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THE ACT WE ACTレコーディング記 後編2021.9/11〜9/12

今から2年前、2021年夏にTHE ACT WE ACTは3枚目のアルバムの制作をしました。
今回は前作のアルバムのミックスとマスタリングをしていただいた君島結さん(ツバメスタジオ)にレコーディングからお願いし、お盆休みと9月の土日休みを利用して東京にてレコーディングしました(初日、2日目は門天ホールで、3日目、4日目はツバメスタジオにて録音、9/11,12にも再びツバメスタジオを訪れ録音とミックス作業をしました)。
アルバムの制作自体が6,7年ぶりでしたし、コロナ以降メンバーで遠征したり寝食を共にするのもかなり久しぶりだったのですが、感染者が激増した東京オリンピック後の独特な空気の中、緊張感がありつつも楽しかったので日替わりでメンバーにレコーディング記を書いてもらいました。

こちらは後半部として9/11〜12に行ったレコーディングとミックス作業について、そして8月のレコーディングに来てくれたサトゥーからのコメントと五味によるあとがきが書かれています。
このレコーディング記はあとがき以外、2021年に書かれたもので、時系列等は当時のまま掲載しています。
アルバム「フリッカー」のリリースに合わせて公開しました。

前編はこちら


THE ACT WE ACT メンバー
・高木啓伍(Drums)
・大津直樹(Drums,Percussion,Chorus)
・金子哲(Bass,Percussion,Chorus)
・五味秀明(Vocal,Trumpet,Percussion)
・横山匠(Guitar,Percussion,Electronics, Sound collage,Chorus)

9月11日(土)レコーディング5日目@ツバメスタジオ/横山匠(Gt,Per,Electronics,Sound collage)


8月のベーシック録音の後、当初五味さん1人で行くはずだったツバメスタジオでのミックス立ち会いに誘われ、私も同行することになった。

五味さんが来る朝8時より2時間以上前に目が覚めてしまい、せっかくなので今作のミックスにおける自分の担当箇所の下ごしらえをした。メンバー各自がスマホのボイスメモで録った環境音を切り貼りして、あらかじめ録ってある演奏に組み合わせるというものだ。
小一時間自前の機材をなんとなく触っていると、結構いい感じになった気がしたので試しに録音してジアクト各位にLINEで送信。うまいこと一区切りついたので出発準備に移った。

どうせツバメスタジオを再訪するなら追加録音もしてしまおうということでのギターやエフェクターに加え、デルタ株やラムダ株のこともあるし用心してし過ぎることはないと通販で調達したN95マスクなども着替えとともに荷物へブチ込んでいく。
そうこうするうち五味さんの車がやってきて浅草橋へ向けてふたたびの出発となった。
なお私はPPDであるので、ジアクト遠征においては助手席で可能な限りみんなを鼓舞しなめらかな相槌を打つことに注力する。

道中ではミックスの現状や今後についてはもちろん、お互いの最近よかったものの話になった。2020年の岡田拓郎only in dreamsインタビュー(私)、佐藤優介の「UTOPIA」(五味さん)はじめ、あとは最近(2021年当時)再発された半野田拓と和田晋侍の盤の凄まじさや、改めてNICE VIEWの薫陶を受けられてよかったね、など。
結構いい話をしてたはずなのに五味さんがツバメスタジオ直前で持ち出したREENCARNACION(コロンビアの80年代壮絶脱臼ピュアカルトメタルバンド)のCDで時空が歪み、そのせいかテイクアウトのために立ち寄った美味キッチン(8月にも寄ったカレー屋)付近のビル街がやけに生々しく脳裏にこべりついていて、そこ以前の記憶が淡〜くなってしまっている。
今思うとミックス前にREENCARNACION聴けたのはよかったな。ミックスで内へ内へ入り込む前に陽性のバイブスをうまく注入してくれた感がある。たまたまなのかもしれないけど、だからこそ自然に五味さんのバランス感覚みたいなものが表れていた気がするな。

