【今更】シン・エヴァの感想を話そうよ(1)
公式から案内しているわけでも無いのに世のオタクたちが内容を秘匿する異常事態に対して、公式から「もうネタバレ感想ツイートしてもいいよ!」と許可が出たの本当に興味深い。
それでもまだ映画の内容をSNS(というかTwitter)で話すのは憚られる。まだ見ていない人もいるはずだし終末はしっかりと自分の目で前情報無しで見届けて欲しい。本気でそう思えるほどに今回のシンエヴァは良い映画だった。
(↑この文章を書いたのは公開当初だったので感想も当時の世相が反映されていてちょっと面白い。)
ついに達成しましたね。興行収入100億円。私も3回観に行きました。特典抜きにしても見る度新しい発見や感動があって何度もリピートしたくなる映画だからこその結果かと思います。おめでとう。
今更ネタバレ注意も何もないと思うので、シンエヴァの感想をつらつら書いていこうと思います。本当は1回目観た直後に書き始めていたんだけど、仕事がしんどくて途中で止めちゃっていました。
今ならできるよね。領域展開(真人)
「新世紀エヴァンゲリオン」TVシリーズは1995年放送開始。1992年生まれの私がリアルタイムで追えるはずはない。しかし中学2年の時には当然のように視聴していた。きっかけは何だったっけ?涼宮ハルヒの憂鬱から流れてきたんだっけ。長門は綾波のパクリ、じゃあ綾波って?みたいな。何にしても中学時代に作品に触れることができたのは最高でした。シンジくんたちと同い年ですからね。そしてシンエヴァの公開まで生きていることができたことはもはや奇跡。神に感謝。
さて今回のシンエヴァ、TVシリーズ→旧劇場版→新劇場版と通じて作品を追ってきたファンほどブッ刺さる内容になっている。
「さようなら、全てのエヴァンゲリオン。」
この作品そのものを指す言葉だが、ここで言う「全てのエヴァンゲリオン」はこの新劇場版の作品内のエヴァだけではなく、ここまでのTVシリーズや旧劇を含む全てのエヴァ作品なんですよね。それらを全て終わらせる覚悟・使命をもって作られたのがこのシン・エヴァなんですよ。だから全ての作品にリンクしていて、全てに落とし前(作品内でも何度もこのワードが使われる)をしっかりつけてくれたことがなによりもファンとして嬉しいことだったんです。
うまく文章をまとめられないので、私にとってブッ刺さったシーンを片っ端から書き連ねていくよ。
■第3村にて
ニアサーを起こしてしまった罪とカヲルくんが死んでしまったショックで完全に塞ぎ込んでしまったシンジくん。トウジ、ケンスケらはそんなシンジに寄り添って暖かく接してくれる。シンジは絞り出すように話す。
「なんでみんな、こんなに優しいんだよ…!」
「碇くんが好きだから。」
即答するレイ。ぐしゃぐしゃに泣くシンジくん。
このシーン本当にヤバい。劇場で年甲斐もなく泣いてしまいましたよ。シンエヴァを象徴する名シーンだと思う。シンジくんはTVシリーズでは基本的に誰にも必要とされていない、好かれていないと思いこんでしまっているんですよね。最終的にはそれが積み重なり、全ての他人と自身の死を望んでしまうのが旧劇での補完計画のトリガーでした。
「碇くんが好きだから。」はTVシリーズ24話ラストシーンのシンジくんのセリフと対応しているように感じました。
「(カヲルくんが)『好きだ』って言ってくれたんだ。ぼくのこと。はじめて、はじめて人から好きだって言われたんだ。」
他人から必要とされる、「好き」という言葉。シンジくんがどれほど渇望していたかわかるシーンですよね。そんなカヲルくんは自分の手で殺してしまった訳ですが……。
実際にTVシリーズ内で、みんなシンジのことが嫌いだったかというと決してそんなことはなかったと思います。レイ、アスカは間違いなくシンジに好意がありましたし、トウジ、ケンスケもシンジが壊れてしまいそうな時にあの場にいたら必ず力になってくれたはず。(23話「涙」でレイが自爆した影響で第三新東京市の住人は移動を余儀なくされていた)
