にゅみ
その建物は路地にあった。狭い路地の周りには同じような建物ばかりで、どれが自分がいた建物か分からない。隠れた城下町の外への道を作るのにはうってつけの場所だった。 路地と言っても、すぐそこに大通りがあったので、街の音が聞こえた。 セルクが「ちょっと待ってて」と言うと、忙しい大通りに走っていった。そしてある屋台で売り子の女性と話すと、女性が黒いごみ袋をセルクに渡した。あれを少年にかぶらせるつもりらしい。 セルクが戻って来て、にっこり笑ってごみ袋を少年に見せた。少年は何も言わず
二人はドアを開けて中に入った。セルクがドアのすぐ左にあらかじめ用意されていただろうぶら下がった懐中電灯を手に取り、その灯りを頼りに暗い道を歩いた。 空気は薄かったが、歩いて5分位で前に白い淵の黒い長方形の光が見えた。少年は最初、その光景にどこか違う世界に行く扉なのではないかとふと思ったが、すぐにそれは鉄の扉の隙間から出ている外の光だと気付いた。 セルクは少年に「ちょっと肩離すね。」と言って、鉄の扉のノブを押した。ギィッと音がした。 扉の向こうは薄暗い小さな部屋だった。コ
少年はセルクに連れられて、城壁の周りを歩いた。ここでこのセルクという男の子は自分を見捨てると言うのに、いったいどこまで連れていって僕を捨てるのだろう。 そう考えていると、セルクは突然立ち止まった。そして周りをキョロキョロ見渡すと、少年から離れた。そして言った。 「ちょっと待ってて!」 そういうと高い城壁をペタペタと触り始めた。 少年はセルクを見ていた。何をしているんだろう。 するとセルクは城壁の一部を手で擦り始めた。黄土色の砂が辺りに舞う。そしてそこからグレーの石が
少年はその出会った男の子に肩を持たれながら、男の子の家があるだろう城下町へと歩いた。 「ここまで来るのに大変だったね。僕の家は門をくぐって直ぐだからね、頑張って。」 少年は申し訳ない気持ちだった。こんなに汚れている自分を担いでくれるなんて。普通の人は触りたくないだろうに。いや、近付くことすら嫌だろうに。 けれどその男の子は何の躊躇もなしに駆け寄ってきてくれて、自分の家で手当てしてくれようとしている。どんな家族と暮らしているんだろう。こんなに寛大な人間が存在するなんて。
助けてほしいのに声が出ない。 その男の子を追いかけながらふと思った。気付いてほしいけれど気付いてほしくないのかもしれない。 今の自分は見るに耐え難い格好をしている。ボロボロで煤だらけ。そんな人間を見たら自分だったら怖いと感じてしまう。そんな顔されたくない。見たくない。 けれどずっとこのままだと死んでしまう。死んでしまいたいと思っていたけれど、心の中ではそんなの一時のウソで、本当は何処かに自分だけの希望が在るんじゃないかと思っているんだ。 そしてまたふと、ある人の言葉を
焼けた町の隅にボロボロの服に煤だらけの少年が立っていた。 彼は焼けて焦げて煙だらけのその町をぼーっと見ていた。目は虚ろだけれど、涙の後がある。そこで何時間、いや何日も泣いていたのかもしれない。涙は枯れて、感じていた悲しみ、悔しさ、情けなさは自分の心臓の何処かに隠れてしまったのだろう。涙を流すだけでは心臓から出ていかない程の強い感情が。 少年はその町を背に歩きだした。虚ろな目はそのまま。どこに行くのかも分からない。ただ、あの焼けた町にはもう居られないと分かっていた。だから生