ミッドサマー【反転】の考察


こんにちは。ひなげと申します。おしゃれで楽しいブログを書こうとnoteに登録したはずがまさかのミッドサマー考察記事が一発目になりました。だって面白かったんだもん。

で、はい。ミッドサマー見てきました。やばかった。すごい(語彙力)

今回わたしはルーン文字やそこらの考察ではなくミッドサマー内で起きている【反転】について考察していこうと思います。ミッドサマーは執拗に反転を取り入れていてその反転がともかく気持ちが悪い。いっぱいあるんですけど、その中でも特に男女の立場の逆転が面白かったですね。それも後半で考察していきます。
前半は色々な反転、後半は男女に的を絞っていきますね。

考察の前に注意を二つほど
・ガンガンネタバレしていくのでまだ見てない人は読まないでね。何も知らずに観て動機息切れを起こしてハッピー夏至祭しようね。

 ・私は映画の考察自体は初めてです。一応ホラー映画で卒論は書いてるけど、こういう記事初めてなので「こういう考察あるんだなー」程度で読んでください

ではいきます

①反転のはじまり
 これは多くの考察がある通りに最初、ホルガ村に向かう時の道路の反転。画面がうにゃーってなってうにゃーってなる。かなり直接的な表現だけども分かり易く【これから全部真っ逆さまになるよ】を表していますね。
 ちなみに私がもう一つ気になったのは徒歩で村へ向かう時に道路からそれつつV字に戻る。でも完璧に戻る訳じゃなくて道路(普通の世界)から歪んで外れていく脇道(ホルガ村の世界)に行く。これもある意味反転ですね。

②恐怖の象徴の反転
 これは見ての通り、ホラーで恐ろしくないはずの象徴をこれでもかと恐ろしいものに変えていきましたね。
 ・光と闇……見た通り、もう昼間の方が怖い。なにあれもう
 ・お花……しかもカラフルなお花。赤とかじゃなくてカラフルなの怖い。丁度家にいっぱい花束あって怖い。
 ・幸せ……ホラーって不幸が起きる恐怖があると思うんですけど、終始「幸福! これ信仰! ハッピー!」が怖い。あの村行くなら一泊二日がいい。お土産はミートパイ。

③社会的立場の反転
ホルガ村の上下関係ってかなり面白いです。まず最高位(おそらく)にいるのがホルガ村の聖書を書いている障碍者のルベン。その次に女司祭、そして最初に捧げられる老人、信者たち。
 普通の世界の立場の強さとまったく反転している。あまりいい気分ではないですけど、社会的立場にランキングがあるのは現実ですよね。それでこの村は面白いくらい逆転している。

分かり易くするとホルガ村の上下関係はこんな感じ

障碍者>女司祭>老人>一般信者>外から来た人間

信者の中でも男女の立場が逆転している様に感じたのは私だけですかね? 女性的というかあまりガツガツしてない男性信者に、男を喰らうような女性たち。怖かった……

 この社会的立場の逆転はこれから考察する男女の逆転にも通じてきます。

★男女の立場の逆転

 ちょっとここから複雑な話になっていきます。

 まず前提として映画の中の女性って常に男性の視線に晒されています。ローラ・マルヴィが言うには「性的に不均衡である男女間で見る/見られる関係は男性が能動的で女性が受動的である」って言っています。どういうことかと言うと男が見る側で、女が見られる側ってこと。

※ローラ・マルヴィ「視覚的快楽と物語映画」 面白いから読んでみてね

 でも、もし女性側から男性を見た時、ジュディス・バトラー曰く「男性の主体が実は女性に依存しており、幻想でしかない事が暴かれる」。つまり男性の優位性は女性を踏みつけないと保てないということ。だから映画では徹底的に女性の「視線」の行使は弾圧されているらしい。

※ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』 ちょっと難しいけど面白いよ

前提長くてごめんなさい。あと少しです。

やっとホラーの話に戻ります。

ホラー映画では例外的に女性が視線を男性に向ける事があるとリンダ・ウィリアムズは言っています。「モンスターと対峙してモンスターに視線を向ける。女性の視線は『欲望』で視線を向けた時それは死ぬとき」らしい。何が言いたいかと言うとモンスターに視線を向けた時点で女性は助からない。つまり弾圧される。

※リンダ・ウィリアムズ "When the Women Looks" 日本語訳ないよ! 卒論の時死ぬ気で読んだけどいまだに合ってるか分かってないよ! 教えて英語得意な人!

ここらへんの話は福永保代さんのこの論文【ホラー映画における恐怖の表象としての女性 : 『サイコ』のヒロイン殺害をめぐる一考察(https://ci.nii.ac.jp/naid/120005738772)】読むと分かり易いかもです。ホラーって奥が深いですね~。あぁ面白い。

はい。夏の祝祭の話にやっと戻れます。この長ったらしい前提で何が言いたいかと言うと「男性が女性の視線に晒される事はあまりない」+「ホラーで女性が視線を使ったら普通は死ぬ」
という事です。

ちょっとミッドサマー思い出しましょう。

あれ……? 見てる……。バリバリ女性が男性の方見てる……

例えばマーク。「あの子だ。また俺の事見てる」と信者の女性の視線に居心地悪く、何度も視線を向けられてます。でも死んだのは彼ですね。関係ないですけど生きたまま生皮剥がれるシーン見たかったな。
クリスチャン。セックスしたい女子(名前思い出せない)にたくさん見られてます。加えてとても分かり易いのはクリスチャンが動けなくされて女性に「あなたは動けない。意識もあるけど、動けない(うろ覚えでごめんなさい)」って言われる時がっつりみられてますね。
あとは女性は「覗き見る」行為もタブーとされているんですけど、クリスチャンが他の女とセックスしているのをダニーは覗き見ています。

ここから分かる通り、ミッドサマーでは女性の視線に男性が晒されているという従来のホラー映画とは真逆の現象が起きているんです。
しかも女性が視線を使っても女性が罰せられるのではなく、むしろ男性が罰せられている。
男女の立場完全逆転しているんです。

視線の考察以外にも監督が言っている様に「全裸で逃げ回るクリスチャン」とか意図的に男女の逆転が起こされていますね。

他にもホラー映画にはグッド・ガールとバッド・ガールが存在するんですけど、ミッドサマーはあまりなかったですね。
グッドガールはいわばホラー映画の主人公になり易くて生き残る率高い女の子です。「ハロウィン」のローリーみたいな。逆にバッドガールはホラー映画のビッチ枠で基本死ぬ子。
ミッドサマーでは一応グッドガールとしてダニーがいるけれど「心理的障害」からグッドにはなりきれていない。むしろ男に煙たがれるバッドになる可能性もあった。でも彼女は生き残っている。しかも彼女の最も幸せな方向で。
あとホラー映画でセックスを望む女子は大概死ぬんですけどホルガ村のセックスしたいガールは生き残っています。女性の性欲を悪としないという点もこの映画の特色の一つでしたね。

まとめるとミッドサマーは従来の映画の枠、男女、社会的地位、画面、などからたくさんの反転を用いていました。だからこそあの不気味で奇妙で視覚でトリップするような魅力のある映画なんでしょうね。

まだまだ色々書きたい事はあるのですが、この辺で。また映画の考察したくなったらやります。

読んでいただきありがとうございました!


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