増井ビル7F、ツバメスタジオに到着してエンジニアの君島結さん(2021年に公開された君島さんのインタビューも是非読まれたし)と再会し、まずは美味キッチンで買ったカレーとナンを食った。私事で申し訳ないが、ここの甘めのナンによって弁当にナンを詰めていた高校時代以来の第二次ナンブームが到来している。
(※この原稿を書いてから公開するまでの間に我々が訪れた浅草橋の美味キッチンは閉店してしまったとの事…新小岩店はまだやっているようです)

腹ごしらえが済んでいよいよ五味さんのボーカル録り直し〜ギター追録〜ミックスを詰めていく作業が始まった。ボーカルは前回の録りと質感を揃えながらいかにより力(りき)を入れるか、という感じでOKを決めていく。
ハードコア的ボーカルは(……と均質化するような物言いは好ましくないのは承知だが、便宜的にご容赦願いたい)あまり声にディレイなどエフェクトをかけるとしっくりこない場面が多いので、ごまかしの効かせ方が少ない気がしてシビアだなと思う。
ボーカル録り直しがスムーズに進み、問題のギター追録が始まる。8月時点でのオーバーダブは基本的に「ライブや練習で散々やってある程度意味があるとわかっている」ものの延長でやってきたけども、この日から重ねるものは「リファレンス音源を聴きながら着想した実験」であり、アレンジ的に勘が働くものもあればそうでないものもあった。
特に「わからない」は今のジアクトレパートリー内でも落とし所が難しいため、どう重ねるかをふわっとしか決めきれず、結局当日音を出して君島さんと相談してみて考えるという出たとこ勝負にせざるを得なかった。

まずはサッといけそうな「呼吸」から。16分のミュート刻みでダブルにしていなかった箇所があったけど、中途半端に有無の差をつけてもな、と思い全てダブルに。そして火曜サスペンス劇場(by五味さん)ライクな単音パートを録音。ここは今回初めて使うアンプで音作りにやや手こずったものの、流石に1音ポーンと弾くだけなのでなんとか無事に済ます。
そして問題の「わからない」である。遠鳴りのアルペジオを1本追加してから、漠然とした中でまずこれは、というアイディアから試していった。

私「1つだけなんとなく決めてて、(曲の後半に)今あるアルペジオの手前を、フィードバックがゆ〜っくりLR動いていく感じにしたいんす。録る時にステレオマイクを持ってアンプ前で動かしたいんですけど、やっぱハンドリングノイズ問題になりますかね?」

君島さん「それだったら両手にスピーカー持って動かします?マイク立てて。試したことないんですけど、、」

私「?試したことないんだったら、それはもうやるしかないっすよね……」

というわけで私がギターを弾く横で五味さんがスピーカーマンとなってくれた。
音が出てるスピーカーを持って無指向+双指向のステレオマイクの周りをいろんな方向に動かすことで、意図的に位相をグチャグチャにしたかなりパンチドランクなサウンドになる。
君島さんニッコニコ。これでよかったテイク2つを重ね、その上で「ヤバい方のギターの音量をもっと上げて下さい」と言ったら「やる気ですね」とのことだった。
私もすっかりテンションが上がってしまい「なんかもうこれでいいっすわ!」となって問題曲まさかの即終了。
今回の作品、そういう瞬間というか時間の手応えみたいなのが結構ある。ツバメスタジオだからこそ、君島さんだからこその音になっているんではないか。

録りの最後は「ビューティフルミステイクス」の後半のシャワーパートのギター。
より浴び系にしたかったこちらも、1パートかつテイストが決まっていたのでサクっと。
予定よりもかなり順調に追録が終わった満足感の中、uberで注文したタコベルのタコスを食って初日終了。特にナチョチップ(にかかっている香辛料)は法の介入の必要性を意識させるうまさだった。

