鯨の夢

鯨の夢、と言えば旧約聖書のヨナを思い出す。神の命に背いたために鯨に飲み込まれたヨナは、三日三晩の後に神の意志により鯨の口から吐き出され、ニネヴェに入り神の言葉を伝えた…その三日三晩の、鯨の腹の中の闇は、ヨナにとって神の命を受け入れるための通過儀礼だった…

ぼくは細い堤防の上に立っている。堤防というよりは、塀の上、といった心細さである。幅のある大河と言っていい河川。その堤防はもうほとんどてっぺんまで河の水に浸かっているのだが、さしあたり、河は今穏やかだった。

そこへ突然、河の表面近くに鯨が現れる。もうぼくの足元まで巨大な鯨が迫っているではないか。生々しい恐怖。一気に波打ち、盛り上がる水に対する恐怖よりも鯨の口の中に吸いこまれるのではないかという恐怖が先立つ。ぼくは抗いようもなく水に押し流されていく。自分の意図によってはこの状況はどうにもならない。運命に押し流されていく、枯れ葉のような存在…水に翻弄され、鯨に飲み込まれることがきっと死と再生の通過儀礼を意味するのだろうが、ぼくはその先の展開までは覚えていない…

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