非平衡

「……なんか今日、寒くないですか?」
「そりゃそうでしょ、11月も下旬よ」
「……え?本当ですか?もう?」
「本当なんだなこれが」
「なるほど……もうそんな時期なんですね……確かに、カーディガンだと寒いわけです」
「とりあえずこれ着てなさいよ。ほら」
「あ、ありがとうございます……あったかいです」


「……」
「……先輩」
「ん?」
「今更ですけど……本当に良かったんですか?」
「何が?」
「私の事……助けてくれたりとかして」
「あー……それね。まぁ気まぐれよ。たまたま気が向いただけ」
「そうだったとしても嬉しいです。私は今まで、ずっとひとりぼっちだったので……」
「それは知ってるわよ。あの馬鹿のせいでね」
「はい……」
「……」


「でも、もう大丈夫です。これからは私に関わってくれる人がいるので」
「そっか」
「だから、先輩にも感謝しています」
「別にいいってそんなの。私が勝手にやっただけだから」
「それでもです。やっぱり、誰かと一緒にいるのはとても楽しいですから」
「そうかもねぇ」


(……ほんと、よく笑うようになった)
(前とは大違いだ)
(この子は本当に、最悪な環境にいた)
(それがこんな風に笑えるようになるなんて、誰が予想できただろう?)
(いや、誰もできなかったはずだ)
(彼女が幸せになる為に)
(私が彼女を変えた)
(なら、それで良いじゃないか)
(彼女の笑顔を守れたなら)
(私はそれだけで)
(ほかに、何が必要だというのだろう?)


「……先輩?やっぱり、上着お返ししましょうか?すごく怖い顔してます」
「……ああ、いや、そんなんじゃないわよ。そんなんだったら、最初から貸してないし」
「……なんていうか、私、先輩に貰ってばかりです。だから、私が返せることなら、なんでも言ってくださいね」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。それが自分で見つけられないうちはまだまだよ。おとなしく借りたままでいなさい」
「でもそれじゃ、先輩はどうなるんですか。先輩は人を助けてばっかりで、先輩を助けてくれる人はいないじゃないですか」
「……余計なお世話よ。私はそういうの、気にしないタイプだし」
「……本当ですか?」
「本当だって。それにあんたと違って、私には友達もいるしね」
「うっ……そ、それは……」
「まぁ、それも嘘だけど」
「えっ……ちょっ、せ、先輩……?」


(……ああ、この温度だ)
(この子を抱きしめているとき、私の肌に伝わってくる温もり)
(困ったようにはにかんだ表情)
(そっと抱きしめ返す腕の感触)
(これが私のすべて)
(このほかには、私は何もいらない)
(あなたが私のすべてなの)
(私がずっとあなたを守ってあげる)
(あなたのためなら、私はなんだってできる)
(私はあなたに、何もかもあげる)
(代わりにあなたは、ただそこにいてくれさえすればいい)
(だからどうか、私の下からいなくならないで)
(ずっとそばにいて)

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