夜は8月と同じくFucker谷ぐちさん邸に宿泊させていただけた。
9/11夜、谷ぐちさん夫妻は名古屋でのライブで家を空けるのがわかっている中、即答で「泊まっていいよ!」と言って下さったらしい(なのでこの日は留守番していた共鳴くんが玄関を開けてくれた)……本当にありがとうございました。
もちろん最初からやれるだけのことはしてるけど、驚いてもらえるようないいものを作って、谷ぐちさん達に届けたいと改めて思う。

9月12日(日)ミックス6日目@ツバメスタジオ/横山匠(Gt,Per,Electronics,Sound collage)

8時過ぎくらいに谷ぐちさん邸を出て10時頃にツバメスタジオへ向かう予定だったのだが、案の定早く目が覚めてしまいゆっくり身支度しながらウダウダ。どうせならバチーンとアラーム時刻まで眠りたいという気持ちに反して、完全に仕事仕様の体内時計が出来上がってしまっている。

五味さんも目覚めてある程度身支度が済んだところで、深夜に帰宅しながらも私達が起きてちょっとしたらすでに活動開始していた谷ぐちさん夫妻に挨拶。ユカリさんからコーヒーをいただけることになり、それを飲みながらしばし談笑した。
リミエキの「曲がない状態でアルバム製作日程を決めちゃう」というルーティンの話は結構ビックリした。
メジャーとかならともかく、それぞれ音楽以外で仕事をしながらバンドとして短いスパンで製作していくのはマジで凄いと思う。

すっかり腰を落ち着けてしまったが出発の時間になり、谷ぐちさん邸を後にした。改めてありがとうございました。
10月(2021年時点)のDEATHROさんとの対バンで再会するときには、いい感じでアルバムの進捗を伝えられるようにしたい。


駐車していたコインパーキングで五味さんがいざ車のエンジンをかけると、リラックスしたムードを一変させるREENCARNACIONが爆音で鳴り響いた(CDが入りっぱなしだったのだ)。いやまあリラックスしてるっちゃしてるか……。
ツバメスタジオに到着した時にはすでに君島さんがミキサー卓の前に座っており、時間的にあまりゆっくりもしていられないので早速ミックス作業開始。

ミックス立ち会いの前にある程度のところまでは音(特にドラムの音像)を決めておこうということで、録音後から断続的に「メンバーでミックス要望をまとめて提出→君島さんからのラフミックス更新版が送られてくる」という往復は行ってきた。
その甲斐もあって8月の段階で個人的に「これこれ!」という感じのドラムになっていた。
ケイゴさん大津さんのドラムの良さはもちろん伝わるであろうし、君島さんによるマイキングやチューニングをはじめとしたドラムのセッティング変更部分もさすがに効果的なスパイスになっている。
事前にこうしてドラムの音決めがうまく進んだことで、ストレスなくそれ以降を考えていけているのはとても嬉しい。

「わからない」録音時にオーバーヘッドマイクの位置を上げる君島さん。これだけでも響き方は変わるが、この曲と「歩き方」はそれ以外にもドラムそのもののセッティングを結構変えてくれてるので音の違いがわかりやすいと思う。


9/12分のミックスでは、ラフミックス段階で出たメンバーそれぞれのより細かい要望をひとつひとつ潰していきながら、オンラインのやりとりでは難しい部分を微調整していった。

「振動」のラフミックスでトランペットにかかっていたモジュレーションディレイの響きが、我々のイメージに対して奇矯だったため「君島さん、これはちょっとピヨピヨが面白すぎて……」と切ってもらうことにしたところ、「え、、これそんな面白いとかってつもりじゃなくて凄いカッコいいと思ってたんだけどな、、、」とかなり残念そうな様子。
この後2回ほど
五味さん「ここにリバーブ……」
君島さん「ディレイですか?」
というやりとりが発生した。どこかでピヨピヨを供養せねばなるまい。

