マイコプラズマ誘発性発疹・粘膜炎

・M. pneumoniaeは小児の市中肺炎を引き起こす比較的頻度の高い原因の1つである(*4).
・M. pneumoniae感染症では肺炎だけでなく様々な肺外合併症がみられる. 皮膚粘膜の合併症もよく知られた合併症で小児のM.pneumoniaeによる市中肺炎の20-30%で皮膚粘膜症状がみられると報告されている(*2).
・様々な臨床像がみられるが, 近年Stevens-Johnson症候群や多型紅斑とは異なる存在としてMycoplasma pneumoniae-induced rash mucositis (MIRM)が提案されており報告も多くみられるようになった.(*1)


疫学

年齢

幅広い年齢でみられることは知られているが一般的に若年者でみられ, 平均年齢は12-13歳と報告されている(*1, *3).

性別

・Canavanらの報告ではやや男性の方が多かった(66%)(*1).
・Liakosらの報告でも男児の方がみられやすいことが示唆されている(*3).

発生率

・M. pneumoniae感染のうちでどのくらいの頻度でMIRMが発生しやすくかはほとんどわかっていない.
・3-18歳でのM. pneumoniaeによる市中肺炎を分析したMeyer Sauteurらの報告では, 6.8% (3例)でMIRMがみられていた(*2).


臨床症候

概要

・一般的には粘膜症状が目立ち皮膚症状はないか乏しいことが多いとされているが, 皮膚症状は多様ではある(*1).
・倦怠感や咳嗽といった前駆症状の皮膚粘膜症状の出現の1週間前後先行している(*1).

皮膚障害

・Canavanらによる包括的レビューでは34%で皮膚症状はなく, 47%では皮膚症状はわずかで19%が中等度であった(*1).
・少ないながら皮膚瘢痕が生じることがある(*1).

粘膜障害

・口腔, 眼, 生殖泌尿器など様々な部位に粘膜炎が起こりうる.
・Canavanらによる包括的レビューでは以下の頻度で粘膜炎がみられていた:(*1)
・口腔: 94%
・眼: 82%
・生殖泌尿器: 63% (ただし生殖泌尿器の発生率は過小評価されている可能性も指摘されている)
・口腔や生殖泌尿器の粘膜炎では様々な表現型を呈する.
・眼障害としては両側性の結膜炎を呈し, 時に羞明や眼瞼浮腫を伴うこともある.

重症度

・Meyer Sauteurらの報告ではMIRMを伴うCAPではMIRMのないCAPと比べて発熱の期間が長いことやCRP値が高いこと, 酸素が必要となる割合が高い可能性が示唆されている(*2).


診断

MIRMの診断に関する基準は十分には確立されていないが, 一般的には以下のCanavansらの基準が用いられている(*2):

以下の2項目を満たす:
1: PCRもしくは血清学的にM.pnemoniae感染が確認されている, もしくはM.pneumoniae感染症に一致した画像検査所見や症状を有する
2: 目立った粘膜症状(2か所以上の粘膜領域が侵されている)と限定的な皮膚症状(身体の表面積の20%未満)がみられる皮膚粘膜障害


治療

・エビデンスに基づいて確立されたMIRMに対する治療は存在しない.
・経験的に抗菌薬やステロイドが用いられている(*1).


予後

再発

・少数ながら再発する例も知られている(*3)
・Canavansらによる包括的レビューでは8%で再発がみられていた(*1)
・再発例と単独例を比較したLiakosらの報告では, 再発例ではより重症度が低い可能性が示唆されている(*3).



Reference

1) Canavan TN, Mathes EF, Frieden I, Shinkai K. Mycoplasma pneumoniae-induced rash and mucositis as a syndrome distinct from Stevens-Johnson syndrome and erythema multiforme: a systematic review. J Am Acad Dermatol. 2015;72(2):239-245.
2) Meyer Sauteur PM, Theiler M, Buettcher M, Seiler M, Weibel L, Berger C. Frequency and Clinical Presentation of Mucocutaneous Disease Due to Mycoplasma pneumoniae Infection in Children With Community-Acquired Pneumonia. JAMA Dermatol. 2020;156(2):144-150.
3) Liakos W, Xu A, Finelt N. Clinical features of recurrent Mycoplasma pneumoniae-induced rash and mucositis. Pediatr Dermatol. 2021;38(1):154-158.
4) Jain S, Williams DJ, Arnold SR, et al. Community-acquired pneumonia requiring hospitalization among U.S. children. N Engl J Med. 2015;372(9):835-845.

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