♡Ep.【ネクストで笑う男⑫】

こんな気持ちになったのは始めてだった。

幼稚園の時に好きだった俊くんに始まり、
その時その時で好きな男の子はいたけれど
大概がすぐに違う人を好きになっていったし
何故好きか？と聞かれたら
足が速くてかっこよかった、とか
優しくしてくれて嬉しかった、とか
わたしのことを好きだと知って意識し始めた、とか
好きの概念(？)も曖昧なまま、
なんとなく、好きな人、が欲しくて好きになってみたり。
子供の好きなんてこんなものが普通なのかもしれないけど


そんな"好き"しか知らなかったわたしなのに

１６歳のわたしは
アサトに対しては好きを通りこして
配偶者になろうとしていた。

アサトの試合を観た帰りの電車では
アサトと結婚したら、
«〇〇(アサトの苗字)ナナ»になるのかぁ～
なんて考えたりしていたくらいに。

さて、
この気持ちをどうしよう。。
まさかここまでアサトを好きになると思っていなかった。。
ここまで好き(配偶者になりたい)な気持ちはさすがに我慢してはいられない。


アサトに正直に伝える？？
え、逆プロポーズする？？？？
いやいやいやそれはさすがに。。

まずは、よりを戻したい。と伝えよう。

アサトはまだわたしを想っていてくれてるのだろうか....？

野球の邪魔をしたくなくて
ずっと気持ちを伝えずにいた
とゆうか、好きと伝えてこの気持ちと向き合うことから逃げていた
アサトのみなみちゃんになりたいと思いながらも
わたしはみなみちゃんになれる自信が無かったんだ。

とりあえず、、
かといって状況的に完全に今は違う。

アサトの夏がおわったら、、
アサトが引退したら、、
その時に改めて気持ちを伝えよう。。

次、またアサトと付き合えたら
ちゃんと全力で真剣に恋愛しよう。。！！
ずっと相手に流されたりすぐに冷めちゃう恋愛ばかりだったけど...今のわたしのこの気持ちなら、きっとちゃんと恋愛できるはず！！！！

早く気持ちを伝えたい！！！！
でも
一日でも長くアサトの夏は続いて欲しい。。

だからその時までは
しっかりアサトを応援しよう。。！！

改めて、そう心に決めて
スケジュール帳のフリーページいっぱいに
その気持ちと決意を書き記した。
ハートマークもたくさんたくさん書いた。

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ 

それからアサトたちの高校は

ついに準々決勝まで勝ち進んできた

わたしはその日も授業中ずっと
高校野球速報のサイトを机の中に携帯を隠しながら見ていた。

そのサイトの速報はただ点数の状況が分かるだけで
試合の展開状況(誰が打ったとか)が分かるわけでは無かった。

アサトはどうしているだろうか、、
打ってるかな？活躍してるかな、、？
いや、アサトならきっと大丈夫。
主将としてみんなを引っ張ってってるはず。
またネクストで打てる自信満々で素振りしながら笑ってるはず。。！！

同点が続き
わたしのソワソワは止まらない。

大丈夫。
きっとアサトたちは勝ち進む。。

速報のサイトに

試合終了   の文字が表示された。

１０回延長サヨナラ

アサトの夏が終わった。

授業中、先生がリスニングのCDを流し
みんなが真剣に問題を解いている中、
わたしは泥だらけのユニフォームで走る、円陣を組んで声を上げる、ネクストで笑いながら素振りをするアサトの姿をひたすら思い出していた。
リスニングの英語はBGMにすらなっていない。何もわたしの耳には入ってこなかった。

いつもなら
試合終了の瞬間におめでとうメールを送っていたけど

今日はなんて送ればいい？

アサトになんて言葉をかけたらいい？

頭の中でいろんな言葉を絞り出しては打ち消しながら
わたしは今朝アサトから送られてきた
頑張ってくる。と表示された受信メールの画面を開き、
返信ボタンを押した

アサト、お疲れさまでした！

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