ミックスがほとんど作曲〜アレンジに隣接しているような箇所がある「わからない」が難航するのは見当がついていたが、「カミングアウト」も難航したのは意外だった。
特にボーカルのミックス内での座らせ方や質感で結構悩んでおり、五味さんとも色々話しているがまだ9月半ば現在も結論には至っておらず。
他の曲はなんとなく声が座っている感じがするのだが……ここは君島さんとも継続してやり取りしてよりよい方向にもっていくしかない。

作業を進めていく上で個人的に画期的だったと思うのは、やはりツバメスタジオのギターアンプだ。
特に8月のオーバーダブ時に使った改造silvertoneのアンプは、私のファズswollen pickleとの組み合わせであまりに理想的な音を出してくれた。
思わず「あ、この音ってちゃんと出るんだ」と言ってしまった程である。
特に「振動」「カミングアウト」で聴けるが、もうこの音が出てくれただけでハッピーだ(そして君島さんがこの音を「かわいい」と評したのには感動した)。
サックス無し編成でトぶにはファズしかない、という加入当初の直感が実現された気がして嬉しい反面、現状この音ライブで出せないんよねという悲しみは結構デカい。
まあとりあえず音源で理想が1つ実現されるだけでも最高でしょ。

改造silvertone(多分1484)、見た目もええんよな


問題の「わからない」は、前日録音したパンチドランクフィードバックの位相が案の定めちゃくちゃで、君島さんもアナライザーを見て笑うしかないという状況だった。
しかし対処法がないこたないとのことなのでなんとかなるでしょう……。さすがに普通にはオススメできない録音法というだけあるわけだ。最高。
特記した以外の他の曲はそこまで滞りもなく進めていくことができた。
君島さんのインタビューでもあったように、確かにスタジオに自然光が入る/すぐ横にベランダがあって外に出られるっていうのは作業に結構影響ありそう。ミックスは(マスタリングなら余計にかもしれないが)思考が閉塞しがちな作業だし、疲労感で聞こえ方が変わることもままあるので、それがやわらぐだけでも全然違うのだろう。

五味さんと目標にしていた21時は過ぎてしまったが、なんとか21時台の間に作業は一区切りした。結構放心状態な上に急いでいたこともあり、挨拶もそこそこにツバメスタジオを後にしてしまったのが心残りではあるものの、また近いうちにお邪魔することになるだろうな……という気持ちも正直ある。
まだミックス継続中とはいえこの2日間で大きく前進して、もうあと一息。
君島さんありがとうございました。

帰りはDEATHROさんのCDを聴きながら高速をブッ飛ばす(五味さんが)。しばらくして君島さんから12日終了時点でのミックスが届きその確認に切り替え。
このミックス聴きながらあーだこーだ言う時間は至福であると同時に、固まってきた/先が見えてきたが故の寂しさのようなものも感じ、歯痒いものでもある。それでも録りがうまくいっている場合のミックスは楽しさが勝つのだが。



レコーディング初日に顔を出してくれたサトゥーにもせっかくなので文章を書いてもらいました。

久々にTHE ACT WE ACTと再会して/サトゥー(Hei Tanaka,ex.THE ACT WE ACT,6eyes)