アスカはあんな性格ですし、レイも死ぬ直前にシンジくんへの好意に気づく始末。様々なすれ違いがあって結局シンジくんは孤独を深めてしまう結果になってしまったのでした。
対してシン・エヴァにおけるトウジ、ケンスケらの言葉がいかに暖かく、優しく、愛に満ちていることか。
「お前はもう十分に頑張った。」
「友達だろ。」
シンジくんにかけてくれる言葉の1つ1つにも涙腺が緩みっぱなしでした。よかったねシンジくん……。でもその好意は本当はTVシリーズでも向けられているものだったんだよ。気づけてよかったね……。気づかせてくれる友達がいて本当によかったね……と完全に親の気持ちで観ていました。
改めてTVシリーズを見返してみると、トウジとケンスケはシンジにとって本当に良い友人なんですよね。第4話「雨、逃げ出した後」ではシンジくんとミサトさんの関係がフォーカスされがちですが、トウジ・ケンスケも本当にシンジのことを想ってくれているのがわかります。
「碇が居らんのやったら、いずれわしらもこの町から出て行かんならんようになるやろう。せやけど、わしらなにもいわれへん。EVAの中で苦しんでる碇の姿見てるからなあ。碇のこと、ゴチャゴチャ抜かすやつが居ってみい!わしがパチキかましたる!」
第4話のラストシーン、エヴァに乗ることを止めて第三線東京市を離れようとするシンジに対するトウジの台詞。良い奴すぎんか?見返してまた泣いちゃったよ。本当に。
第3村ではとにかくシンジくんの周りの人の繋がり、暖かさを描いてくれていたなと思います。鬱屈した旧劇とはえらい違いだぁ……。
■アヤナミレイ(仮称)
アスカ曰く、
「レイが第三の少年(シンジ)に好意を抱くのはそのようにプログラムされているから」
えげつなぁ……。まぁレイは量産型のクローンで意図を持って作られた存在なので、作中の設定としても無理はないんですが。
この設定は「理由は無いけれどなぜかヒロインに好かれまくる主人公キャラ」に対するアンチテーゼ(使い方合ってる?)のように思えます。
様々な考察でも言われていますけど、作品のテーマの1つは「卒業」なんですよね。制作側から、理由もなくモテまくり!みたいな現を抜かした作品からは早く卒業しろよ?と言われているようでゾッとしました。
メタ的な目線でもこのメッセージはラストシーンまで一貫しているようにも感じました。登場キャラが自然に主人公のことが好きになるような甘い世界は幻想(設定)なのだから現実を見ろ、みたいな。
そんな作られた存在であるレイが主体性を持って「したいことをする。」と言って行動してくれたのは素直にええ話や……と思いました。あの第3村のシーンだけでレイの死を惜しめるほどに人間味を描いた脚本は凄い。9ヶ月間作ったものを一度ゼロに戻しただけのことはある……。
「さよならはまた会うためのおまじない」
ヒカリが教えてくれたおまじないの1つですが、作品のテーマが「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」なのにこれはズルいなーと思っていました。本当に終わりだけれどもまたいつか会える、という余韻を残してくれた素敵な台詞でした。
挨拶はシリーズ全体を通じて綾波の人間性の成長を語る上で欠かせない要素ですよね。TVシリーズ第6話「決戦、第三新東京市」でもヤシマ作戦直前にエヴァに乗り込む際、綾波は「さよなら」を言うんですよ。文字通りの意味で冷たい印象だったんですが、戦いが終わってからシンジくんに「別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ」と諭されます。このやりとりでのシンジの優しさが綾波の心を動かすんですよね……。
新劇場版:破でも綾波が登校した時に挨拶をして「あの綾波が……_?」とクラスをざわつかせたシーンがありました。
綾波の人間性は挨拶と共にあり、それを第3村で身に付けながら人として成長していくアヤナミレイもやっぱり綾波だったんだなぁと。そう思ったわけです。
■アスカ
「あんた、メンタル弱すぎ」
