は、構成されている部品同士がしっかりと電気信号で接続されなければ正常に動きません。たとえば、スマートフォンもたくさんの部品で構成されていますよね。液晶に基盤、アンテナやカメラ、バッテリーなどなど。それらのさまざまな部品が組み合わせられて一つのスマートフォンになっている。このバラバラの部品同士を繋ぐ重要な役割を持っているのが、「コネクタ」なのです。

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(出所:ヒロセ電機HP)


 「NVICの投資ファンド『おおぶね』『おおぶねグローバル』では、コネクタ産業で世界第2位のアンフェノールに投資しています。なぜ、世界第1位のTE Connectivityではなく、第2位のアンフェノールに『投資すべき』と判断したのか。このケーススタディを通して、コネクタ産業の面白さについて考えてみたいと思います」

 「アンフェノール」の企業分析を担当しているアナリスト・高島さんの言葉で、カンファレンスはスタートしました。その様子を今回もレポートしたいと思います。前半では、今後成長が見込まれる「コネクタ産業」の奥深さについて。そして後半では、その「コネクタ産業」の中でもとくにコロナ禍で圧倒的な競争優位性を見せた「アンフェノール」独自のマネジメント法について解説したいと思います。


営業利益が出続ける企業に共通する要素

 NVICがコネクタ産業に注目しているのには、理由があります。
 それは、営業利益が出続ける可能性が高い、ということ。先ほども解説した通り、コネクタというのは電子機器に必要不可欠な部品です。どんなに優れたカメラや液晶が嵌め込まれていたとしても、コネクタがなければスマホは動きません。つまり、電気自動車や家電、工場で使う機械など、電子機器を製造するメーカーは必ずコネクタを発注しなければならないわけです。これから世界中で電子化が進み、さらに多くの電子機器が作られていくでしょうから、コネクタの需要は今後も増え続けていく可能性が高いのです。
 ならば、さまざまなコネクタメーカーが群雄割拠して、価格競争が起こりやすいんじゃないかと思われるかもしれませんが、実はそうとも限らない、というのがコネクタ産業の面白いところ。

「僕たちが運用しているファンド『おおぶね』シリーズが結果を出し続けられているのは、今後も長く成長が見込める、『営業利益が出続ける企業』をさまざまな視点から分析しているからです。見分け方のポイントはいくつかありますが、今回、僕たちが特に注目している特徴を一つご紹介しましょう。それが、『付加価値とコストの非対称性』です」

 カンファレンスでは、奥野さんが熱をこめて解説しました。「付加価値とコストの非対称性」と言うとちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。このコネクタ産業のビジネスモデルを例に、紐解いていきましょう。

 たとえば、みなさんがゲーム機の開発担当者だと想像してみてください。さまざまな部品を揃え、顧客が楽しく遊べるゲーム機を作らなくてはなりません。さて、どんな部品を揃えようかと検討したとき、どんなことがあっても必ず調達する財は何か。これが「コネクタ」なんです。そう、「コネクタ」とは、それが「どんな価格であろうと必ず」発注しなければならないほど必要不可欠なものなんです。
 にもかかわらず、非常に低価格で済む、というのがコネクタの特徴。コネクタ自体のコストは、最終製品価格の1%程度に過ぎないんです。
「顧客の最終製品の性能にとって重要な財ではあるが、コストは小さい」。これが「付加価値とコストの非対称性」であり、この特徴を持つビジネスは儲かりやすい、と奥野さんは分析しています。

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(出所:NVIC作成)


 コネクタ以外にも、「付加価値とコストの非対称性」が故に利益が出やすいものとしては、香水メーカー向けに香料を作るビジネスモデルなども同様です。顧客が香水を買うとき、ほとんどの人は「香り」が好みかどうかで判断する。香水を買うのにパッケージだけで選ぶ人はあんまりいませんよね。さて、ではメーカーが香水をつくるとき「香り」を発する香料にコストの何%をかけているかというと、実は原価の5%くらいなのだそうです。コストがそこまでかからないのに、お客様に大きな価値を提供できる