ジアクトはいつもおもしろい。おもしろくなくてもおもしろい(面白くない状態も、次の面白さへの布石なのだ)。
いきなり何を言っているのか分からないかも知れないが、これは考えてみれば大変なことだ。
愛する相手がかわいく見えるように、もう何してても関係なくなってくる。
ジアクトはおれにとってそういう集団だ。
常に頭の隅にいて、タイミングを見計らって問いかけてくる。
「今どんな面白いことしてるの?」
スピーカーをくるくる手で回しながら録音したり、お湯と蜂蜜でとんでもないパワーを貰ったりするような人達から問いかけられるんだから、たまったものじゃないぜ。
てっちゃんのコーラス録り、心底観たかった!
こんなに好奇心に従順な人達は少ないんじゃないだろうか。
おれはサックスで一番貢献できるので、持って行こうとしたが止められてしまった。そしてその思いは菓子袋となり、皆の胃袋に納まった。だがそれでよかったのだと、匠君の日記を読んで分かった。
ファズでトぶ音の追求。サックスを踏まえて、新しい音を見つけようという心意気。こんな嬉しいことはないだろう。自分のコピーをしてもらうより素晴らしいことだ。
そしてこの次の作品ではそんなことはまったく意識せずに作られることだろう。成就とはそういうことではないだろうか。
アルバムを聴いた後でまた色々思うのだろうが、今すでに分かっている大事なことは、この作品がエンジニアの君島さんまで巻き込んで(ピヨピヨ音をやたらと入れたくなったり)大いに楽しんで作られたであろう点だと思う。なんと豊かな試みだろうか。
大学生の時にバンドのメンバーに誘ってくれたけいごに感謝を。最初のマレーシアツアーで知り合ったアウィとは未だによくLINEでやり取りしている。
あと、皆の日記を読んで単純に羨ましくなってしまった。泊り込んで録音って楽しいんだよな。おれも早くやりたいぜ。


あとがき/五味秀明(Vo,Tp,Per)

レコーディングを行なったのが2021年の夏、このあとがきを書いているのが2023年の秋です。
メンバーには記憶が薄れないようにレコーディングして間もないタイミングでテキストを書いてもらいました。
時間はかかりましたがようやく3rd album「フリッカー」をリリースできそうです。

ツバメスタジオでの作業は匠君の日記に書かれた2021年9月12日で終え、そこからはデータで君島さんとやり取りをしながらミックス、マスタリングの作業をしました。
ミックスは匠君が中心となって細かいところまでじっくりと時間をかけて君島さんとやり取りを進めてくれ、練習スタジオの行き帰りに僕の車で何度も一緒に音を確認しました。
確か最終のマスター音源が完成したのが2022年の年明けくらいだったような(その後もレコードのテストプレスが上手くいかず、君島さんに再度マスター音源を調整していただくことになったのてすが…)。
何にしろとりあえずリリースまで漕ぎ着けた事に安堵しています。

今回アルバムを作ろうと思ったきっかけもあまり覚えていないですが、コロナでライブも頻繁にできず、メンバーの家族も出産を控えていたという事もあり、その後の活動もしばらく目処が立たないので今のバンドの状態を録音してみようという流れだったような気がします。
当時ドラムの啓伍は2人目の子どもが産まれてバンドを休んでおり、代わりにパーカッションの大津君がライブではドラムを叩いていました。
なのでレコーディングでは半分以上の曲を大津君がドラムを叩き、啓伍は3曲ドラムで参加しています。
啓伍が日記でも書いているようにこの時はこれで良かったんだと思います。
現在はドラムが啓伍、パーカッションが大津君という従来の編成でライブをしているので、当然この時期とはまた曲にも変化が出ていたり、もう演奏する事ができない曲もありますが、それもそれで良いんだと思います。

今回レコーディングするにあたって、ツバメスタジオの君島さんにお願いしたいと自分の中では決めていました。
君島さんは前作のアルバム「リズム」でミックスとマスタリングをしてくれたのですが、その時からぼんやりと「次にもしアルバムを作ることになったら君島さんに録音からお願いしたい」と思っていました。
今のバンドの状態を録音するなら、ラウドな激しさではなく、生々しいソリッドな激しさを形にしたいというイメージがあり、そのイメージを共有できそうだと思ったのが君島さんだったし、ギターの匠君との相性も良いのではという狙いもありました(その辺りは匠君の日記を読んでも分かる通り的中したと思います)。
実際録音やミックス作業も楽しく行えましたし、メンバーも納得のいく作品になりました。
今のハードコアパンクの主流の音ではないと思いますが自分達らしい音になったのではと思っています。

