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[NUProtein 南 #007] プロダクトアウトとマーケットイン、植物による物質生産の(勝手に)ドリームチーム

(ヘッダー画像は、閉鎖型植物コンテナ工場のイメージです)

 当社は、コムギ胚芽由来無細胞タンパク質合成技術を持っており、新しい取り組みとして、植物による物質生産、より具体的には、遺伝子組換イネによる成長因子等の機能性タンパク質を圧倒的に安い製造コストで生産し、これら2つの技術で、食・医療分野に寄与しようとしています。

プロダクトアウトとマーケットイン

 #006の記事で、当社のコムギ胚芽由来タンパク質合成系はボルトで、新しい取り組みの遺伝子組換イネ由来タンパク質合成系はキプチョゲだ、とお話しいたしました。その成り立ちは大きく異なり、これが、プロダクトアウトとマーケットインにかなり密接に関係しています。

 当社は、食用コムギ胚芽からタンパク質合成機能を持つ抽出液(コムギ胚芽エキス)の抽出方法を編み出した現CTOの多田の技術をコアに立ち上げた会社です。当初は、大学等の研究機関向けに色々なタンパク質が合成ができることを掲げて試薬キットとして提供開始しました。次に、成長因子が高くて困っているというお話し聞き、再生医療系メーカーへの提供を目指し、再生医療系メーカーの集積している神戸医療産業都市に本社を移転し、そこで営業・事業開発を行いました。一方、成長因子は医療系メーカーにとってはキー素材であり、その安定調達が安さよりも優先され、なかなかベンチャー企業からの提供機会はありませんでした。そんな頃に培養肉市場は、より価格に敏感でかつ同じ成長因子が望まれていることから、事業を培養肉向けの成長因子提供に向けた経緯があります。

 すなわち、コムギ胚芽由来タンパク質合成系のフィットする市場を探しもとめて、培養肉向けに落ち着いた、という経緯があります。
 一方、培養肉産業の中でも、牛肉・豚肉などの培養畜肉メーカーと培養魚肉メーカーでは大きくその要求仕様が異なっています。その要求仕様といくつか他の理由から、独自のコムギ胚芽由来タンパク質合成系に加えて、遺伝子組換イネによるタンパク質合成系を新しく技術開発することとしました。

 簡単には、何回かの事業ピボットの結果培養肉産業に落ち着き、その培養肉産業向けに更に新技術を加える形になっています。即ち、コムギ胚芽由来タンパク質合成系は、プロダクトアウト的な発想でフィットする市場を探索し、遺伝子組換イネによるタンパク質合成系は、市場要望からのマーケットインによるものです。

 プロダクトアウトとマーケットインの長所・短所は種々論じられています。マーケットインの発想では、例えば、"マーケティングの近視眼"に陥り、「馬車全盛の時代には速く走れる馬を市場が求めて、車が発明されることはなかった」とか、競争力のない陳腐な製品になってしまう等いろいろあります。一方、プロダクトアウトの良い点は、独自性のある製品ができるので、『論理の自縛化』、すなわち大手の製品の特長(発信内容)と矛盾する製品特長を訴求することで、大手が発信内容に自縛されている間に、新しい市場を狙える利点等があります。しかし、この論理の自縛化は大手だけでなく、研究開発型ベンチャーでも言えるのではないか、すなわち、一つの技術を磨き上げていくうえで、その技術特長に縛られ過ぎてはいけないのではないかと最近考えだしました。
 また、マーケットインを取り入れても十分競争力のある製品が開発できるのではないか、そこで、今まで競合技術・製品とみなしていた技術を、所謂組み合わせのイノベーション(プロセスイノベーション)で、個々のユニークな技術を組み合わせて、既存技術を上回ることができるとも思いました。