シンジに向けた台詞ですが思わず笑っちゃいました。ここまで視聴者の気持ちを代弁した台詞も無かったかなと思います。シンジくんの精神的ダメージを考えると、どう考えてもそんな簡単に立ち直れるものでは無かったのですが、シンエヴァ冒頭からずーっと沈んだままなのでそう感じちゃうのも無理はないですよね。
見た目は14歳のままですが、シンエヴァを通して一番「大人」を感じたのがアスカだったなあと思います。すごく安心して見ていられた。あれ?アスカってQ時点で28歳でしたっけ?同い年じゃん……。当時エヴァにハマっていたオタクと同い年にする……これもゼーレのシナリオのうちですか?庵野監督。
一貫して「人類を守る」という使命感と責任をエヴァに乗る原動力にしていることがビジネスパーソン的でした。TVシリーズのアスカは(惣流ですが)エヴァに乗る理由を自分の価値とほぼイコールにしていたんですけれど、Q・シンエヴァのアスカは人類という外側に向いているんですよね。ここまでの考え方の変化に至るまでの14年間の壮絶さが容易に想像できます。
大人といえば、シンジに対する態度も完全に母親目線が入ってしまっているんですよね。エヴァに乗ってシンジくんと一緒に戦ったのは14年前。もう遠い遠い青春の思い出です。しかしシンジくんは見た目も想いもあの頃のままなわけです。アスカは終始シンジに辛く当たっているように見えますが、接し方の落とし所がわからなかったではないかなと思います。
「あの頃はシンジのこと好きだったんだと思う。でも私が先に大人になっちゃった」
この台詞からはその不安定さに落とし前をつける覚悟を感じました。TVシリーズから累計して25年越しの告白なんですよ、これ。でも時間が邪魔をして過去形になってしまうのすごく哀しくないですか……?今際だからこそ言えた台詞なのも辛かったです。アスカはもう世界を守る兵士だもんな。同窓会で小学校の頃の初恋相手に告白する寂しさを100倍濃縮したような感覚?違うか。わからん。
■2号機
いっつもこんな役。いつも頭吹っ飛んでるしグチャグチャになっている。2号機が何か限界を越えようとする度に「どうせ無理なんだろうな」という空気を作れるのは25年間の積み上げの賜物と言う他はない。旧劇場版を見に行ったキッズにトラウマを植え付けた罪は重い。悪いのは量産型エヴァだけど。頑張り屋だけど報われない。それが2号機。
■冬月先生
「激突!轟天対大魔艦」が完全に冬月先生のテーマになってしまっていた。戦艦バトルいいよね……!「激突!轟天対大魔艦」のBGMで作風が一気に変わったし、意図的に変えようとしているのが伝わってきてよかった。スタッフたちノリノリで好きに作っているんだろうなあと感じた良いシーンでした。冬月先生、LCL化を気合で耐えていたのはすごい。ネット上では人類最強では?と揶揄されるほど。冬月先生の内面はシンエヴァではあまり描かれなかったけど、その辺はTVシリーズ「ネルフ、誕生」や旧劇場版でも十分に語られていたから敢えて差し込むほどでは無かったという感じかな。
■ミサトさん
多方面からツッコミが入っていた破での「行きなさいシンジくん!」からQでの「何もしないで」への変化に対するしっかりとしたアンサーが出ていたのは本当によかったです。TVシリーズでのミサトさんのシンジくんに対する態度は一貫して失敗ばかりだったけれど、新劇場版での変化はシンジくんを大切にしたい想い、ヴィレのTOPとしての立場に板挟みになってしまったが故にああする他は無かったんだなと思います。仕方ないでしょう、世界は残酷なんだから。
様々な考察でも触れられていますけど、Qでシンジがヴィレに保護される→ミサトらに会う→ネルフエヴァに襲われるまでの時間ってマジで作中の時間そのままなんですよね。あの時間の中で全てを伝えて不明点を解消できるわけがない。ミサトさんは悪くないよ……。2人だけの時間を少しでも作れればよかったのにね。
ミサトさんについては加持さんとの息子に対する母親としての接し方もとても印象的でしたが、一番ウルっと来たのはシンジくんとの信頼関係の深さです。