ツバメスタジオは東京のスタジオという事もあり、名古屋からメンバー全員で頻繁に通うには時間も経費も厳しいので、できるだけ一回の滞在期間のうちに集中して終わらせたいという事でお盆休みにレコーディングする計画を立てました。
とはいえ、2021年のお盆休みは東京オリンピック直後でコロナの感染者が爆増、緊急事態宣言が発令されライブやイベントも軒並みキャンセルが目につくような状況。
そんな中、「わざわざ東京にレコーディングしに行くなんて意味が分からない」、「名古屋で録れば良いじゃないか」、などとメンバーの家族が思ってもしょうがない、というかそう思うのが普通の感覚だと思うし、最悪NGが出たら諦めるしかないか…と思っていましたが、予定通り東京へ送り出してくれました(もしかしたら半ば呆れていたかもしれませんが…)。
現在自分達がバンド活動をするにはメンバーの家族の協力が不可欠です。
今もこうして活動ができる事に改めて感謝します。

家族との時間を犠牲にしてわざわざ東京に行ってコロナに感染したら元も子もないので、絶対に感染しないようにやり過ぎだと思うくらいレコーディング期間中は注意を払いました。
特に妊娠しているメンバーの奥さんに感染させる訳にはいかないし、何日も宿泊させていただいた谷ぐちさん一家にも感染させる訳にはいかない。
食事は全てテイクアウトかUberEatsを利用し、数年ぶりの東京滞在でしたがレコーディング以外はほとんど遊びに行ったり友達に連絡したりもしませんでした。
そんな中、唯一レコーディングに遊びに来たサトゥーが、「食う?」と袋に入ったポップコーンの回し食いを勧めてきた時、いや有り難いけど、ちょっと…と躊躇してたら、大津君が迷いなくパクついてて流石だと思いました。

また、潤沢なレコーディング資金がある訳でもなく、頻繁に東京に来る事は難しいので、東京滞在期間のうちにレコーディングが終わるよう細かく計画を立てました。
最低でもボーカル以外のパートが全部録り終えるようにタイムスケジュールを考えたり、これは前作でも行なった事なのですが、曲毎におおよそのBPMを予め決めておいて録音する前に毎回BPMを確認し、曲のテンポが速い/遅いでボツになるテイクができるだけ少なくなるようにしました。
上手くいかず何度も録り直した曲もありましたが、何とかバックの大まかな演奏は期間内に録り終える事ができて良かったです。

この時ちょうど緊急事態宣言が発令された影響で飲食店も20時に閉店する店が多く、レコーディングに夢中でうっかり夕食を食べ忘れてしまった事もありました。
とりあえず開いてそうな飲食店を調べて車で行ってみるもどこも閉まっており路頭に迷ってしまっていたのですが、カーブを曲がった瞬間に松屋のオレンジ色の光が目に飛び込んで来た時の歓喜は今でも忘れる事ができません(松屋は20時以降もテイクアウトのみで営業していました)。
松屋にはこれからも庶民の味方でいて欲しいと思います。

三浦知也さんに撮ってもらったアー写の候補写真。
最終的には採用されなかったけどメンバーの背後に偶然にも松屋のオレンジ色の灯りが…。


他にもメンバーが書いていないエピソードで自分が印象に残っているのは、昼食を買いに行く途中に輩みたいな人が乗ってそうな車がZARD/揺れる想いを爆音で外に向かって流しながら走り去っていった事。
あのタイプの車でZARDが流れていたのは初めて見たけど、合流しようとする車を前に入れてあげたりしていて、シンプルにZARDの優しい世界観を世の中に伝えたい人だったのかもしれないですね…。それかZARDによって自分の荒ぶる気持ちを抑えていたのかもしれません。

