現役ドラフトとはなんであったのか

結局疑問しか残らないまま終わってしまった。
元来ならば「ルール5ドラフト」を目指したであろう現役ドラフトが12月9日に行われた。
元々私は反対の立場であったのだが、やると決めた以上、となんとなく始まり、なんとなく終わってしまった印象がぬぐえない。

結局この現役ドラフトはなんだったのであろうか。

紙面は話題をひねり出そうと必死で、移籍した彼らの展望や入団会見が記事を沸かせている。しかし実際のドラフトのように華やかなものでもなく、トレードの延長のような報道が出るばかりだ。このドラフト全体を通してどういったコメントを出せというのか。正直思い浮かばない。

元々NPBはMLBと違い選手を一から育て上げる事をどのチームも踏襲している。二軍で活躍した見込みある選手を一軍に引き上げたり、将来のスター候補としてチャンスを与えたり、と首脳陣の考える構想の枠の中でチームを作っていく。
その中で生まれるのが一軍の力に満たなくても一軍で起用してみたりする、いわゆる「お試し起用」というものだ。これはNPBの多く球団が一、二軍の密接な関係であるから可能としている。例え活躍しなくてもそこで何か掴んで次回の一軍、スタメン時に花開くものを手にしておけばいい、という考え方だ。近年はそれで育つ選手が少ない事に気付いてきたようでシーズン序盤や中盤の一番厳しいタイミングでスタメンにする起用が増えているようには思うが。

一方でMLBには一軍、二軍という概念はない。二軍的存在としてMiLBがあるがあくまで彼らリーグも独立したものという観念でやっており、ここで活躍している選手が上がってくるようになっている。
なので育成という考えは弱い。ドラフトで入ろうがなにをしようが、結果を出して這い上がってこいというスタンスがMLBのものなのだ。
ただ、契約などで当面スタメンが埋まってしまい、活躍が期待できながらも試合どころかメジャーへの昇格すらままならない選手が発生してくる。
そのための救済措置としてルール5ドラフトがあるのだ。
契約を重視するアメリカだからこそ生まれた制度であり、ルール5ドラフトはアメリカに強くある風習と地続きであるからこそ成り立つのだ。

ドラフトの選手を育成してスタメンとしていく日本と基本的に生き残りをかけて戦うアメリカ。
この感性の差がある中でこういったドラフトは語らなければならない。

つまりアメリカでのルール5ドラフトは日本の気質には合わない。近年でこそアメリカ的な発想でチームを作る球団が出始めているが日本の主流は育成であり、這い上がりではない。トリクルダウン気質の日本とボトムアップ気質のアメリカの制度を掛け合わせたところで上手い事噛み合うわけがないのだ。

そうでなくとも日本の一軍と二軍、アメリカのMLBとMiLBには距離感がある。それは立地上の話ではない。一軍に引き上げられやすい日本と、ロースターに上がれるか否かでも大分大きな時間を伴うアメリカとの距離感だ。ルール5ドラフトはそれを埋めるためのものでもあるのだ。

結局、トレードの亜種のような形で終わってしまった。
初年度だから後々の発展に期待、と思っている方も少なくないようだが、二巡目はどのチームも手を付けていない事が今後の将来を予想させる。

そしてなんともコメントしがたい現役ドラフトを望んでいたものに近い形、と選手会はいっている。(現役ドラフト、選手会「望んでいたものに近い形」も改善の余地あり【記者の目】)
自分たちは関与しないからよかった、という事なのだろうか。ドラフトされた選手の今後は何かしら保証されたというのか。ただ戦力外にもしにくいが一軍に置くには問題がある選手をたらいまわしにしただけではないのか。これが彼らの望んだルール5ドラフトの成果だというのか。
むしろ問題点の方が多くあるように感じられるのだが。

疑問は残る。

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