「けいれん」を起こさないこともある熱性けいれん -ややこしい言葉たち


「熱性けいれん」は小児期でよくみられる疾患のうちの1つです.
熱性けいれんでは左右対称性に短時間のけいれんがみられることがあって…というのが一般的ですが, たまにけいれんを起こさないこともあります. 熱性けいれんなのに.

現在, 熱性けいれんは「主に生後6-60か月までの乳幼児期に起こる, 通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性, 非けいれん性を含む)で, 髄膜炎などの中枢神経感染症, 代謝異常, その他の明らかな発作の原因がみられないもので, てんかんの既往のあるものは除外する」と定義されており, そのようにガイドラインにも記載されています(*1).
つまり熱性けいれんでは非けいれん性の発作を起こしたものを含めることが定義にもちゃんと記載されています.

では非けいれん性の発作というとどのようなものが挙げられるかというと
・脱力
・一点凝視
・眼球上転 (白目をむく)

といったものがあります.
明らかなけいれんの動きがなくこういった症状のみがみられることもあり, そういった場合には「熱性けいれん」とは判断しづらい可能性はあります. 従って, そういうパターンがあることを知っておくと役立つかもしれません.

ではなぜ熱性けいれんと呼ばれているのでしょうか.
熱性けいれんは従来は英語で"febrile convulsions"と一般的に呼ばれていました. "febrile"が熱性で, "convulsions"がけいれんなので, 日本語と同じです.
ところがけいれん以外の症状が存在することから, より正確な表現として, 現在では英語では"febrile seizures"と呼ぶのが一般的となっています. "seizures"はてんかん発作, あるいは発作といった意味です.

ここでややこしいのはてんかん発作という意味です. これはてんかんでみられる発作という意味ではありません.
てんかん発作は「脳内の異常に過度の, または同期的なニューロン活動による一過性の徴候および/または症状の発現」と定義されたものです(*2). ちょっとややこしいですがこれはてんかん以外の状況でも起こりえるものです.
その代表例の1つが熱性けいれんになります(他には低血糖や脳炎などもてんかんではなくけどてんかん発作がみられる可能性があるものです).
ただ医師でも勘違いしてしまう恐れがあるので, 一般的に用いる場合には熱性けいれんではてんかん発作と呼ぶよりは発作と呼んだ方が無難かな, とも少し思っています.

さて, 英語はfebrile seizuresでも日本語では熱性けいれんのままになっています. これはガイドラインには「長きにわたり一般的に使用されている用語であるためガイドラインでも踏襲することにした」と記載されています.

こういった経緯から, 熱性けいれんでは「けいれん」を起こさないこともある, ということがあるわけです.

<参考>
*1 日本小児神経学会監修. 熱性けいれん診療ガイドライン2015
*2 Fisher RS, Boas WV, Blume W, et al. Epileptic seizures
and epilepsy: definitions proposed by the International
League against Epilepsy (ILAE) and the International
Bureau for Epilepsy (IBE). Epilepsia 2005; 46: 470–472.
 

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