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何度も、何度でも言うよ

私の祖母は同じ事を何度も言う人だった。
もう、耳にタコができるよってほど聞いた。

「おじいちゃんと出会ったのは、英語教室でね。
手紙を英語で送ったの。
友達からハイソねって言われたわ」

「フランスに行ったときに、船を降りるときに手を貸してくれた人がいてね。
とっさにメルシと言ったの。
フランス語を知らないのに、自然とメルシって言葉が出てきたのよ。
一緒に行った方に「しゃべれるの?」と驚かれたけど、私しゃべれないのよ。
ウフフ」

しかも祖母の話には、やんわりと自慢が入ってくるときた。

(えーおばあちゃん、孫へ伝えたい事がさぁ、自慢なの?
自慢?
もっとさ、なんか為になることとか、面白い事とかさぁ…)

と、私は大変失礼な事を思いながら、(おばあちゃんごめんネ)

気もそぞろに「ふーん、へぇ、へぇ、へーぃ?」と、相槌をうっていた気がする。

話好きの祖母のおかげで、私はうっかり聞き上手になってしまった…。

祖母はもう亡くなり、祖母の生きた日々を語ってくれることはなくなった。
もう10年が経つ。

祖母を懐かしむ際はいつもこの話を思い出す。
悲しいことに、祖母と過ごした時間は決して短くはなかったのに、多くの思い出は記憶の彼方にかすんでしまった。

祖母がどんな人生を送り、どうやって祖父と家族になったのか。
繰り返し聞いたあのエピソードは、今も私の中に残っている。

それは、祖母が何度も何度も私に話してくれたからなのだ。

きっと祖母にとって、とても大切な思い出だったに違いない。

私が以前に勤めていた会社の社長は、同じ事を何度も何度も話していた。

「今年は業界の潮目の年です。
今までとはガラッと流れが変わる。
だからこそ社員全員が新しいことにどんどんチャレンジするように」

社長はその年事あるごとにこの話をしていたので、社員は一言一句覚えていた。

「今年の社長は"潮目"か〜。来年はなんだろうね〜」と、社員たちの間で呑気な会話がされていた。
(仕事も頑張ってやってたよ!一応!)

時間が経ってから冷静に考えると、社長はただ同じ事を繰り返していたのではなく、ほかに話すネタがなかったからでもなく、経営者として従業員へむけたコアメッセージだったのだ。

そんなポヤっとしていた私も数年経ち、後輩指導する立場になる。
そして気付くのだ。

そう、「人は覚えられない生き物」だと知る。

例えば後輩へ仕事を教える際、伝えたいポイントは沢山ある。
資料の見方から企画を練る際のポイント、関係各所への確認事項…。

しかし一度にあまりに多くを伝えすぎても、後輩は覚えられないし、自分なりのやり方を考えていかねばならない。

伝えた事も「忘れてました…」と言う事もある。

だからこそコアな部分だけは強調して伝えるのであった。

「困ったら相談して。
もし1人の時に判断に迷ったら、"お客さまにとっての最善は何か?"を思い出して考えてね。
それがうちの会社の理念だから。」

相当言ったと思う。
それでも伝わらない事も多々あった。

「あの先輩さー。
毎回同じことしか言わないの笑。
理念リネン笑。シーツかよ笑」
って、もしかしたら言われてたかもしれないな。

ああ、社長。
社長は私達が話を聞いていない事を知っていた。
(いや、私は一応聞いてるけど)

そう、社長は何度言っても、聞いてる方は忘れるということを知っていたのだ。
(いや、私は忘れずに仕事しようとは思ってるけど)

そして今、私は二児の親となった。

ほんっっっとに、言葉って1度だけでは伝わらないんだな、と実感している。

私「ただいま〜っと。はい、すぐ手を洗ってね」
子ども「はーい!(2秒後、手を洗わずにテレビを見始める)」

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私「もう20時だからテレビ消す約束だよね〜」
子ども「…(無反応)」
※聞こえてないフリの場合と、本当に聞こえてない場合とある。

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子どもって本当に話を聞いてないし、聞こえてないし、聞いてても5秒で忘れる。

でも大人もおんなじようなものだなぁ、と彼らを見てて思う。

だから、伝えたいことは何度も、何度でも言うのだ。

例え「また?もう聞いたよ?」と言われようとも…。

まぁ、私自身が忘れっぽいので、単に言ったことを忘れてもう一回話しちゃう事もあるけど。

「そろそろ家電が全部一気に壊れそうな気がして怖い。
お金大丈夫かなぁ?」

とパートナーに話したら、

「それ去年から10回は聞いたよ。
ちなみにお金はない」と言われた。

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