最後にこのアルバムに関わっていただいた皆さんについて。
今回ジャケットをはじめとしてアートワーク全般を松井一平さんにお願いしました。
自分がハードコアを聴き始めてからずっと一平さんのアートワークを目にしてきたし、まさか自分のバンドでお願いする時が来るとは思っていませんでしたが、今回のアルバムを構想する際にジャケットのアートワークで真っ先に浮かんだのが一平さんでした。
おこがましいですが、一平さんが描いてきた絵から瞬発的な強い光のようなものを感じる事が多かったので、フリッカーというタイトルとの相性も絶対良いはずという予感もありました。
何度も試行錯誤しながら制作に取り組んでいただき、ジャケットのアートワークが送られてきた時は本当に脳が揺れるような衝撃を受けました。
一平さんにお願いして本当に良かったと心から思います。
宝物です。

アルバムのデザインは井上貴裕君にお願いしました。
彼とは同じ高校に通っていた頃からの友達で、一緒にいると永遠に喋っていられます。
THE ACT WE ACTの結成当初から僕らの事をよく知ってくれていて、音源やTシャツ、フライヤー等のデザインやアートワークをたくさん手がけてくれており、今回もばっちりな仕上がりだと思います。
アルバムのリリースライブのフライヤーも作ってくれました。

DJで出演してくれるRamza君はこれを見てはぐれメタルだと思ったようですが井上君にはその意図は無かったみたいですね…笑


今作はKYUSU RECORDSという自分のレーベルを立ち上げてのリリースなのですが、レーベルロゴも井上君が作ってくれました。

祖父が生前に描いた絵が良くて、いつかレーベルをやる時が来たらその絵をロゴに使えたら良さそうと思っていたのですが、井上君のおかげで実現できました。
名前の由来とか深い意味は特に無いのですが、後付けですけど急須でお茶を淹れるのとレコードに針を落として音楽を聴く事に共通点があるような気がして、結果的に良いレーベル名になったなと思います。

本アルバムのBandcampにはボーナストラックとしてind_fris君による「歩き方(acind_fris remix)」が収録されています。
ind_fris君とは同じ大学で在学中に知り合い、僕はバンドのサークル、彼はジャズのサークルに所属していました。
ind_fris君は大学に入学する前にアメリカに住んでいて、その時は独りでブラックメタルの曲を作っていたようで、知り合った時はエクストリームな音楽の話で盛り上がった記憶があります。
卒業してからも活動するシーンは異なりますが交流があり、どこにもハマらない(ハマれない?)活動スタンスにもシンパシーを感じたりしています。
単純に彼の音楽のファンなので今回リミックスをしてくれて嬉しかったです。
昨今の彼の楽曲から感じる柔らかな質感とはまた違った側面が見えるリミックスとなっているのではないでしょうか。かっこいいです!

アルバムをリリースするにあたって、現メンバーでの写真がなかったので、これまた大学の先輩である三浦知也さんに新たに写真を撮影してもらいました。
知也さんとは在学中にはほとんど交流が無かったのですが、卒業後にライブとかで会うようになり、これまでのTHE ACT WE ACTのアルバムやシングルのジャケットは全て知也さんの写真を使用させていただいています。
ECD + illicit tsuboi,NICE VIEW,THE ACT WE ACTという壮絶なライブを企画してくれたり(一平さんと初めてちゃんと話をしたのもこの時でした)、TOYOTA ROCK FESTIVALにブッキングしてくれたり、MVやライブ映像を撮影してくれたりとめちゃくちゃお世話になっています。
知也さんの写真は切り取り方や独特な色彩感覚がとても魅力的で、今回はYo La Tengo/Summer Sunのジャケットみたいな明るすぎず暗すぎないようなイメージを伝え、明け方の豊田市の某所で撮影しました。
動きながらだったり、チョケてみたり色々な写真を撮りましたが、最終的には今記事のヘッダーに載せている写真で落ち着きました。
撮影後にみんなで喫茶店のモーニングに行ってダベったのも良い思い出です。

