期待せずに期待する
高校3年生のときに、とつぜん不登校になった。校門をくぐるや吐き気をもよおし、保健室へ。ベッドに横たわりながら、わたしは前年の夏に観た映画『魔女の宅急便』の、ある場面を想い出していた。
映画館は大混雑。客の入れ替えの瞬間、わたしは劇場内にカバンを放り投げた。通路に落下したので、その付近に座っていたカップルにむかって「拾って席に置いてください!」と叫んだ。カップルが親切だったおかげで、わたしは無事、座って観ることができた。そして劇中、印象的な場面に遭遇した。いやちがう。そのときはとくに印象も抱かず、何となく観ていた。それはおよそ1年後に印象的になったのだ。
キキは当たり前のように空を飛んでいたのだが、あるとき急に飛べなくなる。どんなに頑張っても箒はただの箒であり、ジジは獣としての猫であった。
わたしは当たり前のように登校していたのに、ある日急に学校が怖くなった。教室に入ることができなくなった。学校は学校ではなくなり、巨大で不気味な、わたしにとって異郷の建造物となった。やがてわたしは保健室どころか、学校の敷地に入ることさえできなくなっていた。
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