植物による物質生産のドリームチーム

 話は飛びますが、植物による物質生産方法にはいくつか種類があります。①遺伝子組換植物を栽培しての物質生産、②バクテリアに感染させて植物内での一過性発現とよばれる物質生産、③無細胞の植物由来タンパク質合成です。それぞれ長所・短所があるのですが、当社は③の技術を保有しています。その技術特長は、#005に述べたとおり、この①~③の中ではずば抜けてのスプリンターです。
 さて、当社はタンパク質をできるだけ安く提供することを目指していますので、その原材料などが豊富にかつ工業的に出回っており、非常に安く入手できることに重きを置いています。②のバクテリアを用いた一過性発現は、名前を聞くだけでも、安く作れるイメージがありません。そこで、広く栽培されている、世界三大穀物のトウモロコシとイネが原材料の候補と考えました。
 日本は米を主食とするため、イネに関わる技術・栽培法の蓄積がとんでもなく分厚く、無細胞タンパク質合成系の比ではありません。一方、主食であるが故に遺伝子組換で他の物質を作ることに一定の反発があることも理解できますが、先のプロセスイノベーションを考える上で、関連技術が豊富のため組み合わせが非常に多い極めて有望な素材です。
 当社の技術は、奈良先端科学技術大学院大学の加藤先生と山﨑先生のお力を借りて、イネのゲノムワイド解析から単離されたタンパク質合成量を増大させる塩基配列等、イネ由来のいくつかの技術を持っています。また、加藤先生と山﨑先生が、mRNAに関連して、タンパク質を高発現させる技術を昨年発表され、タンパク質の低価格化に非常に魅力的な技術に見えました。さらに、昨年は、イネの胚乳にワクチン抗原タンパク質を蓄積させ、ワクチンとして飲む(経口服用する)「ムコライス」の発表もありました。

 このような環境もあり、自社技術と加藤先生の技術を組み合わせ他に足りないものは何かの視点含め、遺伝子組換イネによる成長因子等のタンパク質合成系の検討を始めました。検討を進める中で、コメのタンパク質蓄積量は意外に多く、重量比で10%程度となることがわかりました。また、国内では田んぼ一反(1000平米)から、500キロ以上の米が収穫できます。ここで米・タンパク質の収穫量は、さらに開放圃場での再生多期作(多年草化)・不耕起栽培等と組み合わせると一回田植えすると無限収穫ができるかも、と考えるようになりました。また、欧州は遺伝子組換作物に対して非常に厳しく実質開放圃場での栽培は無理、逆に欧州勢との競争では、日本発であることがかなり有利に働くと考えました。実際オオムギを利用して成長因子を作る会社がアイスランドにありますが、欧州での栽培は難しいので、スケールアップのために、カナダに大きな隔離開放圃場を作ろうとされていますが苦労されているようです。一方イネであれば国内は密閉型植物工場が必要ですが、温暖・亜熱帯での栽培に向いているので、将来開放圃場で栽培できる地域はかなり広く、これからの気候変動・温暖化にも対応できる理想の植物のように思いました。
 ところで、コメのタンパク質は、主に、3種のタンパク質(プロラミン、グルテリン、グロブリン)で占められています。これらタンパク質の種子での発現メカニズムはずいぶん研究されており、主にプロラミン、グルテリンに関しては京都府立大学の田中先生と増村先生、グロブリンについては農研機構の高岩先生のご研究が目にとまりました。高岩先生のご研究をもとに、農研機構からのスピンオフベンチャーとして、プリベンテック社があること、また、プリベンテック社は既に研究用途にヒト型およびマウス型の成長因子を遺伝子組換イネから合成し、販売されていることを知りました。
 他にも様々な理由はありますが、結果、下図のような連携をお願いして、皆様に快諾頂き、今日にいたる、となります。

(出所:イークラウド 第17号案件情報より、抜粋)

さて、前置きが長くなりましたが、
・当社はコムギと同じ単子葉植物のイネでも活用できる特許技術をもっている
・奈良先端科学技術大学院大学は、mRNAに関連してタンパク質を高効率で発現させる技術をもっている
・京都府立大学の技術とプリベンテック社の技術により、コメに蓄積されている主要タンパク質を対象とすることができる
 まとめると、これら4社連携によって、コメの主要タンパク質が細胞培養に使う成長因子等のタンパク質に置換でき、これらを大量に発現させる技術が自社技術含め特許保護されており、海外含め地域によっては、ほとんど栽培コスト0になる栽培方法がある、となります。即ち、マーケットインの落とし穴である陳腐技術になることなく、組み合わせによるプロセスイノベーションによって、リードタイムは長くなりますが、最強・最安のタンパク質合成系が、頭の中で完成いたしました。各先生、各社は当方が勝手にチームと呼ぶのは非常におこがましい大家・先達の方々ばかりですが、勝手に『植物による物質生産のドリームチーム』と呼ばせて頂きました。

 あとは実行のための研究開発資金が必要です。そこで第2回目の資金調達をイークラウドさんにお願いし、下記イークラウドでの皆様へのご支援要請となっております。これまでの経緯含め非常に詳細かつ分かりやすいコンテンツを作っていただきましたので、是非ご覧ください。

今回もお読み頂きありがとうございました 


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