絆創膏と折りたたみ傘

鼻と胸を大きく膨らませ、
外の新鮮な空気を肺に取り込むと、
苔の生えた肌に潤いが戻っていくのを感じた。
身体の細部まで血が駆け巡る。
気持ち良い空気が頬を撫でる。
萎れた花が徐々に顔を上げる。
あぁ生きている。

「書類に不備がありますので受け取れません」
何度も言われた言葉。
備えあれば憂いなし。
この言葉に疑問を持つ。
準備してても安心するのはその時だけで、
未来は何が起こるかわからない。
悔しくて恥ずかしくて。
でもその苛立ちを相手に伝えたとしても、
結果は変わらないことくらいわかってる。
だから咀嚼してなんとか飲み込もうとする。
その姿は浅瀬の海で溺れているようでみっともない。
目の前には大きな錠剤。
飲み込むか、吐き出すか、歯で砕いてみるか。
ぼくはきっと飲み込むだろう。
お薬飲めたねみたいなゼリーを探す。
.
.
.
.
あーーーーー見つけた。
時間だ。
時間をかければ飲み込めるかもしれない。

何か嫌なことや自分の中では消化しきれないなと思ったことがあったとき、人に吐き出したとしてもスッキリするとは限らない。
だから飲み込もうとしてしまう。
言葉や時間と一緒に。
でもそれにはマイナスな面があって。
自分の殻に閉じこもり、勝手に解決して、
勝手に物事を進めてしまっていること。
この世界(夢や想像とは違う現実世界)には「他者」という怖くておぞましい存在がいる。
ぼくも誰かから見たらおぞましい存在かもしれない。
他者はどこにでもいて、
他者と関わらないと生きていけなくて。
それはめんどくさくて。
傷ついて、傷つけて、傷舐め合って。
そうやって生きている。

岩陰に佇んでいた僕を見つけたAと出会った。
Aはこっちにおいでよと手招きをした。
ぼくは腰を上げAの元へと歩く。
感謝しても感謝しきれない存在。
Aのような人は本当に大切にしたい。

荷物は重たいものよりは軽い方が良い。
それはそうだ。
でも手ぶらだと不安になる。
だから次に進むための傷を治癒する絆創膏と、突然心に雷雨が襲ってきても大丈夫な折りたたみ傘。
その二つをリュックに入れて、この世界を生きていこう。

あなたが下向いて重たそうに背負ってる荷物。
ぼくが代わりに持ちましょうか。
あなたの笑顔が増えますように。

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