 これがたとえば「価格は高くても調達せざるを得ない財」となると、話は変わってきます。「絶対に買わなくてはならない、でもコストがかかりすぎる」となると、発注主はどんな行動を取るか。そう、「少しでもコストを下げられないか」と別のメーカーを検討しはじめるわけです。だからこそ、価格競争が起きやすい。
 原価の数%で済む財であれば、ちょっとくらい安いからといってわざわざ他のメーカーに変えようというインセンティブは起きにくいですよね。となると、一度発注してしまえば、ずっと同じメーカーと契約し続ける可能性が高い。
 このような分析結果から、NVICは「コネクタ産業」に注目しているのです。こう考えてみると、面白いですよね。他にも「付加価値とコストの非対称性」のあるビジネスモデルは何かないだろうか、と考えてみたくなります。

あえて業界第2位のアンフェノールに投資する理由

 さて、営業利益が出やすく、かつ今後も需要が増え続けるだろうと考えられているコネクタ産業の市場規模は7兆円程度(コネクタに付属するセンサも含めると20兆円程度)。規模ではTE Conectivityが1位、アンフェノールがそれに次ぐ2位。素人目線ではつい「どうせ投資するなら1位の会社がいいんじゃないの」と短絡的に結論づけてしまいそうになりますが、規模が大きいからというだけの理由で判断するのは危ない、というのがNVICの判断です。

 なぜ、あえて「アンフェノール」なのか。カンファレンスではさまざまな理由が語られ、どれも「なるほどなあ」とその観察眼に驚いてしまうようなものばかりだったのですが、今回のレポートでは、中でも私がもっとも「そんなところまで見るの!?」と驚いた点についてまとめたいと思います。

 アンフェノールという会社がこのコロナ禍で見せた強み。それは一言で言うならば、「スピーディで柔軟性のある組織構造」でした。

 そもそもTEとアンフェノールの最大の違いは、顧客のバリエーションの広さです。TEが作っている製品は、自動車メーカー向けのものが50%以上。それに対し、アンフェノールは工業製品、スマホ、軍用製品など、幅広い産業にバランスよく製品を販売しています。
 そのため、アンフェノールには製品や顧客ごとに125の事業が存在しています。同じ「コネクタ」とは言っても、どんな用途で使いたいのか、どの程度の量が必要なのか、顧客のニーズはバラバラ。それぞれの課題に柔軟に対応できるよう、事業が分かれているわけですね。
 では、顧客もニーズもバラバラな125にも及ぶ事業をどうやって運営し、収益を上げているのか? ここで注目すべきなのが、アンフェノールのマネジメント方法なのです!

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(出所:各社IR資料よりNVIC作成)

「何より、アンフェノールがすごいのはここなんですよ。アンフェノールの顧客は約10,000社。このニーズにどう対応しているかというと、125の事業領域ごとにGeneral Manager(ジェネラル・マネージャー)が配置され、本社からすべての権限を委任されているんです。つまり、一つの組織でありながら、125もの企業が集まったコングロマリットのような構造になっている。ジェネラル・マネージャーたちが、さながら経営者のように現場判断をしているわけです。だからこそ、スピーディで柔軟な対応ができるんですよね」