先ほども述べた通り、TVシリーズ〜旧劇場版までのミサトさんとシンジくんの関係性って最後まですれ違い続きなんですよね。使徒を殲滅する理想をシンジくんに押し付けてしまったり、上司なんだか保護者なんだかわからない説教をしてしまったり、落ち込むシンジくんに身体を重ねようとしてしまったり。視聴者から見てもオイオイオイとしか言えないようなコミュニケーションが続いていました。
「結局、シンジ君の母親にはなれなかったわね…」
は印象的な台詞ですが、「そら(エッチしようとしていれば)そうよ」としか言えない有り様。これはミサトさん自身が愚かというかあまり出来た大人ではないということもそうですが、最後までシンジくんとどう接するべきか図りかねていたからだと思います。母親にはなれんよ……。
それに対してシンエヴァでのミサトさんは徹頭徹尾、シンジくんへの絶大な信頼を置いています。
「私は今のシンジくんに全てを託してみたい。」
もうね、ガバガバになりました涙腺。最高。振り返れば新劇場版のミサトさんっていつもいつでもシンジくんの味方なんですよ。序のヤシマ作戦で自らエヴァに残ったシンジくんを信じて、ゲンドウを説得して、もう一度日本中のエネルギーを託したり、破で自分自身の願いのために初号機を覚醒させたシンジくんを後押ししたり。シンジくんが自分の意志で動こうとする時はいつでも味方になって背中を押して励ましてくれる、それがミサトさんなんです。だからシンジくんもミサトさんを信頼しているし、ミサトさんも何度も死線を超えて世界を救ってくれるシンジくんを信頼しているんです。
そういえば、Qでシンジくんが槍で世界をやり直そうとした時の台詞が
「そうすればミサトさんだって……!」
なんです。「えっ何でここでミサトさん?」と視聴者が思うくらい、唐突にミサトさんが出てくるんですけれど、これまで積み上げてきた信頼関係を考えたら当然の台詞であることがわかると思います。今は自分のせいで世界が滅茶苦茶になってしまっているけれど、もしかしたらミサトさんも自分に失望してしまっているかもしれないけれど、世界を元に戻せるならきっと味方になってくれる、背中を押してくれる、というシンジくんの切なる想いが詰まっていますよね。
親子とも上司部下とも兄弟とも違う、不思議だけど強固な信頼関係。これが正しいミサトさんとシンジくんの繋がりだったんですよ。
その積み重ねの集大成が全てを託してみたい、なんですよ。父親を止める、と自分の意志で動く大人になったシンジを最後に後押しする台詞なんですよ。TVシリーズから20年越しに築き上げた関係が1つの言葉になる。もう涙なしにこのシーンは見れなかった。
その後の「いってきます」「いってらっしゃい」のシーンも最高でした。この台詞はTVシリーズ第4話と旧劇場版に対応しているように思えました。第4話ラストではシンジくんは第三新東京市に残ることを決意します。そこでのミサトさんとの会話が「ただいま」「おかえりなさい」なんです。第2話ではぎこちなかった挨拶からスタートして、シンジくんがミサトさんを自分の居場所として捉えることができた印象的なシーンなんです。
「いってきます」と「いってらっしゃい」はシンジくんがミサトさんの中に自分の居場所を見出した上で、自分の意志で動こうとするシンジくんとそれを後押しするミサトさんの関係を端的に表したとても良い台詞だったと思います。
旧劇場版でのシンジくんとミサトさんの最後のやりとりは一方的なコミュニケーションになってしまい、ミサトさんからの「いってらっしゃい」に対して、シンジくんは覚悟が決まらないまま、「いってきます」が言えないまま、お別れになってしまうんですよね……。だからこそシンエヴァではこの別れに対する正解を出してくれたなぁと思いました。
あぁ本当に最高のシーンだったよ…。
マイナス宇宙→ラストまでの感想は後編で!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?