撮影中にチョケるてっちゃん


今回のアルバムは自主リリースなのでリリースインフォも自分で書かなくてはならず、自分のバンドの事を書くのはあまり好きではないので作品の紹介を誰かにお願いしようと思い、真っ先に浮かんだのが安田さん(珍庫唱片/ROOK RECORDS)でした。
自分達の事を昔から知ってくれているし、安田さんでしかない独特な視点で書かれるコメントやレビューがとても好きなのでお願いさせていただきました。
啓伍が今回の安田さんの文を見て、安田さん自身の事を書いてるみたいだね、と言ってましたが、そう言われてみるとそんな気もしてきます。
今回のアルバムに関する事柄で最後に依頼をさせてもらったのが安田さんでした。
自分に音楽の豊かさや面白さを教えてくれる大好きで尊敬している方なので、このような形で関わっていただいてとても嬉しいです。


今回のアルバムタイトルであるフリッカーは和訳すると明滅という意味になります。
明滅という言葉を調べると、光が明るくなったり暗くなったりすること、と出てきます。
メンバーそれぞれの環境も変わって10代、20代の頃のようなバンド活動はおそらく今後もなかなか難しいとは思いますが、例えばずっと灯り続けている光よりも、点いたり消えたりを繰り返しながらバチッと光る瞬間の方が光そのものの力は強く感じる事もあるような気がします。
そもそも20年同じバンドで活動できているのもラッキーでしかないし、この先またアルバムを出す事があるのかも分かりませんが、そうやって瞬間瞬間でバチっと光るような活動や曲を作る事ができればそれで良いように今は思います。
アルバムよかったら聴いてみて下さい。

THE ACT WE ACT/フリッカー

名古屋を中心に活動するTHE ACT WE ACTが自身のレーベルKYUSU RECORDSより3rd album「フリッカー」をアナログレコード(DLコード付き)、Bandcampでリリース。
前作から8年ぶり、かつ、現メンバーで初の単独作となった今作は録音/ミックス/マスタリングを君島結(ツバメスタジオ)が手がけ(一部、Guitarの横山匠もミックスに参加)、ラウドさよりもソリッドさに比重を置いた生々しい音像でありながらも、随所に音の仕掛けも組み込まれた意欲作となった。
一目で強烈なインパクトを焼き付けるジャケットをはじめ、本作品のアートワーク全般は松井一平によるもので、デザインはこれまでにTHE ACT WE ACTの多くの制作に関わってきた井上貴裕が担当。
またBandcampでの配信にはボーナストラックとして岡崎のエレクトロニックミュージシャン/プロデューサー、ind_frisによるリミックス曲「歩き方(acind_fris remix)」が追加収録され、彼の昨今の作風とはまた違った側面が垣間見える内容となっている。

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増えすぎた故にその存在価値を際立たせることが難しく時間とともに溶けていくコンビニエンス。
遺跡となり果てはランドリーか葬儀場。HARDCORE PUNK。
その場に居続けるのも人生、その場を思い先に進むのも人生。
数々のインスピレーションを纏い血流を自在に操る。
第何章何バース?さまざまなドラマを抱えてアップデートされ続けていく人生、抗い贖う。
John Faheyの人生とThe Exの人生。
波止場にて、発展途上。
ひとはさまざまなドラマを抱えて。何想う。
TAWAの放り込むレゾナンス、呼応せざるを得ない我々のアンビエンス。
果てはランドリーか葬儀場。
安田幸宏(珍庫唱片/ROOK records)

<収録曲>
1.振動
2.反対方向
3.ベルトコンベア
4.スロウデス
5.わからない
6.呼吸
7.歩き方
8.カミングアウト
9.ビューティフルミステイクス

Bonus track. 歩き方(acind_fris remix)
※ Bandcampにのみ収録



THE ACT WE ACT
2003年、愛知県豊田市にて同じ中学校に通っていた同級生を中心に結成。
これまでにiscollagecollectiveより2枚のアルバム、SummerOfFanより1枚のシングルをリリース。
その他にも数々のSplitやコンピレーション音源に参加。
結成20年目にあたる2023年、自身のレーベルKYUSU RECORDSより3枚目のアルバム、「フリッカー」をリリース。

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