 担当の高島さんが、熱を込めてそう語りました。たしかに、大手の企業でこのような思い切った分権化された組織づくりをしているというのは、なかなか珍しいように思います。特に、日本企業は中央集権的なマネジメントをしているところが多いですから、なんだか余計に新鮮に感じてしまいました。
 このマネジメント方式によって、アンフェノールのポテンシャルが最大限に発揮されたのが、コロナ禍だったと言います。この先どう変化していくかわからないコロナ禍の影響で、社会全体が臨機応変に対応しなければならなくなりました。常に変わり続ける顧客のニーズに柔軟に応えられたおかげで利益をさらに伸ばした企業もあれば、うまく順応できずにあえなく潰れてしまった企業もある。みなさんもなんとなく、想像がつくのではないでしょうか。
 そこで、アンフェノールが威力を発揮したのは、人工呼吸器へのスピーディな対応でした。入院患者が急速に増えていく中で、医療現場は逼迫していました。人工呼吸器の需要はこれまでの5倍、特に大きな影響を受けた地域では6倍とも言われています。いつ変わるかわからない顧客の課題に寄り添い、価値を提供し続けられたのは、このジェネラル・マネージャーたちが臨機応変に現場判断をしたからだと奥野さんたちは語ります。

「僕たちは、これまでに何度かアンフェノール、TE社を訪問しています。やはりそこでも、カルチャーの違いを感じましたね。TE社は、事前にしっかりと準備をしてその通りに説明してくれるような、こう、きっちりとした印象でした。それに対してアンフェノールは、非常にフレキシブルでした。2016年に訪問した際も、本来はお会いする予定はなかったんですが、CEOが突然カジュアルにやってきて、『なんでも聞いていいよ〜』と。形にこだわらず、その時々で最適な答えを見つける。アンフェノールはそんな社風なのだなと実感しました」


投資は知の総合格闘技である理由

 さて、そんなにもさまざまな視点から企業分析するのかと、驚いた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。実は私も、このカンファレンスに参加するたびに驚きの連続です。奥野さんや高島さんをはじめとした、アナリストの方々が毎回熱く「この企業に投資するべき理由」をプレゼンしてくださるのですが、まさにありとあらゆる「知」を集結させて分析しているのだとしみじみと感じます。

 最近はSNSなどでも、「投資をしよう」「初心者でも簡単にできる!」といった言葉を頻繁に目にするようになりました。オンラインで手軽に投資をはじめられるようになって、便利な時代だなあと感じます。
 けれども、NVICのみなさんのお話を聞いていると、せっかくやるのなら、単純に「お金のため」だけではなくて、「学びを得るため」にも投資をしたいな、と思うのです。投資はまさに、「知の総合格闘技」。その企業の歴史、市場、会計、マーケティング、マネジメント、人材育成の方法など、「投資をするべきかどうか」を判断するために、さまざまな知識をインストールしなくてはならなくなる。
 人生100年時代と言われる令和の時代に本当に必要なのは、「将来のためにお金を貯蓄すること」以上に、「将来の自分が困らないように、『知』を貯蓄すること」なのではないかと思うのです。

 というわけで、このカンファレンスとの出会いによって、私もある程度投資の大まかな枠組みが見えてきました。いよいよ自分に自信が持てるようになってきたので、かなり時間がかかってしまいましたが、「おおぶねシリーズ」で投資を始めることに決めました!
 自分のお金を使って投資をするのは初めてなので本当にドキドキしますが、よりよい学びのため、そして将来の自分のために、チャレンジしてみます!

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 NVIC note編集部です。
 今回の川代さんのレポートでは、『おおぶね』『おおぶねグローバル』で投資しているアンフェノールという会社が持つ強みから、儲かりやすいビジネスの特徴である「付加価値とコストの非対称性」について紹介してくれました。文章の中にも出てきましたが、香料を作っている会社や調理器具を作っている会社にも同じような特徴を確認することができます。
 とはいえ、言葉では「同じような特徴」と簡単に表現することができますが、最初から表に現れている特徴ではありません。NVICのアナリストが公開されている情報を取捨選択し、喧々諤々議論しながら生み出している仮説(特徴)であり、非常に大切な分析のポイントです。
 このような仮説を生み出す分析プロセスに加えて、この仮説が正しいのかを検証していくプロセスもオーナーである皆様にしっかりとご説明していきたいと考えております。この一連の過程を通じて、おおぶねの投資先企業に対して手触り感を持ち、長期投資に繋げていただければ幸いです。